フォーリング・バック・イントゥ・ラブ Falling back into Love 💖💖

第40話 一人でもやり直せる

2019年1月・静岡


去年はいろいろあったけど、晴夏と真琴はようやく穏やかな正月を迎えられた。


今年は二人にとってある意味で本当の「新年」だ。


独身になって、仕事も辞めて、そして19年前に上京して以来、実家で生活することになった。


晴夏は往年の年末年始はあまり静岡でのんびり過ごせなかった。その理由は陸翔のスケジュールに合わせなければいけなかったことだった。専属マネージャーの時代では、もし彼が仕事をしていたら、彼の傍に付き添うことが必要があった。専属マネージャーのポジションから退けた後も、晴夏は年末年始のことでぎりぎりまで働いて、大晦日の深夜かあるいは元旦にようやく実家へ帰れることが多かった。


付き合っていた時、晴夏は何年間陸翔と一緒に彼の実家へ帰ることがあった。マネージャーとして自分の担当俳優を実家まで送ることは、誰にも怪しまれないから、だから長い間周りは晴夏と陸翔の本当の関係を知らなかった。しかし、今になって考えてみたら、あれは本当に可笑しかった。陸翔の実家は群馬県にあるのに、わざわざそこへ先に行って、それから晴夏は一人で静岡に帰るというのは本当に不便だった。その当時、彼への気持ちがとても強かったから、晴夏は多少の不便でも気にしていなかった。それに、陸翔の親たちはいつも晴夏のことを本当の娘のように可愛がっていたから、そこで過ごした時間はとても楽しかった。


陸翔と正式に別れる前の秋ごろ、晴夏は彼の実家へ挨拶しに行った。長年のお付き合いだし、それに陸翔のご両親に感謝の気持ちを伝えたかった。晴夏は別れたい理由などを具体的に言及しなかったけど、陸翔の親たちは二人の関係に何か変わったのを薄々感じていた。近年、晴夏は陸翔と一緒に帰ることがなかった上、彼の恋愛噂も絶えなかったことで、陸翔の親たちはこういう結末が予想していたかもしれない。晴夏が自分たちの家族になれないことに残念としか思えなかったけど、彼女の決定を尊重した。


晴夏は去年のクリスマスイブ以来、陸翔とは会わなかった、そして連絡もしなかった。事務所から辞めること、そして自分はこれから何をするかも最後まで彼に言わなかった。隠すつもりはないけど、明言する必要ないと判断した。晴夏はただ静かに彼の人生から離れることが一番いいと思った。


真琴にも慎也との関係を一旦整理ができた。


クリスマスに会った後、慎也は一人で東京へ帰った。二人は未希のことに関して同意したのは、未希と慎也の関係を修復させたいことだ。いくら親たちが離婚したけど、慎也と未希の血縁は変わらない。だから、今のままでは未希にとって良くないと判断し、話し合った結果、慎也と少なくても月に一度3人で食事することを決めた。


慎也は真琴とのことを諦めたわけじゃないけど、今の状態で真琴が自分を許すことは到底無理だと分かった。だから、せめて定期的に会うことで、彼女と未希のつながりがある限り、挽回のチャンスはいずれ来ると信じていた、それは例え何年かかっても。一方の真琴は慎也との関わりはあくまでも娘のためだと思って、復縁なんかは考えたくなかった。


真琴は、静岡へ戻る前に長年お世話になっていた建築デザイン事務所から辞めた。実は、彼女は静岡で個人建築事務所を立ち上げたいと言い出したのは去年の夏だった。丁度その時、晴夏も同じ考えを示して、実家へ帰ったら創作活動に集中するために、自分の事務所を作りたかった。そして、晴夏にはもう一つの夢があった。料理好きでそして実力もある晴夏は、地元に自分の店で好きな料理をお客さんに提供できる場所を作りたかった。二人が話し合った結果、力を合わせてお互いの夢を叶えるように一緒に頑張ることを決意した。


二人は地元にある海が見えるところで一つの物件を買った。その二階建てのビルを改装して、一階はカフェと真琴の事務所になっていた。そして二階では、晴夏の自宅兼事務所になった。土地と建物の購入、物件や創業のためのローンを組み、会社を設立するための手続き、内装の設計、そして工事のことで、二人は夏から頻繁に東京と静岡の間往復していた。すべての準備は12月中旬に終わって、カフェの営業は春ごろになる予定だ。先に事務所のスペースが使えるので、二人は正月休みの後、そこで仕事始めができた。


晴夏は数年前からマネージャーの仕事と並行して物書きの活動を始めた。最初は匠さんからの紹介で、劇団へ舞台の台本を提供しただけ。そのうち、昔務めた出版社にも時々記事やエッセイの仕事が来るようになった。自分の作品は本として出版されていないが、晴夏は今まで書いたものを徐々にネットで発表することになり、徐々に知名度が上がってきた。


元々の計画では、晴夏、真琴と未希は二階にある生活スペースで一緒に暮らすと思っていた。しかし、離婚を親に告げた時、真琴の父は娘にこう言った。


「未希と一緒に実家で暮らしてみないか?この家で君の母と二人だけで暮らすには、大きすぎるし、そして静かすぎだ。未希が居れば、この家に活気をもたらしてくれるじゃない?それに、あなたが仕事をしている時、俺たちは未希の面倒も見えるから」


真琴はこの提案に驚いた。今まで自分のことにあまり無関心だった父は、自らこういうことを言い出して、あまりにも不自然だった。でも、よく考えてみれば、父は近年いろいろ変わった。年を取ったせいか、それとも定年になってから考え方は変わったか、彼は昔と比べて人に対する態度がだいぶ丸くなった。かつてすごく厳しいというのに、今の彼は別人みたいに物腰が柔らかく、そして話し方も優しくなった。


後に母から聞いたが、父は自分の離婚に責任を感じていた。もし慎也に最初からあんな態度で接していなかったら、彼はそこまで仕事上の成果に執着しないかもしれないし、真琴と未希ともっと一緒にいられたら、離婚までは至らないだろう。実際に、未希が生まれたから、父は慎也に対する態度は少しづつ変わって来た。だけど、その変化は本当に気づかれにくく、だから慎也と義父の関係は全然改善できてなかった。


慎也との関係がダメになったけど、その代わりに自分の父と和解ができた。真琴は父に対して、憎しみと愛情が混ぜていたような複雑の思いをしてきた。でも、離婚の後実家に帰ってきたら、真琴は父と二人きりで散歩もできたし、1対1の会話もできるようになった。そして、彼は自分の孫娘を溺愛するところを見て、真琴は目の前にいる父と昔の彼が別人だと思っていた。


晴夏は最初から実家に暮らすとは考えていなかった。なぜなら、晴夏の父・泰輔は6年前に再婚した。その相手・由里子ゆりこさんは泰輔の中学時代の初恋相手だった。二人は当時両想いだけど、彼女は親の都合で、中二の時静岡から東京へ引っ越した。その後、泰輔は晴夏の母と出会い、そして子供ができて結婚した。


由里子さんは大学から卒業した後、就職先での先輩と結婚したが、その旦那さんは3年後に事故で他界してしまった。傷心した由里子さんは、10年ほど前に静岡へ帰って来て、実家の花屋を継ぐことになった。ある日、泰輔はその行きつけの花屋で担当作家のために花を買おうとした時、由里子さんと再会して、連絡取り始めた二人はしばらくしてから付き合い始めた。それから数年後、結婚を決まった時、泰輔は初めて彼女を晴夏に紹介した。


晴夏は泰輔が幸せを掴めることを誰よりも望んでいたから、もちろん彼と由里子さんの再婚を大賛成だった。二人は結婚後晴夏の祖父母と一緒に実家に住んでいたので、晴夏は二人の邪魔をしたくないと思い、自分の一人暮らし歴も長かったし、仕事上の便利も図って、店の上にある生活スペースで暮らすことを決めた。



1月のある夕方、真琴は自分のデスクで仕事をしていた時、晴夏は紅茶を運んできた。


「すこし休憩しよう」

「ありがとう。カフェのことをしていたの?」

「まあね、メニューのことを考えて、そしてどんな飲み物が合うかって」

「いろいろ大変だね」

「好きでやってるから、平気よ。マコこそ、仕事はどう?」

「すでに紹介でもらった案件はいくつあるから、滑り出しとしては悪くないと思うよ。ハルは?」

「出版社からの依頼はあったし、そして匠さんのところも脚本の仕事が来てるから。しばらくは大丈夫でしょうね」

「しかし、半年前まではこういう日が来るとは思わなかったね」

「確かに、夏ごろから準備していたが、まだまだ迷っていたが、北海道の旅行でようやく決意をしたおかげで、今はこうして心が楽になった」

「後悔してない?」

「何か?」

「陸翔と別れたこと」

「もう後戻りはできないよ、だから前へ進むしかないから。マコは?だって慎也さんとこれから定期的に会うでしょう?」

「会っても何も変わらないから。それに、彼と会うためではなく、未希に会わせるということなんだから」

「だよね」

「だから、これからは新しい道を歩みたいの。一人になっても19年間できなかったことと失われたことも取り戻したいの」

「そうね、もう振り向かいから、そうしよう」


二人はカップにある紅茶で乾杯して、お互いを見つめて微笑んでいた。

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