第28話 遠回りしても構わない
窪田は自分が今身に着ている服を何度も見た。
大雨の中大学からここまで走ってきたから、真琴はびしょ濡れになった窪田にこの服を渡し、風邪を引かないように早くシャワーを浴びてと促した。
ここは真琴と晴夏が一緒に住んでいるところなのに、何でこんな男用のトレーナー、パンツと下着はあったの?まさか、誰がここに寝泊まりしたか?いや、これは陸翔のものかもしれない、だって彼と晴夏は夏ごろから付き合い始めたと聞いたし。だけど、真琴もここに住んでいるから、陸翔は頻繁に寝泊まりしないはず。
窪田はシャワーを浴びた後、夕食ができるまでリビングに座っていた。真琴はキッチンで準備をしながら、彼のことを何度もチラッと見た。
まさか、窪田はこの嵐の中に家まで押しかけてきた。しかも、“俺たちのことで話がある”という言葉を聞いて、いったい何を話したい?よっぽどの用事があるかな、でも真琴には全然ピンと来なかった。
夕食の準備ができて、真琴は窪田に食卓へ来るように言った。
「晴夏は今日遅くなるって言ったから、元々自分で食べるつもりです。シンプルなものですけど、良かったら、食べてみてください。」
「いただきます。」
「いただきます。」
味噌汁を一口飲んだら、窪田はすごく幸せな気持ちになった。やっぱり真琴の手料理の味が愛しくて、こんな寒い日に身も心も温まった。美味しそうにご飯を食べる窪田を見て、真琴はすごくうれしかった。しかし、食事中の二人は肝心な話をせず、ただ無言のまま夕飯を食べた。
片付けたら、二人は食卓を挟んでお茶を飲み始めた。窪田はようやく真琴に話をかけた。
「最近、部活に来ないだな?何かあった?」
「まさか、これを聞くために来たんですか?」
「それだけじゃないけど…話を逸らすなよ。何かあった?」
「忙しいから、しばらく休みます。」
「家にいるのに、忙しいには見えないけど。」
「目に見えないところで忙しいです。それに、今日は大雨注意報も出されていたので、早めに帰りました。そもそも先輩は何でこの理由を知りたいですか?」
「連日部活をさぼってから、ろくな理由はないじゃないかと思って。」
「先輩は部長ではないですから、だからほっといてください。」
真琴は窪田の話にイラっとした。本当に大きなお世話だね、私たちは関係ないというのにと思った。窪田はちょっと焦った、やっぱり直接に話さないといけなかった。
「最近、男と学校内で一緒に歩き回ったって、部員たちが話していた。恋愛中だからって部活を放置したか?」
「誰と一緒にいるって、私の自由です。それに、誰に説明すべき責任はありません。だから、他人に何を言われてもどうでもいいです。」
「俺には説明しなくてもいいわけ?」
「何で?」
「つい最近まで俺のことが好きとか散々言っただろう?そう簡単に他の男に乗り換えるか?」
これを聞いた真琴はドッキとした。これって、まさか嫉妬?いやいや、ありえないから、やっぱり期待しない方がいい。でも、どうしても窪田の本心を試したくなった。
「先輩はお忘れしたかもしれないけど、去年の夏、淡路島で、私を断りました。告白もまだしてないのに、やんわりと~拒否されました。だから、私は諦めてもいいじゃないですか、どうせ思いを応えつもりはないでしょう?」
「この前までまだ宣言しただろう?気持ちを諦めないとか言って…」
「でも、いつまでも続けるなんて言ってませんけど。いつストップするは私次第です。」
「で、今はもう諦めたか?」
「私に諦めて欲しいですか?」
真琴はまっすぐに窪田の目を見て、二人の間に張りつめた緊張感が漂っていた。しかし、窪田は何も話さなかった。呆れた真琴は席から立ちあがって、話を続き気は無くなった。これを見た窪田は手を伸ばして、真琴の手首を掴んで座ってに言った。
「本音を言わないなら、この話を続けても意味ありません。」
「答えるつもりだから、そんなに焦るな。」
「いつ答えするつもりですか?」
「あなただって俺の質問に答えてないだろう。」
「もういいです。傘を貸しますから、先輩はもう帰ってください。それと、服は後日返してもいいですから、そのまま着て帰ってください。」
本当に追い出されるかもしれないから、窪田はようやく決心がついてこう言った。
「他の男のところへ行くな。俺と一緒にいて欲しい。」
真琴は自分の耳を疑った。これって告白なの?
困惑した真琴を見て、窪田は彼女の隣の席に移し彼女の両手を握った。
「姫路で会った時から、いやもっと前かも、あなたのことを好きになった。しかし、あの時はまだ亜実を付き合っていたから、あなたへの気持ちを無視したくて、だから淡路島であなたに俺のことを期待するなと言った。それに、亜実と別れた後、いろんな噂が出回ったし、それにすぐあなたに告白したら、タイミング的には悪いと思って。でも、この気持ちはもう無視できないまで膨らんでいた。あなたに本当のことを言わないと、どこかへ行ってしまったではないかと心配した。」
「だから、この大雨の中私に会いにくれたですか?」
「ああ、だから俺と…」
窪田はまだ話の途中だが、真琴はいきなり彼の唇に軽くキスした。離れた時、真琴は少し恥ずかしそうに窪田の顔を見た。
「バカ、俺はまだ話の途中だろう…」
「嫌ですか?」
「そういうことじゃない…」
窪田は深く息を吸って、自分の両手が真琴の肩を掴んだ。
「真琴、俺と付き合ってください。」
これを聞いた真琴は黙り込んで、そしたら目から涙が零れた。まさかこんな反応が来ると思わなかったから、窪田は焦っていたが、自分の指で彼女の涙を顔から拭いた。
「何で泣くの?嫌なの?」
「だって…この言葉が聴けるなんて、一生ないと思いましたから。」
「びっくりさせないでよ。さっき俺にキスしたのに、今は付き合いたくないなんて言わないでくれ。」
「そんなこと言ってないです。」
「じゃ、返事を聞かせて。」
「知ってるくせに。」
「ちゃんと言わないといけないから。」
「…もちろん、イエスです。」
これを聞いた窪田は真琴を抱きしめて、彼女の耳に囁いた。
「これからよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「まず、敬語をやめましょう。」
「はい~」
「苗字で呼ぶな、二人きりの時は名前で呼べ。」
「これはね…慣れるまでちょっと時間かかりそう…」
「今から練習すれば。」
「じゃ、慎也さん…恥ずかしいよ。」
「さんは要らないだろう。」
「照れるから、でも少しづつ努力するよ。」
外の嵐はまだ続いていたので、真琴は窪田にもたれてソファに座っていた。二人の手はしっかり握り合っていた。
「最近はいったいどんなことで忙しくなったか?」
「ああ、それね、大したことないから。」
「今更まだ隠したいか?」
「だって、あなたが勝手に誤解したから、今になってちょっと言いにくいって…」
「いったい何?」
「うちの教授がある企業主催の建築デザインコンテストに参加しないかって誘われて、だから同級生たちとチームを組んで、最近はそのコンテストの準備をしていた。登山部の人たちが見かけた男は多分うちのチームにある一人だと思う。」
「何だ、そういうことか。」
「安心した?恋のライバルじゃなくて?」
「俺以外の男に好きなれないでしょう?」
「いったいどこから来たの、その自信?」
「それともう一つ、この服は誰のもの?ここに住んでいるのは晴夏とあなただけでしょう?」
「ああ、これは晴夏パパのアイディアだ。女子二人がここに住んでいるから、私たちの安全を心配していた。それで引っ越しした際、私たちに男性のスウェットと下着を渡された。時々これらを私たちの洗濯物と一緒にベランダに干して、まるでここに男も一緒に住んでいるように見せかけるためだ。」
「確かにいいアイディアだな。てっきりこれは陸翔のものだと思った。」
「他の男のものだと疑ったでしょう?慎也って、嫉妬深いだね。」
見通された窪田は真琴を自分の方へ引き寄せてキスした。
「そうさせたのは君だから。覚悟してよ、俺の気持ちをしっかり受け止めろ。」
イチャイチャした恋人たちが知らないのは、二人のやりとりは誰かに聞かれてしまった。
実は5分ほど前、陸翔は晴夏を家まで送るために一緒に帰って来たが、二人は玄関先でリビングにいた窪田と真琴を見かけて、すぐに状況を理解した。陸翔は晴夏の手を引いて、なるべく音を立てずに彼女たちの家を出た。
「どうやらあなたは今夜帰れないみたいだな。」
「これってそんなにうれしいことなの?」
「まあ、窪田先輩のおかげで、あなたを持ち帰りできるから。」
「何なのよ、そのいやらしい言い方!」
「まあ、俺の家以外に行くところはないだろう?しかも、この大雨で。さあ、一緒に帰りましょう~」
そうニコニコしながら、陸翔の腕は晴夏の肩に回し、二人は同じ傘の下に入って歩き出した。
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