第27話 冬の嵐がもたらしたもの

あと数週間で冬休みだ。


窪田は最近真琴と会ってなかった。左腕のケガが治った後、真琴からの連絡が途絶えてしまって、部活の時に会っても二人きりで話してなかった。まるで、彼のケガが治るまでの一週間はただの幻のように。


窪田と神田の破局はすぐ学校の話題になった。二人は法学部の美男美女カップルとして知られていたし、神田は演劇部の主役クラスの女優でもあったから、注目されていたのは当然だった。しかし、窪田自身は周りの人にこのことを打ち明けなかったから、どう考えても情報が漏れたのは神田の方からだ。それに、出回った破局理由はすべて彼に非があったようで、心配した友人たちは彼に事実確認までをした。


だけど、窪田にとって周りがどう思っても構わなかった。彼は一番気にしていたのは真琴の考えだった。しかし、彼女と連絡を取れていない以上、それを確認したくてもできないままになった。


一方の真琴は同じ噂を聞いたが、窪田のことを迷わず信じていた。淡路島で一緒にいた時、本人から神田との関係は少しギクシャクしたことぐらいは聞いた。それに、浮気などの破局理由が出回った時、さすがにこれは事実無根だと考えた。窪田は浮気なんかしなかったし、もちろん彼は神田の女優デビューの邪魔をしたのも信じられなかった。


だけど、真琴は心配していても、窪田に連絡をしなかった。余計なことをしたら、彼の迷惑になると思って、だから自分からは何もしなかった。しかし、ある日窪田は登山部の部室の前で、真琴の声が聴きました。


「同じ部の仲間として窪田先輩のことを信じるべきじゃないですか?だって、彼はどんな人なのかは私たちは一番分かっているでしょう。あんな噂は明らかに先輩を陥れようために拡散されたって。この時こそ、先輩を信じてサポートすべきでしょう?」


状況は大体分かりました。多分、登山部の部員の中に、誰かが窪田にまつわる噂を信じてしまい、それで真琴は彼のために必死に弁明した。彼女の姿を見た窪田はとても感動した。直接自分に何も言えず無関心みたいに見せかけて、彼が知らないところでこんなに頑張ってた。


この瞬間、窪田は確信した。真琴が自分に対する思いはどれほど強いか、そして彼女はどんな時でもきっと自分の一番の味方になるだろう。


それと、自分も彼女に対する気持ちをもう否定できなくなった。


しかし、神田と別れてすぐ真琴に告白し付き合いを求めるってさすがに良くないと思った。一番心配していたのは、真琴は彼と神田の破局原因として思われてしまうことだから、やっぱりもう少し待っていた方がいいと思った。


幸いに、窪田と神田の件は年末前に話題ではなくなった。大学内で他に新しいビックニュースが発生したので、注目はそちらへ行ってしまった。それに、神田自身も周りに別れ話は自分から持ち掛けて、理由はデビューに関係あるからと説明して、だから事態はこんなに早く収めた。


年末年始が過ぎて、新しい年がやって来た。真琴から窪田へ新年あいさつをメールで送った。だけど、窪田が期待したようなメッセージじゃなかった。


「先輩、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。」


これって、皆に送るようなスタンダードあいさつじゃないか?何も感情が入ってない上に、自分の名前も書かなかったことで、窪田はちょっと腹が立った。だから、彼の返事はまるで拗ねた子供みたいにただ一言だった。


「あけましておめでとうございます。」


一方の真琴はこの返事を見て苦笑した。窪田の素っ気ない返事は予想したけど、本当に一言だけで、しかも苗字すら書かなかったメールを見て、真琴は深いため息をした。窪田に余計なストレスをかけないために、なるべくみんなと同じ対応で彼と接した。だから、真琴は悩んだ末でああいう新年あいさつを送った。本音で言うともっと書きたかった、もっと自分の気持ちを伝えたかった。


もちろん、二人は相手の気持ちを知るはずがなかった。


登山部の新年会は部室にやることになったので、窪田は真琴とそこで久々に会えることを期待していた。しかし、彼女は珍しくそれに出席しなかった。周りに聞いても、彼女の欠席理由が知らないけど、一応部長に事前連絡したぐらいはあった。


さらに異変を感じたのは、真琴が一月にあるすべての部活動も冬登山も来なかったことだった。前は一度も欠席したことがないのに、窪田は真琴に何かあるか心配したが、自ら連絡しようとしなかった。どうせ彼女はすぐ戻るだろうと思って、自分から連絡しなくても、彼女はきっとまた部活に参加することになるから。


彼の不安と不満がピークになったのは二月に入った時だ。


部活のメンバーが会議を終えて雑談したところ、急に真琴の名前が上がってきた。


「あのさ、何で最近岸は来なくなったの?まさか退部したんじゃないよね?」

「部長に聞いたが、どうやら用事があるみたいで、しばらく来れないって。」

「どんな用事があるの?まさか彼氏できたの?」

「どうしてそっちに考えたの?」

「この前、工学部のところで岸と会ったんだよ。長身で結構イケメンのやつと一緒にいた。」

「一緒にいただけで彼氏じゃないでしょう?」

「一回ならともかく、少なくとも三回ぐらい見たよ、しかも二人きりだ。」

「三回も?」

「そう、食堂で二人が仲良くご飯を食べていた。そして、カフェでコーヒーを飲んでいた。」

「でも、デートで部活に来ないなんてありえないでしょう?」

「恋愛している人は恋人と一緒にいたいのは当たり前だから、時間はいくらあっても足りないだ。」


この会話に参加しなかったし、興味も見せなかったけど窪田は話の内容をしっかり把握していた。どうやら、真琴は見知らぬ男とキャンパスで出歩いていた。そして、二人が一緒にいたところを何人も複数回目撃した。


正直、窪田にはこんなことで怒るような立場じゃなかった。彼氏でもないのに、真琴はどこの誰かと一緒にいても、彼は干渉することができなかった。それでも、彼は散々真琴から好意を示されたので、やっぱり彼女の傍に他の男がいるってことに気に入らなかった。


窪田は部室から出た時、朝から降り始めた雨はまだ止む気配はなかった。空は厚い雲に覆われたので、今はいつものこの時間帯より早く暗くなっていた。まるで自分の今の心境みたいに、すごくモヤモヤで憂鬱の感じだった。


窪田は自分の携帯を取り出して、真琴の番号をかけた。電話はつながったけど、留守電メッセージを聞かせれた。このままにはダメだ、窪田は直接真琴に会いに行くと決めた。


傘を持っていないせいで、窪田は大雨の中で真琴の家まで走った。大学からそれほど遠いではなかったけど、さすがにこんな嵐の中でびしょ濡れになるのは当たり前だ。大慌てて真琴の家に到着した窪田は、チャイムを鳴らすことを躊躇した。いったい真琴に会って何を話すべきか、今更だけどやっぱり考えてから出直した方が良かったかも。でも、彼女は誰かに取られるかもしれないから、今動かないといけないから、そういうことを考えたら、じっとしていられないだ。


覚悟をした窪田はチャイムを鳴らして、ドアの向こうから慌てていたような足跡の音が聞こえた。真琴はドアを開けて、びっくりした表情で窪田を見ていた。


「先輩、どうしたんですか?こんな大雨でここに来るって、しかもびしょ濡れです。」

「俺たちのことで、大事な話があるから。」

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