第26話 程よい距離感
宣言された通り、真琴は本当に自分の思うように窪田と接した。
窪田の左腕がケガしたので、真琴は回復までの一週間の間、動きがうまく取れない窪田のためにいろいろした。彼女は彼の家を訪れた翌日、大きな箱を彼の家まで持ち込み、そしてその中にあるものを彼の冷蔵庫やキッチンにある棚に入れた。
「料理できないから、レトルト食品や缶詰などを買いました。後、スーパーからサラダと果物も冷蔵庫に入れました。栄養たっぷりのものを食べたら回復のためにもいいと思います。」
真琴の説明を聞きながら、窪田は思わず笑顔になった。もちろん、彼女はこんなことをしたのはあくまでも彼への罪悪感を感じたから。しかし、買ってくれたものから見たら、自分の食の好みまで把握したみたいで、窪田は正直驚いた。真琴と知り合ってから一年未満なのに、亜実より自分のことちゃんと気にかけていたかもしれない。
だけど、真琴にお茶でもどうと誘ったら、彼女はすぐ断った。
「私たちは程よい距離感を保っている方がいいと思います。私の気持ちはどうであれ、あなたにそれを押し付けたいつもりはないです。それに、こんなことをやるのは先輩に申し訳ないを感じるから、ケガまでさせたので。だから、深く考えないでください。」
こう言い放った後、真琴はすぐ帰った。一人に家に残された窪田は初めて寂しく感じた。
数日後、真琴はまた窪田の家に現れた。今回は大きなカバンを持ってきて、中にあるのはいくつかの食器箱だった。中身は彼女の手料理だった。
「そろそらレトルト食品と缶詰に飽きったと思って、数品のおかずを作ってきました。インスタントライスも買ってきましたので、チンしたらおかずと一緒に食べれます。後は果物もちゃんと食べてください。あの、私の料理にそんなに期待しないでください。味は晴夏と比べられないだけど、一応食べられるレベルと思います。食器箱を返したい時、私に連絡してこっちまで取りに来ます。学校まで持っていかないでください、変な噂が立てないように気を付けないといけません。」
そう言った真琴はまた用が済んだら、ササっと帰った。窪田に口を挟む機会すら与えなかった。
こんな真琴を初めて見た。自分のことを気にかけていたが、同時に自分を突き放したように感じたので、窪田の気分はあまりいいと言えなかった。
だけど、これは亜実の対応と比べたらまだマシだと思った。
ケガしたことを翌日メールで亜実に知らせたが、彼女はただ電話で彼の状況を確認した。それから丸二日後に家へ来て、持ってきたのは花束だった。別に病院にいるわけでもないし、お見舞いするならせめて食べられるものを持ってきた方がいいと思った。窪田の家は狭いのせいか、普段はあまりここに来ることめったになかった。そのお見舞いの日も、ただ30分ぐらい残って、用事があるから早く家を出た。
窪田は分かっていた。彼女が忙しいかった理由は何だったか。
陸翔と同じ事務所のオーディションを受けた亜実にもデビューのオファーを受けた。もともと女優志望強かった亜実にとって、これは絶好のチャンスなので、逃すわけにはいけなかった。それに、法学部に入ったのは、あくまでも親の期待と意思に沿ったことなので、法律関連の仕事をするつもりは一切なかった。だから、司法試験を受けるつもりもなかった。今すぐデビューしても、亜実の中退は親が許されませんので、せめてちゃんと卒業することを目指した。
亜実の考えは付き合って始めたからもう知ったから、別に彼女を止めるつもりはなかった。しかし、事務所から出された「独身条件」に気に入らなかった。窪田の考えでは、秘密交際を受け入れるつもりだが、亜実はデビューのため、彼に別れを切り出した。二人はこの件で何度も喧嘩をして、関係は夏休みからすっかり冷えていた。だから、窪田がケガしても、亜実の態度はああいうふうに冷たかった、まるで窪田はもう彼女と関係ないみたいだ。
今回の件で亜実の対応に完全に失望した。それで、亜実が来た翌日に彼女に電話をした。
「あなたが望む通り別れよう。今までありがとう、そしてデビューおめでとう。」
電話の向こうの亜実は何も言ってなかったから、窪田はすぐ電話を切った。
だけど、本音で言うと、亜実と別れてあまり悲しんでいなかった、むしろすっきりした。前はすでに問題だらけだし、これですべてが解決したと窪田は自分に言い聞かせた。
一方の真琴は必死に平然の顔をして窪田と接した。どうせ彼のことを未だに諦めないなら、いっそのこと残りの時間を自分が好きのように使いたいと思った。だって、窪田はもう三年生だし、来年の夏以降は登山部に顔を出さなくなり、いや多分もっと前からいなくなるかもしれない。だって、彼は在学中司法試験にチャレンジしようとしたら、登山部と関わる場合じゃなかいでしょう。二人の間の唯一のつながりである登山部で会わなくなったら、彼のことも忘れると思った。だから、その期限が来るまで、彼と程よい距離を保って、嫌われない限り、まだ彼と触れ合うことができるの方はいい。
少しずつでいいから、真琴は窪田を忘れられる作戦を始めた。
ケガが治ったから、真琴は自ら窪田と連絡を取ることを我慢した。どうせ向こうからこっちに用がない限り、絶対連絡してこないし。メールと電話がないなら、彼のことを思い出させない。部活では普通のように振舞っていたが、二人きりになる時は彼のことを聞かないようにし、自分のことも彼に言わなかった。これは彼への関心を薄めたいという狙いで、それに自分からアプローチしたいような誤解を避けたかった。
晴夏は真琴の計画を聞いた時、拍手をした。
「やっと元のマコに戻ったよ、カッコイイじゃん!」
「どこがカッコイイ?だってまだ先輩のことを諦めてないから。」
「まあ、考え方を変えよう。期間限定の恋をするつもりでいいよ。どうせ、来年の夏以降は会えないから、それまでマコが好きなようにして、時間になったら、ストップ!それまで、心の準備もして、少しづつ離れて、きっと大丈夫だから。別に悪い考えだと思わないよ。」
晴夏の言葉で真琴は自分がしようとしたことを違う角度から見えた。何だか、すごく心強い応援だねと思った。
こういう扱いされた窪田はだんだんイライラしてきた。亜実に振られて同然の別れでそんなに不満ではないのに、真琴の急激な変化に気に入らなかった。でも、今更真琴に何を言えばいいか分からなかった。だって、自分から彼女の好意を断ったし、今となって友達になってくださいさえも言えなかった。真琴に対して気持ちが変わったって自覚したけど、自分にはまた誰かと恋愛するような余裕がなかった。来年は大事な一年だから、真琴とは付き合えないし、待たせるのもできない。
しかし、窪田の考えを急激に変えさせた出来事が発生してしまった。
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