第23話 約束なんていらない
真琴は初めて窪田の家に入った。
今まで、真琴は何度も窪田がどんな家に住んでいるのかを想像していた。実際に入ってみると、想像以上空っぽだった。物欲がなさそうな窪田の家は多分あまりものがないと思っていて、それに賃貸の家だからかもしれないが、装飾など個人が好きそうなものが一切飾っておらず。家具も窪田が好きそうな色ではなく、多分大家さんかあるいは他人にあげられた古いものみたいだった。小さなアパートにあるのはベッド、二人用のソファ、勉強用の机、コーヒーテーブルとクロゼットだけ、そして法律関連の本や資料はきれいに机の上に置いてあったから、散らかっているとは言えない。明らかに料理をしない男のキッチンには、食器や料理道具や調味料などあまり揃っていなかったし、さらに酷いなのはビールや水しか入っていない冷蔵庫だ。生活感があまり感じられないところだった。
自分のアパートをこんなふうに真琴に見せられるということを予想してなかったので、窪田はちょっと恥ずかしいそうに真琴に言った。
「ごめん、まだ片付けてないけど。」
「別に散らかっていないし、心配しないでください。それより、冷蔵庫は空っぽだけど、食事はいつもどうしますか?」
「外食かコンビニ。美味しいかどうかは別にこだわらないし。」
「本当に呆れましたよ。じゃ、まず私は近くのコンビニへ行って、何かを買ってきます。」
「そんなことしなくてもいいよ。適当に何かを食べるから。送ってくれてはもう十分だ。」
「そんなに大したことはないから、すぐ帰ります。それより、先輩はやっぱりお風呂に入った方がいいよ、さっき山で服を汚したし、それに後で薬を塗りますから。」
しかし、窪田はちょっと困っているような表情を見せた。
「お風呂に入る前に、まず服を脱がないと、でも左腕はあまり上がらないで…」
「じゃ、手伝います。」
窪田が反応できる前に、真琴は素早く窪田の登山ジャケットをゆっくり脱がした。Tシャツを脱ごうとした時、窪田は焦って彼女の動きを止めようとした。
「いきなり男の服を脱ぐって、こっちが恥ずかしいだ。」
「あなたは考えすぎ。私のことを看護師として見ていればいいです。それに、上だけを手伝いますから、下の方はご自分でやってください。」
そう言った真琴は窪田のTシャツを脱いで、それを彼に渡した。
「今からコンビニ行きますので、私が帰ってくる前にお風呂を済ませてください。それに、ちょっと鍵を渡してくれませんか?コンビニから帰って自分でドアを開けます。もちろん、後でちゃんとそれを返すつもりです。」
窪田はテーブルにある鍵を真琴に渡した。
「じゃ、またあとで。」
「はい、行ってきます。」
真琴は自分のカバンから財布を取り出して、近くのコンビニへ向かった。彼女の後姿を見ていた窪田は思わず微笑んでいた。
窪田が知らないのは、真琴はどうしてそんなに慌ててコンビニへ行こうとした理由が彼にあった。はじめて窪田の体(上半身だけど)を見てしまった真琴は恥ずかしくて、その場から逃げたくなった。前はバイクに乗った時、窪田の体をタッチしたことはあったけど、今回は二人きりの空間で彼の体を見たから、真琴は自分の赤くなった顔を彼に見せたくなかった。
窪田は自分のせいでケガをしてしまったから、真琴は責任を感じて、せめてこの一週間ぐらいの間、なるべく生活に支障が出ないように窪田を助けたかった。だから、これはあくまで罪悪感による償い行為で、彼に近づけようという下心ではなかった。
真琴はコンビニからお弁当や飲料水などのものを買って来た時、窪田はすでにシャワーを済ませた。しかし、自分で服をうまく着れないせいで、また上半身裸の状態になった。仕方なく、真琴は彼に服を着ることを手伝って、そして買ってきた弁当をテーブルに出して、残りの食べ物や飲み物を冷蔵庫の中に置いた。
二人は一緒に夕飯を食べ終わった時、窪田は先に話をかけた。
「今日いろいろありがとう。こんな時間までになってしまった、すまない。」
「私のせいでケガしたので、これはやるべきことです。あの、神田先輩に連絡しました?」
「どうして?」
「先輩がケガしているのに、彼女に連絡しないですか?」
「連絡してどうする?」
「看病とか、お世話するとか?」
「亜実はそういうことをするタイプと思う?」
この質問は予想外だったので、真琴はどう答えするかは分からなかった。
「そんなに動揺しなくてもいいんだ。」
「神田先輩に連絡したら、すぐ駆けつけるでしょう。」
「どうだろうな?喧嘩したなのに?」
「どうして?」
「まあ、いろいろあって。」
「それでも連絡しないなんていけないだから。」
「その話はもうやめて。」
「腕があまり自由に動けないのに、一人でどうしますか?」
「何とかなる。」
真琴はその答えに呆れた顔をした。自分で服をうまく着れないくせに、あんなに強がっている意味はないと思った。
また沈黙に包まれた二人は、目を合わせずに視線は別々のところへ向けた。そしたら、窪田はまた話をした。
「岸、この前…淡路島で話したことで気分が損ねたなら、謝る。余計な話をしたかもしれないが、それは…」
やっぱりあの話題が来たか、真琴は深呼吸してからこう答えた。
「あの話に隠された意味は分かります。私に過剰な期待をさせないことですね。」
「分かればそれでいい。」
「でも…言っとくけど、私はあなたから何の約束とか望んでいないし、あなたに何も期待していません。だから、自分の気持ちをまだ伝えなかったけど、先に拒否されたというのは確かに気分は良くなかったです。」
窪田はただ黙って真琴の話を聞いていた、表情があまり変わっていなかった。
「私の気持ちは私で何とかします。応えなくてもいいし、無視されてもいいし。でも、誰かにどうするべきかを言われたくありません。だから、私は私が思うように行動します。なるべくあなたに迷惑をかけないですから、私をほっといてくくればいいです。」
「それはどういう意味?」
「そのままの意味です。さあ、片付けよ。」
真琴はそう言って弁当の片付けを済ませて、その後窪田の家を後にした。
困惑した窪田は真琴の反応に理解できなかった。もうはっきり自分のスタンスを彼女に伝えたのに、なんでいきなり自分のやりたいようにやるという宣言が出てきた。
今回の件で真琴はようやく分かったことは、自分はどうしても窪田のことをほっと置けないだ。彼は自分のことを好きになれなくてもいい、自分が彼と結ばれなくてもいい、ただ自分がしたいことをすると決めた。少なくても、彼のケガが治るまで彼のために何でもやりたい。報われなくても平気だ、そばにいるだけで満足できる。もちろん、彼に迷惑をかけない範囲でやる、ちゃんとその一線を越えないように。自分の気持ちが消せないなら、思うようにやるの方が楽だ。周りから見てもばかばかしいかもしれないが、真琴は自分の心に従うことにした。
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