第20話 それぞれの夏休み(5)
一番見たくない場面を見てしまった。
晴夏は楽しそうに牧野部長とカフェで話していたところ、どんな人が見ても明らかにただの友達ではないと思うだろう。
陸翔は芸能事務所のオーディションを受けた後、晴夏と会いたかった。彼女の携帯にかけても全然出ないので、家に行こうと思った。まさかそこへ向かう途中この二人が一緒にいったところを見てしまった。
千葉での合宿以来、陸翔はずっと牧野部長のことを警戒していた。自分は晴夏への気持ちをはっきり気づいたから尚更そうだった。もちろん、牧野部長は晴夏へ異性としての気持ちがないように見えたが、晴夏はどう思っていたが分からないので、不安になるのは当たり前だった。晴夏に自分の気持ちを気づかせてようにいろいろやったが、彼女はずっと消極的な態度かあるいは知らないふりをした。そういうわけで、陸翔の不安はどんどん高まっていた。
その場から離れたくないけど、陸翔は晴夏の家の前で彼女の帰りを待つことを決めた。自分は晴夏の彼氏でもないのに、そのまま二人の前に現れても、立場的に何もできない上、晴夏の機嫌を損ねる可能性があったから。でも、晴夏を待っていた30分ほどの間は陸翔にとってとても落ち着かないし、イライラする気持ちはどんどんエスカレートする一方だった。
しかし、晴夏が現れた途端、陸翔はその気持ちを必死に抑えて、彼女にいつもを笑顔を見せていた。
「遅いよ、何で電話が出ないの?」
「ええ、リク?何でうちの前に?ていうか、私たちは約束あったの?」
「ないけど、昨日は言ったじゃない?オーディション後に連絡するって。」
「ああ、そうだったね。電話…電源を切った、ごめんね、気づかなかった。夕飯はまだでしょう?」
「まだだけど、今はペコペコ。」
「よければ、家にまだ材料があるから、お詫びとして私は何とか作るよ。それに、オーディションの話も聞きたいし。」
「飯を奢れるならいいけど。」
二人は晴夏の家に入って、彼女はすぐ自分の荷物をキッチンテーブルに置いた。その中、さっきのカフェのケーキ箱があった。陸翔はそれを指して晴夏に聞いた。
「そのカフェに行ったの?」
「そう、さっき牧野部長の奢りでアイスティーとケーキを頂いたよ。そこのケーキは美味しいから、マコにも食べさせたいと思ってテイクアウトをした。リクはケーキを食べたいの、食後のデザートとして?」
「いいの?俺の分も買った?」
「私の分はあなたにあげるから、大丈夫。」
晴夏は手を洗いながら、陸翔にそう言った。さっきまで機嫌が悪かったけど、晴夏は何も隠さず、自分が牧野部長とあのカフェにいたことを正直言ってくれたから、陸翔はすこしうれしかった。
「手伝うか?」
「いいから、邪魔になるので、そのままリビングでテレビでも見て。」
「邪魔って、この前真琴の誕生日会の時手伝ったじゃない?」
「また喧嘩になるから、やめとく。」
「で、何で牧野部長と一緒にカフェに?」
「クリエイティブチームの会議後、冷たいお茶を飲みたいから。」
「牧野部長といつも話しているみたいだな、いったいどんなことを?」
「内緒だよ~ハハ」
「ケッチ。」
「とにかくキッチンから出てて、すぐ夕飯を作るから。」
仕方なく、陸翔は言われたままキッチンを出た。しかし、リビングからキッチンにいた晴夏をずっと見ていて、何だか微笑ましい光景だなと思った。
それにしても、牧野部長との会話の内容はすごく気になっていたが、どうやら晴夏はそれを言わないつもりだった。これだけはちょっと気に入らないなあ、陸翔は探りたいけど、今のところは辞めた方がいい。
晴夏が宣言した通り、たった20分でサラダ、カボチャスープときのことベーコンのアーリオ・オーリオを作った。感嘆した陸翔の表情に思わず笑い出した。
「そんなに驚いたの?」
「何でそんなに早かった?3品まで作り上げて。」
「パスタは一番時間がかかるけど、サラダは調理時間必要ないし、カボチャスープは今朝作ったものを温めるだけ。」
「何だ、本当に魔法使いだなと思ってた。」
「文句を言うなら食べなくてもいいけど。」
「はいはい、いただきます。」
晴夏の料理はいつ食べても美味しい、陸翔は本当に毎日食べられたらいいと思った。夕食後、二人はリビングで陸翔のオーディションについて話していた。芸能事務所は桑原先輩、神田先輩と陸翔をオーディションに誘い、個別でデビューの件について話していた。向こうは陸翔と契約をしたいが、彼はまだ未成年なので、一応親に相談しなきゃいけないし、それに陸翔自身ももう少し時間をくださいって向こうに言ってた。
「デビューしたくないの?」
「したいけど、今じゃないと思った。もっと勉強に集中したいし、それにデビューしたら、プライベートに影響を与えるじゃないかって。」
「まさかファンに囲まれたらというシチュエーションを想定したの?本当に自分が人気俳優になれると思ったか?」
「こっちは真剣だけど。」
「ごめん、馬鹿にしているわけがないけど。でも、そういう理由は予想外だから。」
「晴夏はどう思う?」
「私に聞くの?だって私は一度も表舞台に出ようと思ってないし、だから俳優さんの気持ちを分からないよ。」
「違うの、俺にデビューさせて欲しいと思う?」
陸翔はまっすぐに晴夏の目を見てそう言った。この発言の真意を瞬時分かったけど、晴夏はごまかそうしようと思った。
「これはリクの人生だよ、私に聞いてどうするの?」
「俺にとって晴夏の意見は重要だ。なぜなら、あなたが好きだから。」
陸翔は勢いで告白した。今日晴夏が牧野部長と一緒にいたところを見て、もう待ってられないと思った。自分がもし動かないままだったら、晴夏を失うかもしれないという危機感は強かった。
晴夏は自分がもう逃げられないと思って、陸翔に向き合おうと決めた。
「何で私を好きになった?あなたの周りにはたくさんいい人がいるのに、私はあなたが思っていたような人じゃない…」
「俺が知りたいのはあなたの気持ち。未だに牧野部長のことを好きなのか、それとも俺を好きなのか?」
「何で牧野部長…」」
「千葉の合宿で気づいた、あなたは彼を見ていた時の表情が違うって。」
晴夏は一瞬驚いたが、すぐに意味深いの表情に変わった。
「どんな答えを想定したの?それに、もし私の答えは牧野部長だったらどうする?」
「あなたの気持ちを変えさせてやる。」
「そんなに自信があるの?」
「あなたは俺に気持ちがあることをある程度確信した、でもいったい俺と牧野部長のどちらがもっと好きなのか…」
「私は同時に一人以上を好きになれない。リク、私はどうして恋愛に躊躇した理由をあなたに教えてあげる。私の家庭事情を知っているでしょう?だから、私は一番嫌いなのは浮気をする人だ。私はあの時牧野部長のことに淡い恋心があったけど、彼と桑原先輩の間に入ることは一度も考えていなかった。あの合宿で私はもう気づいた、牧野部長に対する気持ちはただの憧れで、男女の気持ちではなかった。」
「今はもう彼に?」
「今の私はあなたを好き。いつの間にか好きになった。でも、前はこの気持ちに抵抗していた。だって、私を好きになった理由は分からないし、私だってあなたを愛し続けることができるか分からなかった。」
「じゃ何で今は自分の気持ちを認めた?」
「牧野部長に言われた、私は臆病者だって。まだ何も試していないのに、まだあなたにチャンスを与えないのに、何で死刑判決を言い渡したって。だから、もう抵抗を止めた。」
「じゃ、俺たちは両想いってことだよね?」
「どうだろうね…」
陸翔はいきなり晴夏を抱きついて、彼女のくちびるにキスした。次第にそのキスがどんどん深くなり、息ができないぐらい熱くなった。ようやく離れた二人はお互いの目を見て、しばらく何も言わなかった。
「晴夏、俺と付き合え。」
「順序が顛倒するじゃない。私の答えを聞かないで、いきなりキスされて、それに命令みたいに付き合えってね…」
「ノーは言わないでよ。」
「イェスも言わないなら?」
「あのね…」
「ちょっと早すぎるじゃない?想いを確かめたすぐに…」
「俺は約束する、絶対あなたしか見てない、あなたしか愛せないから。」
「人生はまだ長いだけど、そんな約束して大丈夫なの?」
「じゃ、行動で示しましょう。」
陸翔はまた晴夏を自分の方に引き寄せて、さっきより深いキスをした。
この瞬間、晴夏は諦めた。どうせ陸翔から逃げられないから、抵抗しても意味はないって。彼女は自分の腕を彼の首に回し、彼の気持ちを応えた。
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