第18話 それぞれの夏休み(3)

朝からソワソワした真琴は待ち合わせ時間20分前舞子駅前に到着した。昨日の興奮が収まらない上、今日は一日中窪田と一緒に過ごせるを考えるだけで眠れるわけがなかった。


正直、窪田の提案について困惑していたが、真琴の内心もすごくうれしかった。理由はどうであれ、彼女を持つ男と一緒にデートするって後ろめたさがあった。自分の気持ちを抑えられないのは事実だし、たとえ一日だけでも窪田を独り占めできるならそれでいい。


待ち合わせ時間の5分前、窪田は颯爽とバイクで現れた。白いシャツとブルージーンズのシンプルなコディネートだけど、青のサングラスをかけていたかもしれないから、いつもよりカッコよく見えた。そんな真琴の熱い視線を感じて窪田はちょっと恥ずかしくなったが、できるだけ平然の顔を見せた。真琴も張り切っていつもの自分と違って、ピンク色のブラウスとブルージーンズのカジュアルなルックを選んだ。普段の真琴は黒、白とグレーの服しか着らないので、窪田はピンク色が彼女の白い肌に似合うなあと思っていた。


「まさか長時間待ったの?」

「いいえ、そんなに長く待ってません。」

「あんた、いつもと違う雰囲気だな。」

「変ですか?いや、短い旅行だから、服を動きやすい方を優先で…」

「似合ってる。いつもダークな色の服だから、これは新鮮だ。」

「それでよかった。先輩もいつもと違う感じですね。」

「いつもと違わないから。ていうか、ここは大学と部活でもないから、敬語を止めてくれない?」

「一応先輩ですから。」

「二人きりの時は敬語止めろ、硬いし気持ち悪い。」

「じゃ、お言葉に甘えま~甘えて。このバイクは先輩のものなの?」

「友達から借りた。」

「前回御岳山の時もバイクを借りてたよね?先輩はバイク好き?」

「好きだけど、買う必要ない。東京にいる時はいつも電車かバスで移動するし、姫路にいるのは年内数日だけで尚更いらない。バイクを乗りたいなら友達から借りるだし。」

「なるほどね。ていうか、淡路島へ行く理由って、まさかバイクを乗りたかったじゃないよね?」

「まあ、明石海峡大橋をバイクで渡るって気持ちよかったからな。」

「やっぱりそういう理由か、てっきり私と一緒に旅行したかったじゃないか…」

「まあ、岸との旅行も悪くないと思うし、ついでにバイクも乗りたかった。もう話は後にして、早く乗って。」


そう言った窪田は予備のヘルメットを真琴に渡したが、中々うまくかぶれないから、窪田は真琴の手伝いをした。至近距離で窪田の顔が目の前にいて、真琴はすごく緊張し、心臓の音が窪田に聞かれるではないかと心配していた。一方の窪田も、初めて真琴と面と向かってこんな近くにいたから、彼女の顔を間近で見れた。この曖昧な雰囲気に包まれた二人はようやく準備が整えて淡路島へ向かった。


この日の天気は旅行にとって最高だ。青い空、白い雲、そして気持ちいい風が吹いているので、周りの景色を堪能しながら、二人は明石海峡大橋を渡った。真琴は後ろから窪田の顔を愛しく見ていて、窪田はミラー越し真琴の表情が見られるから、なんて可愛いだと思った。いつもクールな顔をした真琴は、こんな乙女みたいな表情があるって想像もしなかった。


最初の目的地は洲本城跡だ。三熊山山頂にある洲本城跡。洲本市の市街地と大阪湾を見渡せるほか、紀淡海峡も望むことができる。真琴は課題のために資料収集や写真を撮ることで夢中していた時、窪田は傍から彼女を初めてじっくり観察した。今まで真琴のことをこんなふうに見てなかったから、やっぱり彼女は自分が思っていたより面白い子だ。真剣に何かを集中している時の真琴は無表情で素っ気ない感じだが、それでもカッコよくに見えた。


次の目的地は車から5分で行ける大浜海水浴場だ。ここは環境省が「日本の海水浴場百選」に認定されている白砂青松の海水浴場で、結構人気があるところだ。お昼までまだ時間があるので、二人はゆっくり散策し、いろいろ話をしていた。


ランチを食べるために、二人は淡路市にある淡路ワールドパークONOKOROへ移動した。そこにあるレストランから海が見えるし、地元の新鮮な農水産物を使える料理も食べられる。食事が終わるところ、ウェイトレスさんが一本のろうそくがついてるケーキを窪田の前に運ばれた。一瞬何か起こるか分からなかった窪田は困惑しているように真琴を見ていた。


「先輩、お誕生日おめでとうございます!」

「何で分かったの?」

「まあ、それは秘密だよ~」

「教えてくれないか?」

「怒らないでよ、教えるから。この前、登山部の書類作成を手伝いした時、全員の生年月日資料を見てしまった。で、先輩の誕生日は今日だと分かった。私の誕生日会を参加したお礼として、今回の旅行で何かのプレセントを買おうと思ったが、まさか当日に一緒に旅行するなんて。だから、さっき店に入った時、スタッフにお願いしてケーキを用意された。」

「そうなんだ。ケーキを運ばれた時正直びっくりした。」

「ろうそくを消す前に願いごとをしてください。」


こう言われるだから、窪田は目を閉じてお願いごとをした。真琴は彼を見ていて、彼が願っていることすべてが叶うといいねと思った。窪田の内心で三つの願いごとをした。


司法試験を合格できること。

家族と友人たちは健康で安全にいられること。


そして、真琴の笑顔が消えないこと。


窪田は分かった。彼は真琴に対してただの先輩後輩の気持ちではなくなった。だけど、彼女はこんなに自分のことを思っていることを知った上、このままにはいかなかった。自分には亜実がいるから、真琴と付き合うことができない。いくら亜実とはいろんな問題でうまく行かなくても、それらを理由にして真琴に乗り換えるわけにもいかなかった。だけど、真琴がもし自分を思い続けることをしたら、きっと傷づける。そうならないように、窪田はあることを決意した。


その日の午後、二人はテーマパークでいろんなアトラクションを楽しんでいた。最後は昼下がりのころ、二人は観覧車を乗った。


「今日はいろいろありがとうございます。本当に楽しい一日だ。」

「こちらこそ誕生日まで祝ってくれて、ありがとう。」


黙り込んでいた窪田の様子はちょっとおかしいと思っていた。真琴は彼を見つめていて、何を話すべきかを迷っていた。そしたら、窪田はようやく話をした。


「岸…人生の先輩として一つの忠告をするから。」

「何でそんなに改まって?」

「男を見る目はちゃんと持ってよ。」

「それどういう意味?」

「うちの経験談だ。うちの母は浮気男と結婚しなかったら、人生はもっとうまく行けるはず。だから、先輩として、君に同じ目に遭わないで欲しい。ちゃんとした男と恋をしてたらきっと幸せになれる。」


真琴は瞬時に窪田が言ってることの意味を分かった。


彼は自分の気持ちを知って諦めさせようとした。


真琴は窪田が自分に何か特別な感情を持っていると思っていたが、どうやら自分の勘違いかもしれない。それで、自分の気持ちは彼にとって迷惑だから、それでこういうふうにやんわりと断ろうとした。


「先輩だけど、これは大きなお世話です。後輩の恋愛にクビを突っ込めないでください。」


窪田は真琴の答えから分かったのは、彼女はまた二人の間に距離を置こうとした。だって、彼女はまた敬語を使った。


観覧車でいた残りの時間は二人にとって気まずかった。何も言わずに、ただ窒息しそうな雰囲気に包まれた。その後、無言なまま、窪田はバイクで真琴を舞子駅まで送った。たった一日で、朝はあんなにうれしく感じる時間は、すっかり一変した。


バイクから降りた真琴は自分でヘルメットを外し、窪田にお礼をした。だけど、窪田の目を見ようとしなかった。


「この二日間ありがとうございました。では、また東京で会いましょう。」

「ああ、気を付けて帰ろう。」


真琴は振り向かずに駅へ入った。窪田はただ彼女の後姿を見て、しばらくその場から離れなかった。


これをしていったい良かったなのか、自分でも分からなかった。でも、真琴に過剰な期待を与えるより、この方がいいと自分に言い聞かせた。今のうち、まだ気持ちが深くない時、傷づかないと思った。


だけど、窪田は真琴の気持ちを甘く見えた。本気で彼かを好きになって、そして何度も諦めない真琴にとって、窪田は自分を一日で天国へ連れて行き、そして地獄まで突き落とした。そうするつもりだったら、この二日間の幸せを味わせない方がいいと思った。神戸へ帰るの列車で、ただぼっとしていた真琴は、ホテルの部屋についた瞬間、涙がすぐあふれ出した。

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