第13話 至福の夜

真琴はあまりにも驚いて、そしてうれしくて叫びたかった。


目の前に現れた窪田は幻想か現実かすら分別できないぐらい混乱していた真琴はただ彼を見つめて、瞬きもせずその場から動けなくなった。窪田は彼女の目の前に立って、手を彼女の目の前に振った。


「おい岸、俺が来ることでそんなに驚くの?」


窪田の声を聴いた真琴はいきなり冷静になり、自分の興奮を抑えながら、なるべくいつもの表情を窪田に見せた。


「窪田先輩が現れるなんて想像もしなかったから、夢でも見てたと思って反応できなかっただけ。」

「俺が来ることをそんな嫌がっていたっとビビった。それにしてもあんたの反応は大げさだな。」

「だって、事前に知らされていないから。」

「知らされたらサプライズにはならないだろう。」

「確かにそうです。でも窪田先輩はこんなサプライズ計画に参加するとはね…」

「あなたの親友の熱意に負けたから、仕方ないけど。これ、プレセント。お誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます。」


晴夏はこの二人のやり取りを見ながら、なんて微笑ましい光景だねと思った。そしたら、彼女は窪田を真琴の隣の席に座るよう促した。


「窪田先輩が来てくれて本当にいいですね、マコちゃん。」


そう言われた真琴の顔はちょっとだけ赤くなったが、これを気づくのは晴夏のみ。晴夏は真琴に向けてウィンクして、窪田のために早く料理を取ってきてと言った。


真琴は晴夏が何を企んでいるかをすぐに見抜いてた。窪田が来ることが真琴にとってうれしいことだけど、彼はすでに恋人がいたって今だに晴夏に言ってなかった。まあ、言ったとしても、晴夏はきっと窪田を誘ってくることを諦めないでしょう。好きな人と誕生日を過ごしたいのも当たり前だから、今夜窪田が真琴の誕生日会に参加することで、彼女の一生の思い出になるかなと思って、晴夏わざわざ窪田を待ち伏せひして必死に説得した。おまけに、窪田に抵抗感なく来てくれるため、陸翔まで巻き込んだ。


4人は談笑しなら料理を満喫した。そう言えば、窪田と一緒に食事をしたのは4月の歓迎会とこの前の御岳山でのランチだけだった。最初の出会いで彼のことに悪い印象が持っていたが、あれからたった数か月で心境はすっかり変わった。


真琴は窪田が食の好き嫌いを初めて把握した。生の野菜を使うサラダより、煮込み料理の中にある野菜が好きそうで、肉じゃがの中にあるじゃがいもとにんじんをばかり食べてた。あと、ほうれん草のおひたしが好きみたいだね。麺類が好みみたいで、焼きそばを楽しそうに頬張っていた姿がとても可愛かった。海鮮より肉が好きみたいだけど、エビが例外だったみたいで、それに天ぷらよりエビフライが好き。出された果物にあまり手付けなかったけど、他に好きな果物があるかなっと真琴は思っていた。


夕食が終わり一旦片付けて、次は真琴の誕生日ケーキが出されてた。晴夏は真琴が大好きなイチゴをたっぷり使っていたショートケーキを作って、最後のデコレーションは料理できないと宣言した陸翔に任せたが、意外と中々の出来だった。そのきれいなケーキを見た真琴は笑顔になり、晴夏をぎゅっと抱きしめてありがとうと言った。みんなに囲まれて、誕生日祝いのソングを歌われて、真琴は上京してからこの日が一番幸せなだ。自分の一番の理解者である親友がいて、新しい友達もできて、そして初めてこんなに好きになった人と誕生日を過ごせて、これ以上の幸せがないだろうと思った。


もうすぐ日付が変わろうとした時、陸翔と窪田はそろそろ帰ることとなった。晴夏は真琴に窪田を駅前に送ってと言い出したので、二人は一緒に駅まで歩いていた。所要時間は往復でたったの10分程度だけど、晴夏は二人きりにさせたかった。陸翔は近くに住んでいたから、晴夏は後片付けもあったので、陸翔は送らなくてもいいと言い出した。


「真琴はかなり喜んでいるみたいね、やっぱり窪田を誘ってよかったかも。」

「初対面の君も分かるなら、よっぽどマコちゃんのうれしさが顔に出たね。窪田も分かるかな、マコの気持ちを。」

「まあ、気づいたとしても、向こうは何の反応もしないなら、発展の可能性がないけど。」

「それはお二人次第だから。チャンスを作ったけど、それをつかめないと意味がないからね。とにかく、今日はありがとうね、いろいろ助けてくれて。今度お礼としてに何かをごちそうするからね。」

「それは期待する。じゃ、おやすみ。」

「おやすみ、気を付けて帰ってね。」


一方の真琴は、窪田と並べて一緒に駅の方向へ歩いた。


「今日はありがとうございました。家まで来て誕生日会を参加して、そしてプレセントまでもらって。」

「別にそんなに感謝されなくても、だって俺も晴夏ちゃんが作った美味しいものをたくさん食べられたし、いい時間も過ごした。」

「まさか、晴夏が窪田先輩を直々に誘うなんて、失礼なことはしてないよね?」

「驚いたけど、でも君にはいい友達ができただな。そこまでして、あなたの誕生日会を盛り上げよって、俺にはそういうような友達がいないから、羨ましいだ。」

「晴夏は本当に熱心な人で、見た目では分からないけど。今度はもしよかったら、私からのお礼として、何かを作ってごちそうします。」

「まあ、その時はぜひ誘ってください。駅に着いたから、早く帰ったらいい、もう遅いし。」

「はい、気を付けて帰ってください。今日はありがとうございます。」


窪田は改札口を通ってホームへ向かった、その後ろ姿が見えなくなるまで、真琴はずっと彼を見つめていた。


家に帰ったら、晴夏は片付けを終わったところだった。


「お帰り、早いね。もう少し話をするではないかと思った。」

「うちから駅までそんなに遠くないよ。」

「てっきり、先輩帰らないでくださいとか言い出すと思った、ハハハ。」

「それ、笑うところなの?さっきはすごく動揺してたんだ、いきなり窪田先輩がうちに現れた時。」

「それはサプライズだから、成功しないと意味がないよ。それに、こういうサプライズが好きでしょう?好きな相手に祝ってもらって、一生の思い出になるよ。」

「晴夏にはまだ言ってないけど、彼は彼女がいるんだ。」


しばらく沈黙したから、晴夏はこう言った。


「親友だからと言って、すべてが許せるとはいかないから。うちの母親がしたこと知っているでしょう、浮気とか不倫とか絶対許さないからね、これだけははっきり言う。だからマコに窪田をその彼女から奪うなんか後押しはできない。

だけど、自分の気持ちに素直になればいいと思う、好きになったから仕方ない。それに、彼に告白をするかどうかはあくまでもマコ次第だから。もしこれから、窪田があなたに気があったら、それでちゃんと今の彼女とけりをつけてあなたとちゃんと付き合うなら、私はきっとあなたたちを応援できる。じゃないと、彼がもし二股をかけような真似をしたら、そんなやつと一緒にいたマコを応援できない。

でも男のことであんたと絶交しないから安心して。」


そう言われた真琴は思わず涙が流した 。本当に自分のことを思ってこそ出した忠告だね、そんな晴夏の言葉で心が温まった。


「ほら、バースデーガールはどうして泣くの?そんなに感動したの?もうやめてよ、今日は幸せな日だから、笑うべき、スマイル!」


自分と晴夏が出会って、本当に幸せなことだと改めて思った真琴。


日付が変わった時、お風呂上りの真琴は自分の部屋に戻った。窪田からのプレセントをデスクの上に置いていた。一体どんなものを送ってくれるでしょう、真琴はワクワクしながら包装紙を取り除いた。そしたら、中にある白い箱の上にメッセージが書かれた。


「岸へ、


そんなに大したものではないが、気に入ってくれたらいい。お誕生日おめでとう。


窪田より」


この素っ気ないメッセージを何度も読み返した真琴は本当にうれしかった。どんなものが入っても、窪田からのだから好きじゃないわけがない。それにしても、普通ならメッセージを書く時、カードや手紙用な便箋とかを使えるでしょうけど、直接箱に書く人って初めて見た。


箱を開けたらその中身を見て、真琴は思わず笑い出した。本当に窪田らしい、実用性重視のもので、19歳の乙女に送るようなものとしてはどうかと思うぐらい。


それは登山の時に防寒用の軍手だった。しかもおしゃれとは程遠い、一切デザイン性がない、本当に素朴な軍手だった。

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