第12話 10代最後の誕生日、サプライズ到来
6月下旬、もうすぐ真琴の誕生日が来る。
今まで、真琴の母は家で彼女のためにささやかな誕生日祝いをしたが、父と兄たちが大体の場合は不在で、12歳以降の誕生日会は二人きりになったことが多い。彼らからの誕生日プレゼントはいつも遅れて届いたので、多分誕生日以降急に思い出して、慌てて準備していただろう。真琴のことをあまり知らないみたいで、使えないものや好きでもないものをあげることも多かった。何年も同じ屋根の下に暮らしていたのに、真琴は彼らにとってただ名義上の家族かもしれないから、彼女にまったくの無関心だった。逆に、岸家の男たちの誕生日会いつも派手にやっていた。たくさん好きな料理を用意され、プレゼントも買わなきゃいけないし、だけど彼らはこれが当たり前のように岸家の女たちに感謝のことば一つも言わなかった。だって、真琴の母の誕生日にも娘と二人きりで祝うことが多かった。
真琴の母は彼女の誕生日会をやる度に、申し訳ないそうな顔をしていたが、真琴がそれはそれでいいと思った。父と兄たちがいったら、余計に気を遣ってしなければならないので、誕生日ぐらいはそんな芝居をしたくなかったというのは本音だった。それに、心から彼女の誕生日を祝おうとしない人からのプレゼントを貰っても全然うれしくなかった。
晴夏と出会ったのは高1の二学期なので、もちろんその時はすでに真琴の誕生日を過ぎてしまった。だけど、彼女の誕生日思いを聞いた晴夏はその年の自分の誕生日に共同誕生日会を開いた。晴夏の家に行って、晴夏の父や祖父母に祝ってもらって、たくさん自分が好きな料理を食卓に出されて、真琴は初めて自分が愛されていると感じた。涙をこらえるのは必死だったけど、晴夏から言われた言葉で結局うれしい涙を流した。
「これから、マコの誕生日を一緒に祝うから。何年先も、生きているかぎりそうする。私たちはマコの味方で家族でもあり、こっちはマコの第2の実家だから。」
晴夏がくれた誕生日プレセントは手作りのカードとペン一本だった。別に高価なものでもないけど、真琴にとって一生の宝物なので、上京した際は実家から持ってきた。
晴夏は今年の真琴の誕生日を盛大に祝おうと思ったのはいくつの理由があった。
10代最後の誕生日
成人になる前最後の誕生日
上京してから最初の誕生日
大学生になってから最初の誕生日
実家から離れて、自由になった最初の誕生日
そして、もう一つ叶えあげたいのは、好きな人に祝ってもらう最初の誕生日だ。
真琴から窪田のことを聞いた限り、晴夏は彼女が窪田に対する思いを気づいた。でも、真琴はあの初登山以降全然何もしていなかったみたいで、まさか告白する前に諦めたじゃないよね?そう思った晴夏は真琴の後押しをしたかった。丁度誕生日会をやるので、これは絶好のチャンスだと思った。だけど、問題なのは、晴夏と窪田は面識がないことなので、知らない人にどうやって誕生日会に誘うか正直悩んでいた。
このことを陸翔と話している時、彼の言葉でいい提案が浮かび上がった。
「その窪田という先輩はあなたの友達の部活の指導役だろう?なんか感謝の気持ちを込めて、誕生日会に来て欲しいとか言ったら、うまく誤魔化せるじゃない。それに、お友達が事前に知られたら、多分あなたを止めるし、その先輩はサプライズで登場するのはいいかもなあ。」
ある日の昼下がり、晴夏は無理矢理陸翔を同行させて、法学部のビルの前に窪田を待ち伏せしていた。
「何で俺も来なければならないか?別に俺の誕生日でもないし、あなたの友達も知らないし。」
「だって、女二人と一緒に誕生日会をやらないかって聞いたら怪しまれるでしょう?だから、あなたもその誕生日会に参加して、窪田の警戒心を最小限にしたいの。」
「お友達は困るだろう?知らない人が来るって。」
「あなたのことならすでに知るから、心配無用。」
「いったいお友達に俺の何かを言った?」
「いいこと?悪いこと?どうだっていいじゃない、いまそれどころじゃないし。」
「俺の印象操作をするな。一応、うちの看板俳優になるつもりだけど。」
「じゃ、誕生日会でそれを挽回すればいいよ。魅了するのはいいけど、マコを誘惑するだけは絶対しないでよ。」
「俺は誰だと思うの?どんな女でもOKのわけじゃないから。」
「ああ、来た!行こう~」
晴夏は足早に陸翔の腕を引いて窪田の方へ歩き出した。いきなり前に現れた見知らぬ男女を見て、窪田は何も言わなかった。
「こんばんは、窪田先輩。はじめまして、私は文学学科の秋山晴夏で、この人は天文学科の桧垣陸翔です。ちょっとお話をしたいので、学生食堂の方へ一緒に行けませんか?」
「あなたたちを知らないと思うけど、法学部と登山部の後輩でもない…」
「私は岸真琴のルームメイトです。実は頼みたいことがありまして、だからいきなり窪田先輩に会いに来て直接にお話をしたいと思います。」
「15分程度ならいいけど。」
「では、移動しましょうか?ありがとうございます。」
学生食堂で飲み物を啜りながら、晴夏から誕生日会のことを聞かされた窪田は特に表情を出さなかった。これで作戦失敗になるかもっと思った晴夏と陸翔。
「だけど、岸に内緒で彼女の誕生日会に参加するって、喜ばないかもしれないけど?」
「いいえ、窪田先輩なら大歓迎です。」
「何で?」
「だって、マコは登山の基礎トレーニングと御岳山の初登山の際、窪田先輩のおかげで無事にやってこれたって言ってましたから。感謝の気持ちを伝えたいだけど、マコはどうするか分からないし、それにこんなことをするには気恥ずかしいと思う部分があります。親友である私はその手伝いをしたいし、それに今回はマコが上京してから初めての誕生日で10代最後の誕生日でもありますから。一緒に祝ってもらったらきっとうれしいに決まっています。だけど、大人数でやるのはマコのスタイルではありませんので、せめて近くにいるお友達だけでもやったらいいです。で、今回も一緒に参加するになるのは演劇部の同期である桧垣くんです。」
「その日はバイトがあるから、7時まで来れるかどうかまだ分からないけど…」
「どんなに遅くても待ってます。遅れるなら連絡してくればいい。」
「分かった。では、参加します。」
「携帯番号を交換しましょうか?何かあったら連絡できますので。」
窪田が去っていった後、陸翔は自分の感想を晴夏に言った。
「はっきり言うと、さっきの反応から見て、窪田はあまり乗り気ないみたいなあ。」
「まあ、やれることはやったらそれでいい。窪田は来られるかどうか、来たいか来たくないか、私たちはコントロールできないこと。」
「もし窪田が来なくなったら、お友達は失望するだろう。」
「だから、事前に言わない。来なくてもいいし、来たらいいサプライズになる。」
「あんたみたいの友達を持つ人はいったい幸せかそれとも不幸か…そんなこと平気で企んでいる、怖いなあ。」
「じゃ、私と絶交すればいいよ。あなたは無料でたくさんのご馳走が食べれるから、文句を言わないで。」
そして、真琴の誕生日がやって来た。当日は土曜日なので、晴夏はバイトを休んで朝からバタバタしていた。夜の誕生日会に陸翔が来るって事前に言ったから、真琴はそれを楽しみしていた。千葉での合宿の話を晴夏から聞かされたので、陸翔はどんな人なのか非常に気になった。だって、今までの晴夏はあまり男の話をしなかったから、陸翔は彼女にとってある意味特別な存在ではないかと思った。
誕生日会の準備があるので、真琴は一人で時間潰しをするつもりだった。もちろん晴夏と一緒にいることが好きだけど、たまに一人で外出するのもいい。晴夏は事前に真琴が見たかった映画のチケットを渡してたから、映画鑑賞の後、一人でおしゃれなカフェで遅めのランチをした。そしたら、電話に着信が入った、画面を見ると母からの電話だった。
「もしもし、お母さん。」
「もしもし、マコ。お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、お母さんは何をしている?」
「いつもの家事が済ませて、ようやく電話をする時間がある。」
「誰もいない家だし、適当にやればいいじゃないの。だって大変でしょう、掃除とか。私もいないし、手伝う人がない。」
「気を遣ってくれてありがとう。でも、何もしないより、これでいいの。マコは今何をしてる?友達と一緒に?」
「今は一人、ランチが食べた後。さっきは映画を見に行った。」
「いいね、ゆっくりできて。ハルちゃんは?」
「家で誕生日会の準備をしている。だから私を家から追い出した。」
「ハルちゃんらしいね、きっといい誕生日会になるから。よろしくと伝えて。」
「分かった。ね、お母さんは時間があれば、東京に来てよ。一泊ぐらい泊まれるでしょう?久々だし、会いたいよ。」
「そう簡単に家を離れないよ。まあ、次の機会があったら、東京へ行く。」
「約束だよ。」
6時過ぎ、真琴は家に帰った。すでに陸翔が来たみたいで、晴夏とキッチンで揉めていた。真琴の帰りを気づき、晴夏は早速陸翔を彼女に紹介した。どうやら、陸翔は晴夏の手伝いをしたくて、3時ごろから家に来たが、晴夏から連続のダメ出しを受けて、もうブチ切れ寸前だった。その二人のやりとりを見ながら、真琴は思わず笑顔になった。
今日、窪田のことを何度も思い出した。
この前、初めて窪田の彼女の存在を知った真琴は、晴夏の前に彼の話をしなくなった。まだ彼に対する好意が残っていても、二人は未来がないって見れば分かった。だから、彼の話を晴夏の前にしたくなかった。ですが、今日はどうしても彼に会いたいと思った。誕生日に窪田が祝ってくれたらいいなあって。でも、これはありえない話だった。そもそも、窪田は真琴の誕生日を知らないし、知っても何もしてくれないはず、ただの後輩に誕生日祝いなんてするような人じゃないから。それでも、メールでもいいから、電話越しでもいいから、お誕生日おめでとうぐらいを言わせたかった。
だから、陸翔と晴夏を見て何だか羨ましいです。気さくに話をして、はしゃいで、一緒にいられて、どんなに幸せでしょう。
ようやくすべての準備が終わったのは7時ちょっと過ぎたころだった。みんなで祝杯を挙げて、食事を始めた。小さなテーブルの上に真琴の好物がいっぱいになって、この光景を見た真琴はすごく感動した。高1の冬、晴夏の家でその年に二回目の誕生日会を思い出した。自分の母以外に、ここまでしてくれるのは晴夏だけだ。そして、新しくできた友達もいて、真琴はすごく幸せな気分になった。
でも、晴夏は食事中何だかソワソワして、ずっと時計を見ていた。怪しいと思った真琴は我慢できず声をかけた。
「さっきから気になってたけど、何でハルはずっと時計を見ていたの?」
「ああ、気にしない、気にしない。ただいつバースデーケーキを出すかを考えていただけ。」
「まだお腹いっぱいだから、ちょっと遅くてもいいよ。」
「そうだね。」
丁度その時、チャイムが鳴った。まるで予想されたみたいに、晴夏と陸翔はすぐに立ち上がった。門へ向かって歩き出そうとする晴夏を止めて、陸翔は自分が行くと言い出した。そしたら、晴夏は真琴のそばに行って、小さな声で真琴にこう言った。
「これはマコのために用意した最大のサプライズだよ。」
陸翔は部屋に戻った時、後ろに誰かがついて来た。
その人は現れはずのない窪田だった。
彼の姿を見て、ショックのあまりに真琴は自分の右手で口を塞ぎ、目を大きく開いた。
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