第11話 向き合って、分かり合って

ランチの片づけが終わり、全員の会議が始まった。


牧野部長はこれからの夏秋シーズンの計画についてみんなに発表した。


「まず、先ほどの会議で決まったことを報告します。夏休み前の定例公演はオムニバス形式で、春夏秋冬をテーマにする四部構成の恋愛物語です。配役と舞台設計は大体決まりました。今までのやり方とは違って、全部員で一緒に稽古と製作をすることではありません。各チームのメンバーを4つの班に分けて、各班は一つの季節を担当することになります。これによって、違うチームからのメンバーとの交流をもっと深められて、今まで一緒に仕事をしていなかった人との新しい化学反応も期待されるし、そして意見交換もしやすくなるという狙いです。」


確かに今までの演劇部のやり方とは違うけど、部員たちはこの提案に対する反応は結構前向きだった。班分けの結果、陸翔は夏の部の主役になり、晴夏も同じ季節の脚本担当になった。


漁港で誤解を解けたおかげで、またのコラボは二人にとって前と比べてそんなに嫌ではなかった。だけど、晴夏の下書きでは夏の主役はあまりにも陸翔のイメージと離れたので、正直どうするか困っていた。実際に、夏班のメンバーに自分の台本を説明した後、みんなは必死に笑いをこらえた。陸翔は思わず自分が思っていたことを口にした。


「これはいやがらせですか、脚本さん?」

「いいえ、この下書きは前に書かれたものなので、あなたが主役になるとは思えなかった。でも、あなたが夏の部の主役になった以上、これを機に今までの路線から離れてみてもいいじゃないですか?」

「夏の物語でこんな悲恋の話って、重すぎないの?」

「演技の見せ場にして最高のストーリーです。ねえ、みんなも桧垣の愛情たっぷりの演技を見たいでしょう?」


メンバーのサポートを得れば、きっと陸翔がこの脚本を受け入れると思った。しばらく沈黙したら、陸翔は返事をした。


「この台本をやるのは問題ないだけど、ちょっと設定をあまりベタベタしないで欲しい。軽めの切なさでいい、号泣はやめてよ。」

「いや、涙を流すのはマストです。男は滅多に涙を見せないから、それですごく貴重なもので、愛情表現としていいと思う。」

「だから、ちょっとだけはOK、号泣はNGだ。」

「俳優は脚本家の仕事に首を突っ込めないで欲しいなあ~」

「あんたね、無理を言ってるから…」


二人はまた喧嘩になったらヤバイと思って、他のメンバーは二人の中に入り込み、別のことを話しし始めた。


午後の班会議が終わって、夕食のBBQの準備を始める前には一時間程度の自由時間があった。晴夏は別荘の前にある海浜公園へ向かって、海岸線沿って散歩した。そしたら、牧野部長はそこにあるブランコに座り海を見ていた。晴夏は彼の隣のブランコに座り、彼に話しかけた。


「部長、何をしていますか?桑原先輩は?」

「ああ、秋山か。美鈴は近くのコンビニで買い物中。もうちょっと帰ってくると思うけど。あなたこそ、何をしている?」

「ここの景色はきれいなので、散歩しながら、写真を撮っています。脚本書きに役立つと思っていますよ、だって夏の部の担当ですから。」

「そうね、勉強熱心だね、秋山は。ハハハ!」

「部長、ちょっと聞きたいことがあるですけど。」

「どうぞ。」

「あのう、まさかと思うけど、桧垣が夏の部の主役になったのは、部長が決まったですか?」

「不満?桧垣はいい俳優だと思うよ。」

「演技がいいのは分かるけど、でも舞台のことになるとあいつとは相性が悪いし、喧嘩になりやすい。」

「俺から見ると、あなたと桧垣は舞台上最高のパートナーだ。」

「ええ?どこからそういうことを見えるですか?」

「あなたが桧垣を見る目、そして彼があなたを見る目。」

「理解できませんけど。」

「あなたは気づかないけど、あなたは桧垣の才能を認めていて、彼の演技を引き出せる力もあり、彼の表向きの魅力だけじゃなく、イケメン俳優の裏にある情熱を見えている。だから、あなたの脚本は彼の魅力を最大限にする。逆に、桧垣はあなたに信頼を寄せてから、脚本に対するダメ出しのおかげで、あなたは固定概念に縛られずにいられるし、脚本家として腕を磨けることに繋げると思う。だから、君たちは最高のパートナーです。」

「私は桧垣と知り合ってまだ数か月なのに、最高のパートナーって、大袈裟じゃないですか。」

「まあ、いずれはそうなるから。」

「まるで預言者みたいね、部長。でも、そんな素敵な関係って、実は部長と桑原先輩のことを言ってでしょう?」

「俺と美鈴はあなた達とは違うけどなあ。」

「もちろん、だって桧垣とは恋人同士ではありません。でも、恋人同士が一緒に仕事をすると不便なことはありますか?例えば、喧嘩したり…」

「意見が合わない時だってある、でもそれを二人の関係に影響を与えないように努力している。」

「何か素敵ですね、大人の恋愛関係。私にはできないけど。」

「まだ早いでしょう、これから運命の人と出会えて恋に落ちて、こんな恋愛経験は創作に活かせると思うよ。」

「恋愛ってめんどくさいよ。それに、みんなが運命の人と出会えるとは限らない。」

「案外、君の周りにすでこういう人が現れたかもしれないよ。」

「あり得ない話です~」


丁度、桑原先輩はコンビニから帰って来て、牧野部長に缶コーヒーを差し出した。


「あなたが好きな缶コーヒーだよ。」

「ありがとう。」

「さっきなんか話が盛り上げたみたいね?」


晴夏はブランコから立ち上がり、桑原先輩に座るように促した。


「散歩中に部長と遭遇して、いろいろ話された。桑原先輩とのことを自慢してたよ。」

「あら、珍しいね。いつもこういう話はしてないのに。」

「先輩の前に照れくさいだから、言えないです。じゃ、私はそろそろ別荘に帰るから、BBQの準備をしなきゃ。」

「俺たちはもうすぐ帰るから。準備の方よろしく。」


晴夏は二人から離れて、別荘の方へ向かった。数歩歩いてたら、晴夏は振り向いて二人の方へ見た。


「やっぱりあの二人は絵になるぐらい似合う。誰も入れる隙間がないから、あきらめよう。」


そう思いながら、晴夏は牧野部長に対するモヤモヤする気持ちを断ち切ることを決めた。


みんなは夜のBBQを楽しんでいたことを見て、晴夏はうれしく思った。クールに見える晴夏は陰で他人の面倒を見るのは好きだけど、それをあまり表に出さなかった。真琴はいつも言ってた、


「ハルはとても暖かい人なのに、自分の気持ちを隠すのはあまりにもうまいで、誤解されやすい。本当のハルを見抜いてくれる人がいれば、ありのままのハルを愛してくれるでしょう。」


晴夏はそういう人が一生現れないと考えた。子供のころから、自分の本当の気持ちを隠さないと自分の心を守れないと思った。母親が自分に対する無関心と度重なる不倫で傷づいだけど、父の負担を増やさないために、自分がしっかりしなきゃと気丈の振る舞いをした。誰かに愛されたくても、自分から絶対言わない求めない。


だけど、晴夏は元々思いやりの心を持つ人なので、人のために何かをする、誰かの役に立ちたいだけど、向こうに負担をかけたくないから、感謝などを求めない。静かに見られないところから、誰にも気づかれずでもいい、自分から他人のために動くのは好きだ。


晴夏が知らないのは自分のこういうところを見抜かれた人がいた。一晩中、みんなのために料理し飲み物も用意して、まともにごはんを食べていなかった晴夏を見ていたのは陸翔だった。見過ごすわけがなかった彼は、出された料理を一皿に載せて、晴夏の方に持って行った。


「まだ何も食べてないだろう?早く食べろ。」

「そんなに多い、すべて私に?」

「当たり前だろう。」

「桧垣、一緒に食べよう。こんな量じゃ食べられないし。」


陸翔は不機嫌そうな顔で晴夏を見ていた。


「名前。」

「何、名前って?」

「決まっただろう?漁港で話したじゃない?」

「ああ、下の名前か。まさか、それで拗ねた?」

「二人きりの時、下の名前がいいって。周りに誰かいると、苗字だ。」

「めんどくさいね…分かったから。リク~一緒に食べよう!それでOK?」

「よくできました。」

「ありがとうね。これを持って来てくれて。」

「感動した?」

「そんなことで感動したと思う?」

「冷酷な女だな。」


談笑しながら、二人は一緒に食事をした。


夜9時前に片付けいけないので、みんなで手伝いそれを早めに済ませてから自由行動の時間になった。順番にお風呂に入って、早めに寝る人もいて、雑談をする人や、テレビを見る人もいた。


日付が変わった時、みんなはすでに各自の部屋で寝ていたが、晴夏は中々寝つけなかった。寝るのを諦めた晴夏は、別荘から出てテラスにあるベンチへ向かっているが、すでに先客がいた。


「リク、まだ寝てないだ?」

「ハルかよ、びっくりした。あなたは寝れないの?」

「慣れないね、自分の部屋じゃないと。」

「じゃ、上京した時はどうだった?」

「最初の2週間ぐらいあまり寝れなかった。」

「まじかよ、じゃあんたは旅行なんか行けないね。」

「そもそも旅行行ったことないから、分からない。で、あなたも寝れないの?」

「いや、星を見よと思ったけど、今夜は曇りなので、あまり見れない。」

「ええ、こんなロマンティックなことをするんだ?ああ、忘れてた、あなたは天文学科だよね?」

「そんなこと忘れれるかよ?」

「すみませんでした。で、ずっと気になってたけど、何で天文学科を選んだの?」

「うちの親父は大学で天文学の研究をしていたから、その影響で好きになった。」

「前に言ったよね、実家は山に囲まれたところで、だからよく星空観察したって。」

「だから大学でこれを勉強したかった。」

「ええ、じゃ俳優をやらなかったら、展望台や大学で研究と星空観察もできるからね。」

「まあ、両方とも俺の夢だから。」

「一つの夢を持つことだけですごいことなのに、二つの夢を持つなんてカッコイイよ。」

「大げさだな。ハルは?やっぱり物書きの仕事がしたい?」

「そのつもりだよ。うちのお父さんは出版社で働いているから、その影響で。」

「あなただってすごいよ。目標が明確で、それに向かって頑張っているし。」

「私は星空観察なんかやったことないね。どんな感じだろう?」

「今度時間があったら、一緒に行く?キャンプできると星空も見られるところへ行けば。」

「いいね、行こう。今回の公演が終わったら、多分時間があるよ。」

「じゃあ、俺が準備するから。」

「よろしくね。」


この眠れない夜に、陸翔と晴夏はお互いにいろいろ話したおかげで、二人の間の距離が一気に縮まった。結局、二人は日が昇る直前まで話していて、惜しみながら別々の部屋に戻った。

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