第6話 ドラマチックな始まり

晴夏は演劇部の歓迎会に来た時、思わず自分がとんでもないところに迷い込んだと感じてしまった。


この大学の演劇部は有名で歴史が長いだと聞きましたが、ここまで本格的な劇団とは想像もつかなかった。部室はかなり広くて、中にはいくつのエリアに分けていた。入口のすぐに、長いパネルに歴代の部長、看板俳優、脚本家の名前と写真がずらり並んでいて、その横に今まで作り出したオリジナル舞台劇のポスターが展示されていた。パネルに見覚えある今芸能界で活躍している人たちが何人もそのパネルにいて、晴夏はいつか自分の名前と作品もそこに現れるといいねって想像し始めた。


演劇部は少数精鋭の体制なので、部員数は他の部活と比べてそこまで多くないが、それでも20数人が在籍した。部員たちは俳優、プロダクション(裏方)とクリエイティブの3チームに分かれていたが、必要があれば俳優チームでない人でもステージに立つこともあった。演劇部の経費は主に学校の補助金と舞台の収入からのもので、ここ数年の舞台も売り切れることが多かったから、利益を出ることによって演劇部の財政状況は他の部活より確かに余裕がある方だった。そうとは言え、30人以上が外の飲食店で歓迎会をやるには結構面倒だしお金もかかるので、いつもこういう集まりは大体部室でやることが多かった。


今年の新入りは10人で、晴夏は最初からクリエイティブチームに入ることを決めた。部活の説明会では、演劇部の部員と話し合って、やっぱりここに一番興味があった。将来自分がしたい作家活動にも役に立つと思っていた。


晴夏は他の新入部員と話している時、入口のところに何かざわざわとした。そして、周りの視線も一斉にそちらに向き始めた。


入口へ見ると、ある男が部室に入った。顔立ちのよいイケメン男子で、背も高く、そしてスタイルがいい。彼は女子だけじゃなく、男子の目も引き付けた。男は空いた席を見つかり、周りの関心が無視したように、座ってからずっと携帯をいじっていた。


晴夏はこういうタイプの人を嫌いだった。たしかにいい顔してるだけど、自分の容姿を武器にして周りの目を引き付け、それでも知らないのように注目されたことに酔いそうな人がカッコ悪いと思った。目の前にいること男はこういう感じだった。


しばらくして演劇部の部長が席の前に立ち、みんなは瞬時静かになった。


「皆さん、演劇部へようこそ。部長の牧野まきのたくみと申します。今年は経済学部経営学科の4年生です。今日からよろしくお願いします。」


晴夏は目の前にいる部長はさっきの男よりイケメンだなと思った。それに、牧野部長の声は低くて、とても魅力的だった。まさに自分のタイプだ。


牧野部長は幹部の先輩たちを紹介してから、次は新入部員の自己紹介だった。そして、最後はさっきのあの男の番だ。


桧垣ひがき陸翔りくと、理学部天文学課の一年生です。俳優を目指していて、高校時代から舞台に出たことがありました。これからよろしくお願いします。」


その自己紹介を聞いて、晴夏はこう思った。


「ええ、天文学か、それは意外だな。それに、俳優目指すって、あのルックスならきっと人気が出るでしょう。」


それからの時間、先輩たちと新入生たちは用意されたものを食べながら話をしていた。しかし、急にある女性が慌てて部室に走りながら入ってきた。これを見た牧野部長はみんなに声かけた。


「みんなさん、紹介遅れましたが、こちらはうちの看板女優です。」

「はじめまして、そして遅れてすみません。私は桑原くわはら美鈴みれいです。部長と同じく経済学部経営学科の4年生です。よろしくお願いします。」


みんなの拍手を受けながら、桑原先輩はお辞儀をした。長くてストレートの黒い髪、小顔、そして長身、オシャレな服を着ていた、通りで看板女優になれたということが納得。


後に知ったことだが、牧野部長は桑原先輩と高校時代から付き合っていたらしくて、そのまま同じ大学の同じ学部に入った。桑原先輩は牧野部長のミューズとも言われ、彼は作った台本のほとんどが桑原先輩をメインにあて書きされたものだった。それで、二人は二人三脚でこの演劇部を成功の道へ導きだした。


だけど、長年桑原先輩に匹敵する俳優は中々現れなかったので、これからの発展を考えてどうしても看板俳優も育てなきゃいけなかった。だから桧垣の加入は待ち望んでいたことは過言ではなかった。


桧垣が高校時代から舞台に立つことが多く、地元ではすでに有名人になった。あの顔と高い演技力で魅了された人が大勢いたから、彼の噂も牧野部長の耳にも届いた。去年の夏、牧野部長は桑原先輩と一緒に桧垣と会って、演劇部に入って欲しいと誘った。丁度この大学の天文学科に入りたいから、桧垣は彼らの提案をすぐ受け入れた。だから、桧垣が部長にスカウトされたということが多くの人が知っていた。


クリエイティブチームにいた晴夏は牧野部長の指導で脚本書きの勉強を始めた。だけど、脚本書きは単なる脚本家個人の作業ではなく、実際に俳優チームとプロダクションチームと交流しながら、何度も話し合って脚本の出来上がりまでに必要なプロセスであった。桧垣とはプライベートな交流がないものの、晴夏は彼の芝居を見てから、彼のことを俳優として認めたが、だけど個人としてあまり関わりたくなかった。


逆に、牧野部長は晴夏にとって特別な存在だった。いろいろもの書きのノウハウを教えてくれた上に、彼は晴夏にとても親切に接してくれた。今年、クリエイティブチームに入った新人は晴夏のみだから、晴夏は部長を独占できたように一緒に過ごすことが多かった。もちろん、牧野部長と桑原先輩の関係を知ったから、部長とこれ以上の関係を望んでいないけど、ただ彼を憧れの存在として見ていた。


5月上旬、演劇部は舞台をやることが決まり、今は稽古真っ最中だった。牧野部長は台本の一部を晴夏に任せたことによって事件が起きった。


どうやら桧垣はその部分のセリフに気に入らないそうで、牧野部長に修正のお願いをした。脚本家としてのプライドが傷つけたように、晴夏は最初からその要求を応じたくなかった。


「これはあくまで作品のためだから、あなたへの攻撃ではない。こういうセリフってあまりにも不自然で、ストーリーの流れを悪い影響になる。それに、観客もこの部分は別の脚本家によるものって明白だし。」


だけど、牧野部長からアドバイスを受けて、自分のいけないところをやっと気づき、晴夏はみんなが満足できた形で脚本の修正をできた。桧垣のおかげとは言いたくないが、晴夏は彼の演劇に対するセンスと経験を認めなければいけなかった。


一方の桧垣は、晴夏がどうして自分のことをすごく軽蔑するような態度を取っていたことが理解できなかった。そして、台本の件で彼女の一点張りにも気に入らなかった。だけど、結果的に彼女が書いたものは自分が最初提案したものより優れていたので、晴夏のことを脚本家として認め始めた。同じく一年生なので、これから何度も作品を作ることになるし、これからどんな作品を作れるか非常に楽しみにしていた。

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