第3話 新生活の始まり
晴夏と真琴は高校卒業後、上京して一緒に暮らすことを決めていた。
二人は高校二年から別々の進学コースに進めたが、同じく東京にある国立大学を目指そうとした。晴夏は文学部の日本文学科に、そして真琴は工学部の建築学科に入りたかった。国立大学を選んだ理由は学費が一番安かったから。
晴夏の父は出版社で仕事しているが、給料はそれほど多くなかった。その上、自分の学費まで背負っていたら大変だと思った。だから、彼女は高校時代からずっと小学生や中学生の家庭教師のバイトをしていて、稼いだお金を大学の学費、家賃と生活費に充てたいと考えいて、そうすれば父の負担を少しでも軽くしたかった。名門校の生徒で、晴夏の英語と国語の成績も学年トップになるぐらい優秀だから、生徒数はかなり多かった。だけど、娘はバイトのせいで学業に悪い影響を与えたらよくないと思って、晴夏の父は彼女の学費ぐらい払いたいと言い出したので、高3の二学期からバイトを辞めさせられた。
そういう晴夏を見ていた真琴も高2の時から数学と科学の家庭教師のバイトをし始めた。真琴は分かっていたのは、父は自分が女なので、あまり自分に期待しなかったから、やっぱり自力で大学を卒業することが一番いいと思った。学費を出してくれるとか言いながらも、真琴はそれをあまり期待したくなかった。親と実家から独立したいなら、金銭的に余裕がないとできない。だけど、高3になったら、父は自分の娘がバイトをしていることについて周りの目を気にして、受験に集中すべきという口実でバイトを辞めさせられた。
そんな学業とバイトを両立する日々を経て、二人は待ち望んでいた上京計画を果たした。
実家は東京からそれほど遠くないけど、新幹線でも1時間程度かかった。出発する日、晴夏の父と祖父母は見送りのため駅前に来ていた。その反面、真琴の母だけが来ていた。お父さんは病院で忙しいと分かったので、真琴は彼が来ることを元々期待しなかったけど、晴夏の方はこの光景があまりにも寂しいだと感じた。
家族と駅前で別れ、晴夏と真琴はホームへ向かって歩き出した。新幹線の列車を乗っていた二人は思わずお互いの顔を見て微笑んだ。
「ようやくここまで来たよ。」
「長かったね。」
「これから私たちは自分のために生きよう。思うように生きよう。」
「そうだね。まずは青春を楽しめる女子大生になろう~」
笑い出した二人は、周りの目を気にして話をする声を小さくした。
「マコのお母さん、さっきすごく寂しそうだね。」
「まあ、兄たちも実家にいないし、私まで出ていたらそれでもっと寂しくなる。いつか、私が自立できたら、お母さんをあの実家から連れ出したいよ。」
「マコならきっとできる。問題はお母さんの意思だけど。」
「もう十分だと思うよ。この家族のために自分の人生を犠牲して、自分のことも尊重しない男と暮らすってあまりにも残酷だよ。」
「まあ、今は自分で頑張るしかないよ。いつかこういう決断をすべき時が来たら、マコはきっとお母さんの味方になってくれると信じるから。」
「ありがとう、ハル。一緒にいてくれてとても心強いだよ。」
「私だって、マコがいるから安心して東京進出ができたよ。」
「どんなことがあっても、私たちはお互いの味方だから。」
「約束するよ。」
二人は大学の近くにアパートを借りていた。家賃を分担できるからと思って、ちょっと大きめで、築年数はそれほど多くない物件を選択した。保証人は晴夏の父がなってもらっていて、彼女たちの安全を考慮して、できるだけ治安がいい地域でセキュリティ対策万全のところにこだわっていた。こういう心遣いに真琴はとても感謝していたし、そして晴夏がこんなに親に愛されていたことが羨ましかった。
引っ越してきた二人は早速家のものと食料品を買い始めた。だけど、あまりお金を一気に使いたくないと思って、今一番必要のものだけを買った。そして、いろんな工夫をした二人は、ようやく入学式まで生活に必要のものを家に揃った。
入学式を終えた二人にとって、これでようやく大学生になった実感が湧いてきた。
「これから、もっと人生を楽しんで行きましょう。」と誓った二人は、未来に対してバラ色の期待が膨らんでいた。
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