母が死んだ。
かむヨン
母が死んだ。
今日、母親が死んだ。正確には、一週間前。
仕事終わり、普段かからない、かける気もない番号が表示され、ふと何気なしにとってみた。
突然のことで、驚きはしたが悲しみもなく、平坦な声で”そう…”としか返さなかった。
父親も言葉が多い方ではないので、会話は報告だけで終わり、最後に一言、”葬式には来なさい”で電話が切れる。
そのまま、一人暮らしの家に帰り、いつも通り明日の準備をする。
時間があれば、好きなことをして、寝て、朝を迎える。
それが、私の日常。普通になった変わらない日常。
ただ、時間が流れるだけ、それだけなのに、引っかかりをおぼえる。
母親は、私からしたら決して良い母ではなかった。人からみたらそんなもの、と云われるかもしれない。
けれど、映画やドラマ、友だちから伝わる母親像とは、全く違ってみえた。
参観日には1度、訪れただけ。クリスマスにプレゼントをもらったこともない。
一緒に料理をしたこともない。
勉強を教えてもらったこともない。
常識を学んだこともない。
暴力をふるわれたことはない。しかし、すぐにヒステリックとなって泣き出したり、コンプレックスを悪意なく言葉にする。
そんな、母親
当たり前のことを知らない母親。
生きていく上で必要な事、大切なことは全て外部から知った。母親の人生も。
幼かった私には、自分の母親が普通だった。
愛情ももらっていたと思う。
自我や知識を身につけていき、友だちもできてきた時、普通が普通じゃないと思い始める。
他の子は、手作りのお弁当を作ってもらっている。親と今日あった事を話す。親にサプライズしてもらったなど、羨ましかった。
私のお弁当は決まった冷凍食品、親が一方的に話せど、私の話しは聞いていない。
母親は、私の好物、友だち、嫌いなもの、何も知らない。
私も何も知らない。
唯一知ってるのは、映画。
母親も私も映画が大好きで、好きな映画は、一緒に観に行った。
その時だけは、他と変わらない良い母親。
どこから、ずれていったのだろうか。
叔母から伝え聞いた、母親を知った時だろうか。
私たち姉妹とは、また違う子どもがいると知った時だろうか。
他からお金を騙し取っていた時だろうか。
私たちのお金を全て使っていた時だろうか。
それが、本当だった時だろうか。
何も教えてくれないと、諦めた時だろうか。
きっと、全部なんだろな。
どこかで、信じたかった。けど、それが事実だからしょうがない。だから、家を出た。
一人暮らしを始めてから、1度も連絡をとっていない。度々、一言メッセージが来たりしていたが、返していない。電話もしていない。それが、日に日に間隔を開けるようになり、遂には途絶えた。
その時は、やっと平穏に暮らせるようになったと、何も気にせずにいられた。
それが日常になった。
このまま、絶縁となって忘れていくものだと
家族だとしても、所詮他人になっていくもの。
そう、思ってた。
そんな中での報告。何故だろうか、心がくもる。
明日も仕事なのに、これでは寝れないそうにない。映画でも観て、眠りに着こうと携帯のアプリを開く。
オススメ欄には、昔観た映画が並んでいた。
何も考えず、指がその映画を開始させる。
おかしいな。
その映画をただ、静かに見つめるだけで、内容が頭に入ってこなかった。
昔は、面白くて観てた筈なのに。
母親が、隣で映画のシーンの意味を教えてと、うるさいぐらい聞いてきても面白く観てたのに
今は、感動の場面でもないのに、目が霞んでいく。
人の声が傍にないのが、当たり前になったのに
どうして、求めてるんだろ。
嫌いになりたいのに、なれないひと。
私にとって良い母親だと、言えないひと。
だけど、大好きなお母さんだった。
そんな母親が、死んだ。
母が死んだ。 かむヨン @kamuyonn1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます