第13話 食料の輸送依頼

 ルウの村を出立した。


「しかし、意外だったな」


「何のことじゃ?」


「お前があんなに色々と用意していたことだ」


 謎のアダルトグッズがたくさんあった。

 いったいどうやって用意していたのだろうか。


「ふふふっ。我は世界樹の精霊と言ったじゃろ? 伊達に長生きはしておらぬわ。意外と言えば、むしろカエデの方じゃろう?」


「ん? どういう意味だよ」


「お前さん、元男じゃろう? もっと戸惑うかと思うたが、ノリノリで楽しんでおったではないか。ずいぶんと好き物じゃのう?」


「……」


「図星か」


「……」


「まったく。そういうことなら先に言ってくれればよかったのにのう。これまで、我はずいぶんとガマンをしたからの」


「……うるせえよ」


「ふふふっ、照れるでない。我が相手になってやるから、いつでも言うがよいぞ」


「誰がっ!」


「では、これからは遠慮なくいくとするかな」


「勝手にしろ!」


 そんなことを言いながら、俺たちは町へと歩きを進めていった。

 ……………………。



 町に到着した。

 さっそく冒険者ギルドに依頼達成の報告に向かう。


「あら? カエデちゃんにユーリさんじゃない。おかえりなさい」


 受付嬢がそう声を掛けてきた。


「ああ、ただいま」


「……その様子だと、ビッグボアの討伐は諦めたみたいね。依頼者には申し訳ないけど、懸命な判断だわ」


 ビッグボアの依頼を処理したのは、彼女とは別の男性職員だった。

 ちゃんと職員間で情報共有がされているようだな。


「いや、依頼は完了したぞ」


 俺はそう報告する。


「え!? 本当!?」


「ああ。証拠を見せてやるよ」


 俺はそう言って、アイテムボックスからビッグボアの魔石を取り出した。

 ほとんどの肉は村人たちに振る舞ったが、魔石はしっかりと回収しておいたのである。

 また、肉の一部も保存処理をした上でアイテムボックスに収納してある。

 これは村人たちへ配る分とは別に、自分たち用に取っておくつもりなのだ。


「す、すごい……。本当に討伐してきたのね……」


「ふん。カエデにかかれば造作もないことなのじゃ」


 ユーリが得意げに言う。

 ぶっちゃけ彼女は俺に付いてきただけなのだが……。

 まあ、何も言うまい。

 夜の戦いでは便利な道具も出してくれたことだしな。


「ええ……。疑ってごめんなさい。あなたたちの実力を見くびっていたわ。謝らせてください」


 受付嬢はそう言って頭を下げてくる。


「いいよ。気にしないでくれ」


「ありがとう。報酬を用意するから、ちょっと待っててね」


 しばらくすると、受付嬢が戻ってきた。


「はい、これ。今回の報酬よ。依頼主のあの子から預かっていた依頼の達成料と、ビッグボアの魔石の買い取り金ね」


 俺は受付嬢から金貨10枚以上を受け取る。

 貨幣の相場をまだ完全には掴んでいないが、それなりの額だろう。

 ただ、今回の依頼料はやや割安だという話はあった。

 とんでもない大金というほどではないはずである。

 日本円で言えば、10万円以上100万円以下ぐらいだろうか。


「それじゃ、ありがたく受け取っておくよ」


「はい。それで、このあとは何か予定はあるのかしら?」


「特には決めていないんだが」


「そう。なら、また別の依頼があるのだけど」


「どんな内容なんだ?」


 俺の猫耳装備があれば、大抵の依頼はこなせると思う。

 元の世界に戻るあてがない以上、好き勝手に無双して楽しませてもらおう。


「えっとね……。ここから南西にある港町に、食料を届けてほしいのよ。カエデちゃんのアイテムボックス、ずいぶんと容量が大きいのでしょう?」


「ん? ああ、そうだな。結構入ると思う」


「それなら、一度にたくさん運べると思って。どうかしら」


「なるほど。それは俺にとってもちょうどいい依頼だな」


「それじゃあ、お願いできるかしら?」


「ああ、引き受けよう」


 こうして、俺とユーリは再び依頼を受けることになったのだった。


「明後日の朝にここに来てくれる? 運んでほしい荷物を用意しておくわ」


「わかった」


「よろしくね」


 俺たちは冒険者ギルドを後にする。

 次の日はユーリとゆっくりとくつろいだ。



 そして、当日。

 俺たちは冒険者ギルドに向かう。


「おはよう。来てやったぞ」


「カエデちゃん。早いわね。それに、その格好……」


「ん? 何か変か?」


 いつもどおりの猫のきぐるみ装備である。

 変なのは間違いないが、いつも着ている装備でもある。


「いえ、相変わらず可愛い装備ね。初めて見る人はびっくりするでしょうけど。……それより、ここに置いてある物が運んでほしい物よ」


「おう。これがそうか」


 テーブルの上には、木箱に入った大量の野菜と果物があった。

 肉類や穀物類もある。

 かなりの量だ。


「前にも説明したけど、隣の港町では食糧難に陥っていてね。届けてあげてほしいの」


「わかった。しかし、この量でも、町全体の不足分からすれば足りないんじゃないか?」


 個人として消費する量と考えれば十分過ぎる量だが、100人以上の者が食べれば数日程度でなくなってしまいそうに思える。


「いえ、食糧難とはいっても、まったく食べるものがないわけじゃないからね。これだけあれば、不足分はいくらか解消できるわ。それに……」


「それに?」


「食糧難の根本原因への対処も、こっちで準備中なの。あくまで、その準備が終わるまでの繋ぎの食料のイメージね」


「おう。そうなのか」


 俺は納得してうなずく。


「じゃあ、さっそくアイテムボックスに入れていくぞ」


 これぐらいの量なら、問題なく入りそうだ。

 さくさく入れていこう。

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