第8話 村娘ルウからの緊急依頼
目が覚める。
窓から差し込んでくる朝日が眩しい。
「朝か……」
昨晩はひどい目にあった。
猫耳装備がなければ、俺は無力だ。
「おお、カエデ。ようやく起きたのか。ずいぶんとねぼすけじゃの」
「お前なぁ……。だれのせいだと思ってるんだ」
「ふふ。冗談じゃよ」
彼女はそう言って微笑んだ。
俺はベッドから出て、身支度を整える。
そして、ベッドの横にたたまれている猫耳装備を着る。
「これで一安心だな。ふう……」
「本当にその装備は強いようじゃの」
「ああ。今回の件で改めてわかったよ」
襲ってきたのがユーリだからまだよかった。
快感でよがり狂わされてしまったが、一晩明けた今は無事に開放された。
これがガチの悪人である盗賊の男とかなら、ヤバかったかもしれない。
俺たちは宿屋の食堂に向かう。
俺とユーリで向かいの席に座り、宿屋の店員が運んできた料理を食べていく。
「今日はどうするのじゃ?」
「そうだな。まずは、ギルドに行って依頼を探すか」
「わかった。ならば、我も同行するのじゃ」
「ああ。よろしく頼む」
朝食を終えた俺たちは、冒険者ギルドに向かった。
…………。
「さすがに、もうゴブリン討伐の依頼はないか」
俺が昨日、大量のゴブリンの魔石を提供した影響かもしれない。
その他、掲示板に貼られている依頼書を見てみるが、どれも報酬の低いものばかりだった。
「まあ、ないものは仕方ないのう」
ユーリが言う。
「もう少し強い魔物を倒して、ランクを上げたいんだが……」
「ランクを上げると、何かあるのか?」
「ああ。DランクからCランクに昇格すると、いろいろと冒険者ギルドが便宜を図ってくれるようになるらしい。昨日、説明を受けたじゃないか」
「そういえば、そんなことも言っておったのう」
「お前、聞いてなかっただろ?」
「ふふ。バレたか」
ユーリは舌を出して笑う。
まったく……。
こいつはいつもこうだ。
「それで? そっちは何かいい依頼は見つかったか?」
「うーむ。そうじゃなあ」
ユーリが掲示板を見つめる。
「やはり、これといって良いものはないようじゃ」
「そうか……」
「そんな顔するでない。まだ時間はあるのじゃし、ゆっくり探せばよい。受付の者に聞いてみるかの」
「そうだな」
俺はユーリとともに、ギルドの受付の方に歩いていく。
「ん?」
受付のところで何やら騒いでいる少女が目に入った。
長い髪の少女だ。
歳は俺と同じ15歳くらいだろうか?
彼女は、カウンター越しに男の職員と言い争いをしているようだった。
「ですから、村の周囲に居座ったビッグボアを討伐してほしいんです!」
「それは無理です。その金額では、Dランク以下の冒険者しか雇えません。しかし、Dランクの冒険者に狩れるような相手じゃないんですよ」
職員は困り果てた様子で、少女に言い聞かせるように説得している。
「それでも! お願いします!!」
「うーん。しかしですね……」
「なんとかなりませんか!?」
少女はなおもすがりつく。
ギルド職員の男性も、できれば何とかしてあげたいとは思っているのだろうが。
困ったことに、少女が提示している額は必要な相場よりも下のようだ。
「おう。ちょっといいか?」
俺は、2人の間に割って入る。
「なんですか、あなたは? 珍妙な格好をしていますね」
男性職員が怪訝な目で俺を見る。
「俺がこの子の依頼を受けてやろう」
「はぁ?」
「いいのですか!?」
俺の言葉に、男性と少女が同時に反応した。
「ああ。構わない」
「ちょっと待ってくださいよ!」
男性が慌てふためく。
「いくらなんでも、あなたみたいな女の子を1人で行かせるわけにはいきませんよ。それに、その変な格好はなんなのですか?」
「えっと……。これは、猫の加護を受けた装備なんだ」
俺はそう返答する。
「はぁ……? 猫の加護? 何を言っているのですか」
男性は呆れた顔をしていた。
「とにかく、あなたを1人で行かせるわけにはいきません。無闇に死人を出したら、冒険者ギルドとしても損失となりますので」
「なら、我も加わろうではないか」
ユーリがそう言う。
「え?」
「我がいれば問題なかろう?」
「まあ、お一人よりはマシですけど……。いや、でも……」
男性職員がなおも渋る。
「それとも、そなたが代わりに依頼を引き受けてくれるのかの?」
「いや、そういうことではなくて……。そもそも、あなたたちのような若い娘だけでビッグボアを倒せるわけが……」
「できるぞ」
俺はそう言う。
ビッグボアとやらがどんな魔物かは知らないが、最強の猫耳装備を持つ俺なら倒せない敵ではないはずだ。
「はい?」
「できると言ったのじゃ。ビッグボア程度なら、カエデ1人で十分じゃ」
俺の代わりにユーリが自信満々に答える。
「…………」
男性は口を開けて固まっていた。
「な、何を言って……」
「昨日、ゴブリンの魔石が大量に持ち込まれた話は聞いておるか?」
「はい? まあ、一応は」
「それを持ち込んだのはカエデじゃ」
「えっ? そうなのですか?」
「ああ。そうだ」
俺はそう答えた。
「……そういえば、ヘンテコな大型ルーキーが加入したと言っていましたか……。わかりました。依頼の処理はこちらに任せてください。Dランクの依頼として受理しますので」
「ありがとうございます!」
少女が嬉しそうに飛び跳ねる。
こうして俺たちは、ビッグボアの討伐に向かうことになった。
今さらだが、依頼の詳細内容を聞いておく。
ビッグボア。
体長3メートルを超える巨大な猪型の魔物らしい。
牙による攻撃だけでなく、突進にも注意しなければならない厄介な相手だそうだ。
「さて、行くとするかのう」
ユーリが声をかけてきた。
「ああ。それで、お嬢ちゃん。君の村はどこにあるんだ?」
俺は依頼主の少女にそう問う。
「はい。ここから南に行ったところにあります。ちなみにあたしの名前はルウです」
ルウか。
なかなか可愛らしい名前だ。
外見も素朴で悪くない。
俺が男のままだったなら、ほっとかなかっただろうな。
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