第9話 ビッグボア討伐へ

 冒険者ギルドにて、村娘のルウから緊急依頼を受けた。

 彼女、そしてユーリとともに冒険者ギルドから出る。


「よし、ルウ。案内してくれ」


「わかりました。あたしは、村から馬で来ましたが……。カエデさんは、馬をお持ちですか?」


「いや、持ってないな」


「では、馬屋で借りないと……」


「大丈夫じゃろう」


 ルウの言葉を遮るように、ユーリが口を開いた。


「え?」


「カエデが担いで運べばよい」


「は、はぁ!?」


 ルウが驚く。


「カエデは見た目によらず力があるから、我らを担いで走ることぐらい朝飯前じゃ。のう、カエデ?」


「うーん。それは、まあ」


 最強の猫耳装備なら、それぐらは造作もないことだ。


「ほれ、本人もこう言っておる」


「で、でも……」


「心配はいらぬ。もし何かあっても、我が守ってやるからの」


「は、はぁ……」


 ルウは、俺とユーリを見比べて困ったような顔をしていた。


「なら、行くぞ!」


 俺は右手でユーリを、左手にルウを抱えた。


「おっ!」


「きゃっ!?」


 2人が驚いたように声をあげる。


「しっかり捕まっていろよ」


 俺は2人を担ぎ上げたまま、走り出す。


「むぅ!?」


「ひゃあ!?」


「風のように駆け抜けるぜ!!」


 そのまま、俺は全力疾走した。

 ……………………。

 そして、1時間後。


「ここが依頼のあった村か」


 俺たちは村の門の前にたどり着いた。


「は、はひぃ。そうれすぅ……」


 俺の腕の中でぐったりしているルウが、弱々しい声で言った。


「うーん。もうちょっと鍛えた方がいいんじゃないか?」


「無茶言わないでくださいよぉ……」


「ふむ。とりあえず、降ろしてくれぬか?」


 ユーリは元気だ。


「ああ、悪いな」


 俺は2人を解放する。


「カエデ、お疲れ様じゃ」


「いや、それほどでもない」


 最強の猫耳装備なら、1時間走る程度は何でもないことだ。


「すごい速度でした。……とりあえず、村長のところへ案内しますね」


「わかった」


 ルウの先導で、俺たちは村の中心部へと向かう。


「おや、ルウじゃないか」


 高齢の男性がそう声を掛けてきた。


「こんにちは、村長」


「その人たちは誰かね?」


「ビッグボアの討伐を受けてくれた冒険者です」


「は? その変な格好をしたお嬢ちゃんが?」


 村長は目を丸くする。


「はい。カエデさんとユーリさんですよ。ゴブリンの群れの討伐経験もあるそうです」


「えぇ……?」


「本当だぞ」


 俺は村長に向かって言う。


「カエデだ。よろしくな」


「あ、ああ。儂はこの村で村長を務めておる。それで、ビッグボアを討伐してくれるというのは本当なのじゃな?」


「おう。任せてくれ」


 俺は力強く返事をする。


「しかし、本当にこの娘さんたちだけで大丈夫なのかの……?」


「大丈夫ですよ! カエデさんはすごいんですから!」


 ルウが胸を張って答える。

 戦闘はまだ見せていないが、村まで彼女とユーリを担いで疾走してきたからな。

 身体能力に対しての信頼は得ている。


「はぁ……、そうですか……」


 村長は困惑した表情を浮かべていた。


「では、早速向かうとするかな」


「え? 休憩はされないのですか?」


「ああ。大して疲れていないからな。それに、対処は早い方がいいだろう?」


「え、ええ、まあ……。では、よろしくお願いします。くれぐれもお気をつけて」


 村長に見送られ、俺たちはビッグボアの目撃情報があった場所へと向かう。

 ビッグボアは森の奥地にある洞窟に住んでいるらしい。

 ルウの案内のもと、森を進んでいく。


「あそこですね」


 ルウが指差したのは、森の中にぽっかりと空いた穴だった。


「あれが、ビッグボアの巣か」


「はい。どうしますか?」


「うーん。俺が中に入って、仕留めてくる」


「え? 危なくないですか?」


「大丈夫だ。まあ、見てろ」


 俺は自信満々で答えた。


「わ、わかりました。気を付けてくださいね?」


「おう。わかってる」


 俺たちは、洞窟の中へと足を踏み入れた。

 中では、巨大なイノシシが寝転んでいた。

 睡眠中か。

 今がチャンスだ。


「魔法を使ってみるか。……『ネコバーン』」


 俺の手のひらから火の弾が生成され、射出される。

 こういう火魔法って、普通は『ファイアーボール』とか『フレイムスピア』とかじゃないか?

 ネコバーンってなんだよ。

 そう自分で自分に突っ込む。


「ふむ。さすがはカエデじゃの。火魔法まで、猫の姿をしておるとは」


 ユーリがそうつぶやく。

 確かに、俺が放った火の弾は猫の姿をしている。

 ネーミングセンスはよくわからないが……。

 とにかく威力は高いようだ。

 ビッグボアに着弾すると同時、大爆発を起こす。


「ブモォオオオッ!?」


 ビッグボアは悲鳴をあげて飛び起きる。

 そして、そのまま走り出した。

 だが、出口方向には俺たちがいる。

 逃げ場はない。


「逃がすかよ!」


 俺は追い打ちをかけるように、もう一度ネコバーンを放つ。


「グボゥア!?」


 今度は、しっかり命中した。


「よしっ!」


「見事じゃの!」


「まだ生きてます! トドメを刺してください!!」


 ルウがそう叫ぶ。

 俺は猫パンチでビッグボアを袋叩きにした。

 やがて、奴は息絶えた。


「ふう。なかなかしぶとかったな」


「うむ。そうじゃのう」


「あのー……」


 ルウの声が聞こえたので振り返る。

 そこには、呆然と立ち尽くすルウの姿があった。


「終わったぞ」


 俺の言葉に、ハッとした様子で駆け寄ってくる。


「いやいやいやいや。何なんですか、今の!? どういう原理で、あんな化け物をあっさりと倒したんですか!?」


 ルウがそう叫ぶ。

 一部始終は彼女も見ていたはずなのだが。

 よくわからないことを言うんだな。

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