虹が赤く染まる時
一
「はあ。遅いな、アイツら」
彼の名は
大学の成績も平凡そのもので、素行にも目立ったものは無い。それ故に、秋比古の存在を知る者はこの大学内においても少なかった。
この年のクリスマス・イヴに、彼の遺体が大学裏の山中にある廃屋で見つかるまでは。
「何か面白いことないかな……」
学友が昼食を買いに行っている間、暇を持て余した秋比古はスマートフォンを片手に、惣菜パンに齧りつく。彼はとりわけ苦学生という訳ではないが、小食であり昼食はこのようにパン一つで済ませることが多かった。
秋比古が興味の無いネットニュースを流し見る間、彼の元へ大きなトレーを持った二人の影が近づく。
一人は髪を明るい茶色に染めた、背は低いながらも恰幅のよい男。そしてもう一人は、秋比古と同じく痩せ型で、眼鏡をかけた聡明そうな男だ。
「悪い、アキ。待たせちまったな」
小柄な男が、秋比古に苦笑しながら声を掛ける。
「遅ぇよ。ってあれ、ラーメンだけか? ヒロ、絶対足りないだろ」
「しゃあねぇだろ。なんか知らねぇけど、今日はやたらと混んでてさ。なあ、タケやん」
話題を振られた眼鏡の男は、カレーライスの乗ったトレーを机に置いて静かに言う。
「昨日で経営学部の夏休みが終わったんだし、こうなるのは当然だろ。悠長にしていた俺らが悪い」
「そうだったのか⁉ なんだよ、もっと早く言ってくれよ……今日の日替わり定食、楽しみだったのにな」
「なら、もう一回並んでくれば?」
「ラーメン伸びちゃうだろ! あ、待てよ。食ってから並び直せば、もう列も空いてるだろうし、イケるかも」
「三限に間に合わないだろ。それで我慢しておけよ」
「ああ、確かに。仕方ねぇ、我慢するか」
眼鏡の男に諭され、小柄な男も大人しく席について昼食を摂り始めた。。
『ヒロ』と呼ばれた小柄な男、
『タケやん』と呼ばれた眼鏡の男、
この三人は、入学当初より行動を共にし始め、今では互いに信頼し合える存在になっていた。大学を出てからも交流を続けられる、まさに友人である。
秋比古は、二人と共に過ごす学生生活を心から楽しんでいた。それこそ、講義よりも彼らと過ごす時間を優先するほどであった。
しかし、秋比古が田柱、村林の存在をこれほどまでに大事に思っているのは、彼の過去が大きく関係している。いや、過去ではなく現在進行形で秋比古自身の抱える一つの問題が、彼の心に多大なる影響を与えていた。
末野 秋比古は、『同性愛者』なのである。
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