10.王さまと悪魔
「人の涙の匂いがしますね。」
一角獣がいいました。
「また、どこかで悪魔が人を泣かせてしまったのだろう。残念なことだ。」
ツグミもいいました。
ソラトもそのことに気がついたのか、彼女は涙をその瞳いっぱいに溜めながらも顔を上げました。
そして、泣くのをやめて真っ白な袖で涙を拭くと、その顔に優しい笑顔を浮かべていいました。
「扉のうしろにおいでの方。このだめな悪魔のために涙を流してくださることに
感謝いたします。さあ、こちらにおいでください。
こんな所にまでいらしたからには何かわけがあるのでしょう?
さあ、こちらで話してください。」
王さまがおずおずと部屋に入っていきますと、ツグミは
「何だ、鳥ではないか。人ではないのか?」
といいましたが、一角獣は王さまを見て
「まってくださいカイムさん。この鳥は、確かに人のようですよ。」
といいました。
王さまは悪魔たちを前にして、しばらくの間、ただ黙ってぼうっと立ち尽くしておりましたが、気がついたときには
「あなたたちは、何をなげいているのですか?天国に帰るとか、天使に戻るとか、それは一体どういうことなのですか?」
と知らないうちに疑問が口を飛び出していました。
ソラトはその言葉を聞くと、再び悲しそうにうつむいてしまいましたが、ツグミは
「何も知らんのだな。」
と呆れ顔でつぶやきながらも
「わがはいたち悪魔は皆、もともとは神の下に仕える天使であったのだ。
言葉を言葉通りにしか理解できぬ馬鹿ものどもの、卑劣極まりない策謀によって、
天上から追い堕とされてしまったがな。
ところで我々は天に戻ることもできる。
一万の人を喜ばせ、感謝の言葉を受けることが、それだ。
しかし、われら悪魔は、
だか、それでは『一万の人を喜ばせる』ことなどできん。
そこで、向こうの方からすり寄って来る人間、魔法使いだのなんだのに力を貸し、
彼らを通して人々の感謝を得ようとしたのだ。
だが、進んで悪魔と交わろうとする人間はたいていが悪いやつなものだから、
わがはいたちの貸してやった力を好き勝手に使いほうだい使う。
結局、われらの力は一万の人を喜ばせるどころか、その逆に一万の人を悲しませ、
天に戻ることもかなわんというわけだ。」
そう王さまに教えてくれました。
「わたしも、天に戻りたい一心で、一人の魔法使いに力を貸しました。
でも、その方はわたしの力を使って人々を苦しめるばかりなのです。」
うつむいたまま、消え入るようにつぶやくソラトに、王さまは
「この姿も、魔法使いによって変えられてしまったものです。
そのせいで、あなたのように泣いている悪魔がどこかにいるのですね。」
と、いいました。
すると、一角獣は王さまをじろじろと見つめてたずねました。
「もしや、あなたはレービュの王ではありませんか?
魔法の薬で鳥になったレービュの王ではないのですか?」
その声に、ソラトは弾かれたように顔を上げると、
「ああ、わたしです。その魔法使いに力を貸したのは。」
と叫び、ふたたび涙を流し始めました。
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