6.魔法使いの魔法のもと

「ああ、わしらはこれからどうやって生きていけばよいのだろう。

畑で豆をもらおうか、土からミミズを掘り出そうか。

ああ、どうやって生きていけばよいのだ。」


町の真ん中に生えているりんごの木の上で王さまはいいました。


「王さま、それにしてもくやしゅうございます。

家来どもだけならまだしも、妻や子供たちでさえわたしたちとわたしたちのにせものを見分けることができないとは。」


大臣は怒ったような、悲しいような声でいいました。


「しかたのないことだ。今、わしらは鳥であって、人間でも、ましてや王でも大臣でもないのだし、魔法使いは王と大臣なのだから。」


王さまは大臣にそういうと


「みな、目に映るものを本当だと信じてうたがわないのだ。」


と、だれにいうでもなくつぶやきました。

そして、二人はぽろぽろと涙をこぼしました。

りんごの木の下では一人の老人が昼寝をしていましたが、王さまたちの涙が当たったのでしょうか。

目を覚まして不思議そうに二人の方を見つめていました。



「そこにおられるのは、王さまと大臣殿ではありませんか?」


そう問いかけられて、ふたりは耳をうたがいました。

その声は自分たちを王さま、大臣殿、と呼んだのです。

王さまが涙をふいて声のした方を見ると、そこに立ってこちらを眺めているのは

つい先月まで自分に仕えていた道化師の老人ではありませんか。


「やっぱり、王さまなのですね。なぜ、そのような姿で泣いておられるのですか?」


この老人が、道化ではありましたがなかなかの物知りであることを王さまは知って

おりましたので、大臣が魔法使いにもらった薬を飲んで鳥になったこと、もとに戻るおまじないの言葉を忘れてしまったこと、大臣の家にはにせものの大臣が、王さまの宮殿にはにせものの王さまがいたこと、それはきっと魔法使いにちがいないこと、

すべてをかくさず老人に話しました。


老人は、王さまたちの話をきいてしばらく考えておりましたが、にこりと笑いながらこういいました


「ずっとずっと北へいったところに悪魔のすむ城があるときいたことがあります。

人ではとうてい登りきることのできない高い山々にかこまれているそうですが、今のお二人は空を飛ぶことができるのですから、きっとたどりつけるでしょう。」


それをきいた王さまたちは口々に


「神さまを信じているというのに、悪魔に会いに行くことなどできない。」


と、いいました。

でも、本当のところはえらい賢者たちの書いた本や、僧侶たち説教に語られる

『恐ろしい悪魔』に会うのが恐いからなのでした。


「だいいち、悪魔にあってどうなるのだ?」


大臣は、老人にたずねました。老人がいうには


「ゼルオドルム王の呪いなどといったところで、邪耳王などしょせんは二千年も昔の人間ではありませんか。

どくろに身をやつした者にそのような力があろうはずがありません。

呪いは呪いでも、結局その魔法使いの魔法。

そして魔法使いの使う『魔法』というものは、どんなものにしろ悪魔の力をかりて

おこなうものです。

いってみれば悪魔というものは魔法使いの力のもとなのですから、きっと魔法をとくこともできるでしょう。」


と、いうことでした。

それでもぐずぐずしている二人を見て、老人はいいました。


「王さま。あなたは先ほど『人は目に映るものを本当だと信じてうたがわない。』と、そうなげかれませんでしたか?

あなたがたは悪魔が恐ろしく、悪い者たちだと信じているようですが、悪魔をその

ご自分の目で見たことがあるのですか?」


王さまはその言葉を聞いてもっともだと思いました。

が、大臣がまだぐずぐずとしているのを見て


「いってみようではないか大臣よ。

賢人たちは悪魔を悪いやつらだといっているが、わしらはこの目でその悪魔というやつを見たことがあるわけではない。

だから、賢人たちのいっていることが全く正しいとも限るまい。」


と、いいました。

王さまの言葉をきくと大臣も、心を決めたようにうなづきました。


二人は老人に別れをつげると、北へ向かって飛び立ちました。

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