多数血

赤鐘 響

Majority rule


 最初に多数決で道具が決められた。

 今回は一丁の拳銃が選ばれた。理由は様々だったが、「一瞬で済むから」という理由が多かった。

 皆思う所はあったが、多数決で決まったのだから仕方がないと納得した。



 次に多数決で場所が決められた。

 今回は自然に囲まれた景色のいい山の山頂が選ばれた。理由は様々だったが、「自然に囲まれていた方が、きっと喜ぶだろう」という理由が多かった。

 皆思う所はあったが、多数決で決まったのだから仕方がないと納得した。



 次に多数決で日時が決められた。

 今回は一週間後の8月8日が選ばれた。理由は様々だったが、「末広がりで縁起がいいから」という理由が多かった。

 一部の人々から「縁起なんて気にしても仕方ないだろう」という声が上がったが、最終的には多数決で決まったのだから仕方がないと納得した。



 次に多数決で拳銃を使う人が決められた。

 今回は一人の若い男性が選ばれた。理由は様々だったが、「若者の仕事だ」という理由が多かった。

 多くの人が多数決で決まったのだから仕方ないと納得した。しかし、選ばれた男性だけはずっと異議を唱えていた。



 次に多数決で拳銃を使われる人が決められた。

 今回は一人の少年が選ばれた。理由は様々だったが、「天涯孤独で身寄りがないから」という理由が多かった。

 多くの人が多数決で決まったのだから仕方ないと納得した。選ばれた少年は黙って下を向いていた。



 次に多数決で当日付き添う人が決められた。

 今回は10人の男女が選ばれた。理由は様々だったが、「諸々の処理に長けている」という理由が多かった。

 多くの人が多数決で決まったのだから仕方ないと納得した。選ばれた人たちは多少の不満は漏らしたが、最終的には多数決で決まったのだから仕方がないと納得した。



 全ての要素が多数決で決まった1週間後、10人の男女と若い男性、少年はとある山の山頂に居た。

 少年は大きな木に括り付けられ、大きな声で泣いている。それを同じく涙目で若い男性が見つめていた。

 10人の男女は若い男性にありとあらゆる罵声を浴びせる。

 少年はずっと泣き続ける。幾つかの命を乞う言葉が木霊して帰って来た。

 数分経って、乾いた音が周囲に響き、若い男性が膝から崩れ落ちた頃、少年の鳴き声は止んでいた。



 多数決

 多数決

 


 

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多数血 赤鐘 響 @lapice

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