第3話 黒い羊は眠れない

 リアルじゃないとは思っていた。動物園やふれあい広場で見かけるようなものではなく、アニメなどでデフォルメ化された、太いペンで描かれたような、もこもこのかわいい羊。そこには羊がたくさんいた。パーティ会場のようなところで寝そべり、草を食み、他と戯れ、とこんな具合に各々が自由に過ごしていた。そこに不思議はない。そこに違和感はない。

 羊は草を食むものだ。羊は可愛い。さまざまな色の羊がいる。羊は酒が回ると陽気になる。そして羊は喋るのだ。

「一人なのかい」

 その言葉に私は頷いた。なぜか羊とは会話を交わしてはいけないという強迫観念があり、そのせいで私はどの羊ともまともな会話ができないでいた。多くの羊がいる中で私一人だけが人間だったが、その違和感には誰も気づいていない。

「そりゃ珍しい」

 ふむ、とその黒い羊はキュッと丸い目を細めて品定めするような目つきでこちらを見た。もこもこの羊毛が暖かそうに見える。ふいに、その羊に抱きついてもこもこに頬擦りしたい衝動に襲われた。もこもこだ。暖かそうだ。ここは寒い。寒かった。なぜ私には彼らと同じようなもこもこがないのだろう。なぜ、私は彼らのような羊じゃないのだろう。

「触りたそうだね」

 黒い羊は不敵に笑う。心を見透かされたような気分だった。気まずさのあまり何も言えなくなっていたら、ふわりと何かに包まれる感触がした。

 もこもこだ。もこもこが私の体を包んでいた。心地よかった。目を閉じた。

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