故郷

 船に乗っている。

 ゆらりゆらり、まったり揺れながら。


 客席の窓から海を眺める。

 一面真っ青、底も見えない海。

 微かに見える島の輪郭。

 その島へ到着するまであと少し。


「……」


 そわそわしてしまう。

 膝に乗せたマットブラックのジェットヘルメットとグローブ、リュック。

 何をしようか、まずは民宿に寄ってお土産を渡して、島を一周、それから、それから……特にすること、ないかな。

 スマホの電池残量、問題なし。

 準備は万全なのに、心は落ち着かない。


 海を眺めることしかできず、過ごすこと数十分。

 アナウンスが流れ、間もなく到着することを伝えてくれた。

 窓から近くなった島を覗く。

 走りやすそうに整地された道路と、一か所に集まった家々と小さなスーパーが港からハッキリ見える。

 奥には民宿。変わらない建物と看板に、安心と緊張が交互に襲ってきた。

 港に到着し、放送の指示に従い甲板に向かう足取りは背筋が伸びてぎこちない。

 他の自動車が並ぶその隙間にいる、マットグリーンの原付。ボディにクリーム色の線が入っている。

 丸目のヘッドライトと小さく丸いウィンカー。

 左側にソケットがあり、エンジンを点けて走っている間に充電できる便利なアクセサリーも付いている。

 シンプルなメーターは速度計がデカデカとあり、下の小さなパネルには走行距離。

 カフェテリアに似合いそうなデザインに、思わず魅入ってしまう。

 

 船から港へ降ろし、邪魔にならない場所へ移動。

 ヘルメットよし、グローブよし、燃料よし、右ハンドルの下にあるセルスイッチを押して始動。軽く唸る始動音が心地いい。

 ゆっくり右ハンドルを回し、島の道を走る。


 みんな元気かな……ケンカ、してないかな。

 裏切者って、思われてないかな……――。

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