こちら調達班

 マットブラックのボディに凸凹の面がいくつもある太いタイヤ。

 ヘッドライトグリル越しに地面を照らしている。

 シールドのないジェットヘルメットをかぶった少年、サングラスをかけてハンドルを握り、足場の悪い泥道を押し歩く。

 跨るには不十分な腰に巻くタイプのエプロンと白い服に黒いズボンの格好。

 リアキャリアにくくりつけたボックスにはキャンプ道具も乗せている。その他、料理道具も積載。

「はぁ……しんどい」

 軽口でも叩きそうな明るい声で疲労を呟く。

「これも全部あいつのせいだよ、もう!」

 恨めしくこの場にいないあいつを思い浮かべた少年は、握力を強める。

 ブーツは泥にまみれ、ようやく道路に出られた少年。

 はぁ、と息を吐いてサイドスタンドを立てて休憩する。

「あー腹減った。なーんか作ろうかな、材料ちょーっと使ってもバレないっしょ」

 誰もいないことをいいことに、独り言を続ける少年はボックスを開けた。

 ボックスの中には卵と、鶏肉、玉ねぎ以外にもたくさん食料が詰め込まれている。やや温くなった保冷剤も。

 折り畳みのできるバーナーを組み立て、カセットガスを接続させた。

 縦に長い鍋を置き、油をひいて一口大にカットした鶏肉と玉ねぎを、少年は鼻歌交じりに入れる。

 醤油と砂糖、酒を適量注ぎ、強火にかけていき、煮立ったらスプーンで混ぜて中火にする。

「ふふーん、ホントはライスがありゃ最高なんだけどねー」

 片手で卵を割り、カップの中で溶きつつ、ニマニマと言う。

 溶いた後は鍋に入れて、スプーンで固まらないよう混ぜて馴染ませていく。

 鼻腔に漂う香りに少年は満足げ。

「かんせーい。よしよし、早速いただき」

 温かい内に食べようとした少年だが、突然鳴り響いた着信音に目を丸くさせた。

 シートに手を乗せて立ち上がり、リアキャリアに積んだ中からスマホを取り出す。

「はい、こちら調達班っす!」

『……貴様、今どこにいる?』

 冷たく、貴様と呼んでくる相手に、少年は苦い顔を浮かべる。

「ど、どーもコック長、今やっと泥だらけの道を抜けて、国道に出たところっすよ。あとは真っ直ぐ行けばお店に戻れる感じです」

『一〇分、それでも戻らないなら、貴様はクビだ』

「うへっ!? そりゃないっすよ! ちゃんと必要な食料は手に入ったんですから! コック長が気に入ってる超高級な卵を販売してる養鶏場から、タダで手に入ったんすよ? クビなんてされたら、もう俺倒れて卵を割っちゃうかもー」

『……一体どうやって手に入れたか知らないが、まぁいい。三〇分で戻ってこい、そうすればクビは回避してやる。調達した食材を使ったら、減給だからな』

「了解っす!」

 通話が終わり、少年は大きく息を吐き出した。

「ホンット腹立つよ、あの野郎……なーにが「貴様はクビだ」だよ、こっちとら必死にバイク跨って調達してんすから、大目に見てほしいんですけどぉ。はぁーやだやだ上の奴らは……さっさと食べて戻ろ、な、相棒」

 静かに佇むマットブラックのボディに声をかけ、ニッコリ笑顔の少年は、少し温くなった料理を味わうことなく食べた。

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