空っぽの地平線
ジェットヘルメットのクリアシールドを上げ、銀髪の少年が一言。
「退屈だなぁ」
深い、黒に近いグリーンカラー。タンクに描かれた流れるような『つ』その内側に格式が含まれているような字体。銀に輝く349㏄空油冷単気筒にも刻まれている。
ヴィンテージ感があるデザインだが、USBポートや液晶パネルのメーターが搭載。通信機器がポートに繋げてある。
安定した、ドが連打されるエンジンの音がよく響く。
エメラルドグリーンの瞳にはひたすら直線の道路と景色が映る。
リアキャリアに積んだテント一式と鍵付きクーラーボックス。
くたくたのダッフルコートと中にはスーツジャケットと襟シャツにネクタイ、スーツパンツにブーツ、という格好をした少年。
道路以外に見える物、左側は砂漠地帯、右側は草原地帯。
空と地を分離するような、僅かに丸みある一線だけが少年を引きこむ。
晴天で雲が少ない、暑くも寒くもない気候に、少年は欠伸をする。
「……なーんもない」
少年は、はぁー、と息を吐いた。
彼が見た境界線は、数キロ先。道路から逸れた、右側にある集落だった。
ギアをニュートラルにして、エンジンをつけたまま降りた少年は、辺りを見回す。
人の気配がなく、寂れた建物が数軒だけ。
外壁が崩れて室内まで丸見えになっている。少年は、お邪魔します、と呟いて散策する。
「…………」
草にまみれた白骨化した人間の死体が所々に散らばっていた。
頭蓋骨は外部からの強い衝撃で破損している。切断されたように右腕の骨が離れている物もある。子供の身長ほどしかない人骨を細い骨が横から覆い倒れている。
木箱を雑に開ければ、軋みに木片がボロボロと崩れ落ち、埃が舞う。
少年は全ての建物で散策を繰り返す。
1時間ほどの散策を終えた少年は、ふぅ、と肩を落とした。深い、黒に近いグリーンのボディを撫でる。
エメラルドグリーンの瞳を細くさせ、通信機器に、
「調査隊員……ナンバー006」
少年は話しかけた。
『ナンバー006承認、報告どうぞ』
通信機器は乱れることなく、ハッキリと返ってくる。
少年は、空虚に近い集落を寂し気に眺めた後、すぅ、と酸素を吸う。それから、報告を始めた。
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