小さな島に配達

「おはようございまーす!」

 明るめの少女の声が一軒の住宅に響き渡る。

「はいはい、おはようさん」

 スライド式の扉が、ガラガラと砂利を引き摺りながら開く。

 挨拶を返したのは丸メガネの細い大学生。

 リズムの良い排気音が少女の背後で響く。シルバーに輝くマフラーが揺れながら、熱を吐き出している。

 丸目のヘッドライトが午前の島を微かに照らす。

 虎柄子猫のシールを貼ったジェットヘルメットをかぶり、シールドを指先で上げて、リアボックスから封筒を取り出した。

 大学生は少女から受け取り、差出人を確認。あまりの分厚さに苦笑いを浮かべる。

「お嬢さん……」

「彼女さんですか?」

 少女はニコニコと嬉しそうに訊ねる。

「あぁーうん、そうみたい」

「ということは、ラブレター! スマホがあるのになんだか古風なやり方ですねぇ」

 大学生は小さく笑みを浮かべる。短い髪を掻いて、分厚い封筒に微笑んだ。

「んー……ラブレターというか……小説だよ、甘ったるい恋愛小説」

「へっ?!」

 目を丸くさせた少女に、大学生は吹き出して笑う。

「そんな驚かんでも、小説の送りあいっこしてるんだ」

「えっ、私も読んでみたいです! お兄さんの読ませてくださいよ」

 封筒を掴んだ手を上げた大学生は、

「やーだね、コピーされて島中にばら撒かれたらシャレにならん」

 体を内側に、スライド扉を少し閉める。

「せめてどんなのか教えてください!」

 しつこく迫る少女に、大学生は数秒ほど唸り考えた。

「…………教えない」

 ガラガラと砂利を引き摺りながらスライド式の扉はピシャッと閉まる。


「ちぇー」


 口を尖らせた少女は、島の時計台が知らせる時間にハッと目を大きくさせて、急いでリアボックスに鍵をかける。

 黄色に跨がり、華麗な足さばきでスタンドを上げ、左足のつま先で何度か踏み、右手でアクセルを回す。


 小さな島に響くエンジンが少しだけ住宅から遠くなり、港に寄る船に向かっていく。

 二階の窓から彼女の背中を眺め、大学生は頬杖をつく。

 机を、数枚の原稿用紙と筆記用具が支配する。

 丸メガネの奥で優しく微笑む瞳に映した後、原稿用紙に物語を書き込んでいく……――。

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