きっかけ(半分本当の話)

 本体3万、整備費3万、計6万で手に入れた古いスズキのスクーター。

 30㎞/hという速度規制を知ってはいたけど、そんな大人しくトロトロ走るような性格ではなかった。

 じゃあ何故購入したのか?

 車を買う余裕がなく、自動車免許で運転できるクラスが50㏄だったから本体も税金も安い物を購入しただけ。

 地方で、田んぼばかりの一車線道路。信号も少なく、風から守ってくれる建物もない道ばかり。

 仕事帰りのこと、まだ薄暗くなる前で視界は鮮明、ふいに前方に見えた人影にゆっくりブレーキを握った。

 車の往来はほとんどないから、余計に目立ち、一目で困っているのだと分かった。

 アメリカのギャングみたいな革ジャンを着て、口や顎を覆い隠すような白い髭を伸ばしているおじいさん。サングラスをかけて、おしゃれで派手な半ヘル。

 立ち尽くすおじいさんの前には、見事に倒れているデカいオートバイ。

 思わず心配よりも、初めて実物を見たという感動が大きくなってしまう。

 クルーザーバイク、無駄をそぎ落としたボバースタイルで、派手な青い塗装が施されている。

 バイクと言えばこれでしょ、ハーレーダビッドソン。

 刻まれた横文字と存在感はどのオートバイも寄せ付けないほどの圧倒的な物だ。

 感動を抑えつつ、ホッとしたおじいさんと一緒に車体を起こす。

 ボディに触れるなんて、もう二度と無いんじゃないか? そんな体験ができた。

 おじいさんは申し訳なさそうに感謝を何度もして、再びハーレーに跨ぐ。胸を躍らすようなリズムのいい大音量が一気に田舎に響き渡る。

 スマホや本だけじゃ分からない実物の迫力には心臓が跳ねあがった。もう手を洗いたくない、それぐらい感動してしまう。

 遠くなっていくハーレーを見送ってから、端っこに停めたスクーターに目をやればミニチュアに見えた……。

 それが、ある意味二輪免許に興味を持ったひとつのきっかけかもしれない。

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