第17話 デーモンハンター
しんしんと雪が降り積もる夜。今はもう誰にも使われていない古びた洋館に、女の足が鎖で繋がれている。
その女の側には蜘蛛のような6本の足と、黒い鉱石で覆われた体に人間の頭を持った化け物がいた。
「お嬢ちゃん。ダメじゃないか。家主のいる家に勝手に入るなんて。」
化け物は、笑みを浮かべながら女に顔を近づける。悲鳴を上げながら化け物から離れようとする女。しかし、それも鎖によって阻まれる。
何故こうなってしまったのか。女は友人と一緒に肝試しをするためこの洋館に入った。そして、この化け物と出会い、1人逃げ遅れた彼女は化け物に捕まり鎖に繋がれてしまったのだ。
「お嬢ちゃん、せっかくだから紅茶でもどうかね?」
そう言うと化け物はスイッチを押した。カタカタという音と共に何かが暗闇の中を蠢く音がする。女の鼓動は早まり、緊張感が走る。
闇の中から、女の前に現れたのは新幹線のプラモデルだった。これって...。と女は呟く。化け物はニヤリと笑った。
「あぁ、プラ◯ールさ。」
化け物は、新幹線に乗ったティーカップをとり、女の前に置く。新幹線は用が終わると、また暗闇の中に走り去っていった。
「私はここで一人ぼっちだったから、時間を持て余していてねぇ。いつしか、この洋館にあった大量のプラ◯ールを組み立てる事が生き甲斐になっていたんだよ。」
ニヤニヤと笑みを浮かべる化け物。女はそんな化け物から目をそらし、床を見つめた。あ、そうそう...。と化け物が何かを思い出す。
「君の友人達が逃げた先にも、私の作品があるんだ。」
女を置いて逃げていった友人達は、とある部屋にたどり着いていた。ただでさえ入り組んだ洋館に、化け物の恐怖が合わさり、もはや出口がどこかも分からず逃げた先がこの部屋であった。
1人がドアを開けて中に入る。他の友人達も次々と中に入っていく。そして、全員が中に入った瞬間、ドアがバタンと閉まる。ドアノブを回すが完全に鍵がしまっている。友人達は皆パニックになっていた。怒号や悲鳴が上がる中、カタカタ...。カタカタ...。という音が聞こえて来る。
友人達は静まり返り、恐る恐る音のなる方に持っていた懐中電灯のライトを向ける。彼らの網膜に飛び込んできたのは、不気味なまでに鮮やかな青。
そう、プラ◯ールであった。それも、とてつもないほど巨大な。まるで人間の遺伝子のような青の円環の上には、信じられない数の列車が走っている。
その恐怖と荘厳さに言葉を失う、友人達。しかし、悲劇はこれだけにとどまらなかった。かつん、と足に何かがあたる感触を感じた1人の友人。その方向に目を向けると、そこにあったのは大量の土を運搬しているトラックであった。嫌な予感が走る。
彼は、自分の懐中電灯のライトを下の方に向ける。すると、そこにあったのは働く車達が大量に蠢く巨大な道路。もはや友人達に逃げ場はなかった。泣き叫ぶ者、悲鳴や怒号をあげる者、神に祈る者。そんな友人達を意に介さず働く車や列車は動き続ける。
遠くの部屋で聞こえて来る悲鳴に、満足そうな表情を浮かべる化け物。女は悔しそうな表情を浮かべて、じっと床を見つめる。
「あぁ、今日はなんて最高な日なんだ。私が何十年の歳月をかけて作ったプラ◯ールを、誰にも見せず終わっていくと思っていたプラ◯ールを見せられるなんて!!!」
化け物は、大声で笑う。女は恐怖に表情を歪め、助けてよ...。と虚空に呟いた。すると、窓ガラスが砕け散る音がした。化け物と女が音のした方を向くと、そこには黒いローブを身に纏った人間の姿があった。
「そこまでよ。」
黒いローブから女の声がしたかと思うと、次の瞬間には、化け物の足が吹き飛んでいた。青い鮮血が飛び散る。
グワァァァァァァ!!!!と叫び、その血を止めようとする化け物。しかし、追撃の手が緩む事はない。ほとばしる雷光に貫かれる化け物。女が瞬きをする間に、勝負はついていた。
それから、洋館に入った者は救助され、黒いローブを纏った女はどこかへ去ろうとする。鎖に繋がれていた女は、黒いローブの女を引き止めようとする。
「あの、お礼、させていただけませんか。」
黒いローブの女は振り返り、静かに首を横に振る。
「そ、それなら、せめてお名前だけでも!」
そんな言葉に対して、少しだけ迷う黒いローブの女。フードを外し、その素顔を露わにする。柔らかい茶色の髪が良く似合う美人のお姉さんがそこにはいた。
「私は、デーモンハンター。デーモンハンターの鈴木 文香よ。」
そう言って、くるりと踵を返して夜の闇に消えていく文香。デーモンハンターは悪魔に襲われる一般市民を助けるため、今日も夜を彷徨う。
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