第18話 不審者
「有のバカーーーーーー!!」
通学路に冬葉の叫び声がこだまする。懲りずに有と明理の登校中を襲撃した冬葉が返り討ちにあったのだ。冬葉の計画は完璧だったはずだった。
土日に行ってきた温泉旅行のお土産として、おまんじゅうを有に手渡した冬葉。
「ありがとう!冬葉ちゃん!」
そんな有の嬉々とした声とふにゃりとした笑顔に、いじめたいという感情と好きだという感情が極限まで高まる冬葉。ま、感謝しなさいよね。と落ち着いたふりをして踵を返す。
そして、ある程度の距離を保ったその時、冬葉は温泉旅行で手に入れた秘湯のバスボムを有に投げつける。秘湯の効果により、柔軟性がこれでもかとました冬葉は、今季1の仕上がりであった。
見事な軌道を描き、おまんじゅうをずっと見ている有に向かって進むバスボム。
しかし、バスボムは止められてしまった。それだけではなく、そのバスボムはどんどん透明になっていく。しまった、パクられた!冬葉はすぐさま有を指さす。
「ちょっと!有と悪魔!バスボム返しなさいよ!」
そんな冬葉をうってかわって怪訝な表情で見つめる有。バスボム?有は不思議そうに首をかしげる。
「さっきあんたに投げつけたバスボムよ!」
冬葉は捲し立てるが、有は、バスボムは人に投げちゃダメだよ、冬葉ちゃん。とどこ吹く風で冬葉を見つめている。そんなこんなで、冒頭にいたるわけだ。
冬葉は、有に背を向けて走り出した。だいぶ距離を走った後、へとへとになった冬葉が角を曲がろうとした時、彼女は何者かにぶつかりそうになる。すんでのところで避ける冬葉。
危ないわねぇ!と思いながら、相手の方を睨みつける冬葉。その視線の先には、真っ黒いローブに身を包んだ、身の丈180cm以上はあると思われる巨人がいた。あっという間に視線を逸らす冬葉。彼女は、そのままダッシュで学校に向かった。
有達が学校にたどり着く。いつものように席に座ると、冬葉がこっちを見る。ご機嫌よう。と有に手を振る冬葉。
今日の冬葉ちゃんの心理状態はどんな感じなんだろうとビクビクしながら、手を振り返す有。
「有。あんたに良い事教えてあげるわ。さっき通学路にヤバいやついたわよ。」
有なら簡単に攫われちゃうかもね。と遠くで笑いながら話す冬葉。有は、冬葉ちゃん以上にヤバい人なんていないよ...。と思いながら教科書を机の中にしまっていく。
しばらくすると、先生が教室に入ってきてホームルームが始まる。いつものように進んでいくホームルーム。するとその途中、先生は思い出したようにクラスに注意喚起をする。
「そういえば、付近で不審者が出たらしい。下校時には、危ない人に近づかないようにな。それと、なるべく友人と帰るように。」
先生が一通り話終わると、その日のホームルームは終了する。授業の用意や談笑に移行していく生徒たち。
そんな中、冬葉は思った。多分、不審者って今朝会ったあいつよね、と。
「まぁ、あんな格好で歩いてたら当然よね。」
静かに呟くと有の方を見定める冬葉。そんなことより大切なことがある。それは、先生によるラストワード、「なるべく友人と帰るように。」であった。
友人のいない有の事だ。下校時は、私に泣きついてくるに違いない。甘美な妄想と共に、ギンギンの目で有を見つめる冬葉。有は授業が始まるまで、その視線に晒されていた。
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