第13話 魔性の男

 冬葉との一悶着があった後、学校に到着した有と明理。有はいつも通り自分の席に着くと、何やら普段より強烈な視線を感じる。恐る恐る視線の方を向くと、そこには恨めしそうな目でこっちを見ている冬葉。目が合う直前で、パッと前を向き直す有。


「有!今、あんたこっち見たでしょ!」


 有の動作をめざとく指摘する冬葉。


「み、見てないよ、冬葉ちゃん。」


 有は苦笑いを浮かべながら、なんとか返答する。取り巻きの女子2人はその様子をニヤニヤと見つめていたが、ある事に気がつく。


「そういえば、冬葉。今日は有の席に行かないんだな。」


「本当だね〜。いつもなら朝は真っ先に有くんの席に直行するのに。」


 そんな2人の言葉に、グッと詰まってしまう冬葉。冬葉の様子を見て、さらにニヤニヤを浮かべる取り巻きの女子2人。


「違うのよ!あいつには、悪魔が取り憑いてるのよ!!」


 そんな2人のニヤニヤに対抗するように、冬葉は声を張り上げる。


「まぁなー。確かに有は魔性の男だよ。そうじゃなきゃ、こんなに冬葉は夢中にならないもんなー。」


 取り巻きの女子2人は、さらにニヤニヤを加速させる。そういう事じゃなくて!!と冬葉はさらに声を張り上げるが、ニヤニヤは止まらない。そんな3人の様子を不思議そうに眺める有。


「でも、そんなに魔性な有くんなら、彼女の1人や2人いるかもしれないねー。」


 取り巻きの女子がそう言った時、突如、教室の空気が異様に重くなる。まず、冬葉はゆらりと立ち上がった。その冬葉の表情を見て、短い悲鳴をあげる取り巻きの2人。


 冬葉は、ゆっくりとその足を有の方に運ぶ。その一方、有は有で明理に尋問を受けていた。


「有くん?お姉ちゃん、有くんに彼女がいるなんて、絶対に認められないな。」


 明理は有をじっと見つめる。


「違うよ!それは誤解というか、あの子達が勝手に...!」


 有は必死に頭の中で声を張り上げる。その一方で、有は視界に冬葉を捉えた。徐々に近づいてくる冬葉に危機感を覚える有。


「本当かなぁ?もし、本当に彼女がいないのならお姉ちゃんにちゃーんと愛を囁けるはずよね?」


 明理はさらにじっと有を見つめ上げる。そして、有がお姉ちゃん以外の女の子との関係なんてないし、いらないよ!と頭の中で声を上げようとした瞬間、冬葉が有の両肩を掴む。突然の冬葉の行動に驚く有。冬葉ちゃん!?と有が声を出そうとした瞬間、冬葉はこれでもかと有を揺する。


「ちょっと有!彼女なんてあんたにはまだ早いんだからね!!そんなチャラついた関係は私が許さないんだから!!」


 ガクガクとゆらされながら、有が頭の中と現実で、さっき言おうとした言葉が混ざり合う。最終的に有の肩から手を離した冬葉。あまりにも多すぎる回数の振動を受けた有は冬葉を抱きしめるような形で倒れ込んだ。そして、有は頭の中にあった言葉を冬葉の耳元で囁く。


「冬葉ちゃん以外の関係なんてないし、いらないよ。」


 世界に一瞬の静寂が訪れる。冬葉の中で、有の言葉がリフレインする。


 冬葉ちゃん以外の関係なんてないし、いらないよ。冬葉ちゃん以外いらないよ。冬葉ちゃんが好きだよ。冬葉、僕と結婚してくれ。


 一瞬、冬葉の顔がまるで太陽のように紅潮した。そして、「ヴンッ!!」という声にならない叫びが冬葉から出ると、真っ白になってその場に倒れ込んでしまった。


「まずい!冬葉がキャパオーバーした!」


 取り巻きの女子2人は、急いで冬葉を担ぎ上げると、保健室に直行した。何が起こっているのか事態を全く把握できず不思議そうな顔をしている有。その直後、有は後ろから強烈な寒気を感じる。


 恐る恐る振り返ると、そこにはとてつもない眼力で有を見つめる明理の姿が、有と目が合うと、一瞬だけニッコリとする明理。有もあははは...。と力なく笑う。


 そっと有を抱きしめる明理。そして、不意に指パッチンをした。有の視界が灰色に変わっていき、見ている景色の動きが完全に止まった。


「お姉ちゃん、もしかして...。」


 有が言い終わる前に、明理は次の行動に移る。有の目の前に現れる2畳ほどの真っ暗な部屋。明理は有を連れてそこに入っていく。なすすべなく入室する有。そこから先で行われた行為は明理以外、誰も知ることはできない。

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