Chapter6「編成」

片峰徹かたみねとおる大佐────またの名を鬼殺し。

かつて魔法も用いず槍一つで戦い抜いた老兵。

年老いた後は第一線を退いて、暫く士官学校の教官を務め、その後は東京支部で大部隊を率いていた。


それが現在では、特殊部隊「刻機鋼隊ギガース」の司令官を務めることとなった。

今回召集されたメンバーの殆どが彼の教え子。これもまた徹自身が強く推奨したメンバーだらけである。


紅士郎や蒼空鈴も例外ではない。

招集された面々の中には、懐かしさを覚える者が多かった。

そしていま、隊員は集められて、遂に片峰徹と顔を合わせることとなる。






「諸君、先ずは感謝を。よくぞこの過酷極まることが約束された部隊に集まってくれた。

本来ならば、君たちと共に祝杯といきたいところだが、どうもそういう時間は無いらしい」


秘書にホワイトボードを用意してもらい、徹は席を立つ。

そしてホワイトボードには神が書かれている。


「国立美術館にて救難信号が見られた。黄金獅子の軍勢と何らかの関係があるやもしれん。よって今回は国立美術館に突入して、救難信号を出した者を救出する作戦を行う。

編成はもう決めてある。一人でも無駄死には許さん。生きて帰れるよう尽力することだ」


挨拶だけで終わるはずだった招集。

しかし急を要する事態になり、早速の作戦行動となった。


そこに不満を持つものは少なかった。

相手が相手で、状況が状況だ。

それは仕方ないことだと殆どの者は理解していた。


ただ、約二名は今回の作戦の編成に不満を持っていた・・・。








「・・・まさかこうなるとはな」

「怪我したら逃げるなよ」

「勘弁しろよ・・・」


紅士郎と蒼空鈴がツーマンセルで突入することになった。

この部隊の中で最も不満を感じていたのはこの二名であろう。

しかし妥当ではある。


片や黄金獅子の使徒一人を撃退したブラストアーマー所持者、片や多少前線でいても大丈夫な身体能力を持つ医学の天才。

救出対象のいる地点まで突破して、そこで救出対象が衰弱していれば鈴がどうにかすれば良い。

腹が立つほど合理的で反論も許されなかった。ギスギスはしているが。


「そっちこそ怪我人見つけて飛びつくなよ」

「・・・」

「おい」

「ほら、行くぞ。準備しなきゃだろ」

「あ、待て!・・・アイツは・・・」


士郎の言葉に一瞬黙り、追及しようとしたが鈴ははぐらかす。

そのまま鈴は作戦の準備と称して走り去っていった。


















「─────では第二幕の支度だ、卿ら」


黄金の世界。ここでも動きがあった。

というより、彼らは待っていた。

紅士郎をはじめとした日本軍の精鋭が集うのを待ち望んでいた。

それが、自身の渇きを癒す者たちだから。


玉座に座るレオンハルトの前に、複数人使徒が跪いている。

第二幕というからには、何か起こすつもりなのだろう。


序章を盛り上げたリュークには、一度休息を与える。

故に第二幕として盛り上がる者を推薦する。

視線を、ある女性に向けた。


「──────ピリオド」

「はっ」


名を呼ばれた女性は首を垂れる。

第二幕の主演、それがピリオドと呼ばれた者に白羽の矢が刺さる。


「試してくると良い。私と対峙するものたちの差が如何程か」

「・・・それだけで、よろしいのですか?あそこには」

「皆まで言うな。その上で言っている。

かつて私を抑えた“女神”の遣い、それをあの軍勢が手中に収めるほどの実力があるかどうかを、な」

「・・・はっ」


何がしたいのかわからない、理解に及ばない。

だがピリオドはそれでよかった。

自分にはわからない思惑があるというのなら、自分はその歯車になれば良い。

故に、これ以上追求することはなかった。

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