Chapter5「邂逅」

黄金獅子、レオンハルト=ヘルツォークによる宣戦布告から一週間。

日本軍は緊急で全国から一部人材を収集。

黄金獅子の軍勢を撃破するための部隊を編成した。


しかしながら、合計人数は大隊に満たない。

理由の一つは他の戦線維持のために人数を割けないから。

そしてもう一つ、兵を集めただけでは無駄死にを増やすだけだから。


部隊に選ばれるのは各分野のスペシャリスト。

特に戦闘に関しては一撃の火力が期待できる人員が集められている。

なにせ骸骨兵士は生半可な攻撃では怯まない。よって一撃で止められるような人材が集められるのが必然だった。


紅士郎がその一人。

本来ならば技術部として招集されるだろうが、あのブラストアーマーを用いて最悪な事態を防いでみせたため、戦闘員として召集されることとなった。


もっといえば規格外の攻撃性を誇ることがわかったため、戦闘においては紅士郎が主軸となると予想されている。

現代の魔法と科学、そして遺物の超技術の結晶が主軸となることからこの特殊部隊は「刻機鋼隊ギガース」と名付けられた。


大阪の第七支部を緊急の拠点として、たった一週間でほぼ合流が完了していたのだった。







「貴様が紅士郎か?」

「・・・黒外紫苑大尉」


緊急で拠点となった大阪第七支部の廊下にて、士郎は後ろから話しかけられる。

振り返ると、そこにいたのは銀髪と赤い瞳を持ち、片眼を眼帯で隠した子供のような背丈の女性だった。


「話は聞いている。意外な出世となったな」

「望んだものではありません。・・・黒外飛鳥少佐のことは────」

「わかっているよ。貴様のせいではない。誰も探知できなかった強襲などされれば、ひ弱な兄ではとても太刀打ちできたりしないだろう。

それに、貴様のお陰で最悪な事態は防げたのだ。貴様に恨みはないよ」


士郎の直属の上司で最も親しかった黒外飛鳥少佐は現在消息不明。

あの強襲で影すら見られず、生存はほぼ絶望的。

実質戦死とも捉えられる状況だった。


黒外紫苑はその妹。

病弱で技術職一本な兄とは正反対で、戦闘一本で大尉まで上り詰めた傑物だった。

この刻機鋼隊ギガースの前線での切り込み隊長を務めることになった。

黄金獅子の軍勢への憎悪は随一で、この採用は最も妥当と言われていた。


「兄の葬儀もままならんが仕方ない。また聞かせてもらえると嬉しいんだが」

「勿論」


積もる話もあるものの、それはまたの機会。

泣くのは全てが終わってからでも良いだろうという心が感じられた。


「で、紅中尉。腕はもう大丈夫なのか?敵のプラズマで焼き焦げたと聞いたが?」

「普通なら大丈夫ではありません─────と言いたいところなのですが・・・」


士郎は苦い顔をして、紫苑は怪訝な顔をする。

本来ならまだ治っていないと取れる言葉。

だがすでに完治している。


今は全国から召集されて殆ど集まっている。

そこで紫苑は納得した。


「蒼空鈴中尉だな?」

「・・・ええ」


大当たりだった。

士郎の顔がさらに苦い顔になる。

何があったのか、興味を持った紫苑はニヤつく。

士郎は悪い予感がした。


「それでは────」

「おいおい待てよ、何があったか是非聞かせてくれよ」


踵を返して去ろうとした士郎の腕をがっしり掴む。

まるで逃してくれそうもない。


「それを話すくらいなら黒外飛鳥少佐について・・・」

「しんみりする話を代わりにしようとするなよ。いいから話せ、命令だ」

「少佐、職権濫用とパワハラという言葉はご存知で?」

「軍隊では中々適応されないよなあ」


逃げたい一心で言いくるめたかったが、腕を握る力がどんどん強くなる。

なんかミシミシという音がなりそうなくらいだ、痛い。どこからその力が出るのか。


「・・・わかりました。話しましょう」

「わかりゃいいんだよ」


承諾したら力が緩んだ。

この隙をついて逃げようものなら後が怖い、観念して士郎は話し始めた。


アレは2日前に遡る───────





『紅士郎中尉、でいいよね』

『あ?』

『わたしは蒼空鈴中尉、よろしく。それはそれとして、腕見せて』

『蒼空・・・どこかで、ておい。待て、腕を掴むな、どこに連れて行くつもりだ!』







『やっぱり腕が焼き焦げたままかぁ。じゃ、治すね』

『おい、拘束すんじゃねぇ!離せ!思い出したぞテメェ。横浜支部の“強制薬学女”、蒼空鈴だな!』

『あ、バレた?まぁそれはそれとして・・・』

『なんだその薬!?見たことねぇ薬を塗ろうとするんじゃねぇ!』

『大丈夫、ちょっと痛むけど明日のは完治してるから、ね!』

『ぐあああああああああ!?』









話し終えた士郎は、鮮明に思い出してしまったからか顔が青い。

一方で紫苑は腹を押さえて笑いを堪えている。


「強制的に部屋に連れてかれて、拘束されて、自作した薬を塗られて一日中痛くなりながら完治・・・ブフッ」

「・・・くそっ、覚えていろよあの悪魔」

「誰が悪魔って?」

「って!?」


タイミング悪く、士郎の背後にいた蒼空鈴。

膝裏を蹴ってカックンされた。

振り返ると紫苑よりは背丈はあるものの、それでも平均程度の身長で茶髪とメッシュのある女性が目に映る。


「わたしの前に怪我人がいたら治すに決まってるだろ」

「だからって拘束するかテメェ。死ぬほど痛かったぞ」

「治ったから良いだろ?」

「良かったが良くねぇんだよ、だから悪魔ってんだ」

「なんとでも言え。特におまえは最前線で中核なんだから、放っておくつもりはないからよろしく」

「こいつ・・・」


紅士郎と蒼空鈴が睨み合う。

なんかバチバチ言ってる気がする。


「ブハッ、あっはははははははは、腹いてーーーー!お似合いすぎんだろ!」

「「・・・」」


それを見ている紫苑が、ついに堪えきれずに腹を抱えて大爆笑した。

それを士郎と鈴が揃ってジト目で見る。

ギスギスしながらも何か通ずるものを見たのか「お似合い」とか言い出したのが不味かったのだろう、視線から強い抗議の意思を感じた紫苑は「あ」という顔をして口笛を吹く。


「明日司令からの召集あるから遅れるなよー」

((逃げた・・・))


口笛を吹きながら去る紫苑を目で追う。

そして去った後、二人の目が合う。


「余計なお世話はいらんからな」

「やなこった」


んべ、という顔をする鈴を見た士郎は舌打ちをして視線を逸らして踵を返す。


紅士郎と、蒼空鈴。

この恐怖劇における主演の出会いは、唐突でギスギスしたものだった。

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