Chapter7「初戦」

月のある夜、刻機鋼隊ギガースは動き出した。


「ここか」

「早く行かないと中の人が・・・」

「わかっている」


大阪の国立美術館周辺、士郎と鈴を始めとした数名が囲う。

救難信号が出たのは中からだろう。

作戦通り士郎と鈴が先に突入することになるため、既に士郎がブラストアーマーを身に纏っている。


後は突入するのみ、参加している隊員がこれから動こうとする時だった。


「どこへ行こうというのかしら」

「────ッ!」


上空からの声、それは国立美術館の屋根に立っていた。

青い髪、目を覆い隠したバイザー。

目は確認できないが、声色と態度から明らかに此方を見下していることがわかる。

名をピリオド=ウォルコット。黄金獅子の使徒で最も古参である。


更に───────


「のこのこ救出信号に釣られてくれてありがとう。ここで死になさい」


空には黄金の空が見える裂け目があった。

そこから何かが落ちてくる、それも大量に。

落ちてきた何かは、刻機鋼隊ギガースを取り囲むように。


「随分とご丁寧に取り囲んでまぁ」

「随分余裕ね、その男がいなければロクに対抗すら出来なかった有象無象だらけの分際で」


取り囲んだのは骸骨兵士。

当然逃げ場などない。


「チッ・・・!」


舌打ちしながらブラストディザスターを構える士郎。



「待てよ、紅中尉。作戦内容を忘れたとは言わさんぞ」

「・・・しかし」

「あんだけ仲間をボコされた立場だ、言いたいことはわかる。だけどな、今ここにいる全員は日本軍が誇る特殊部隊スペシャリストだぜ?」

「・・・」


士郎が自分の仲間を見渡すと、それは任せろと言わんばかりに笑う兵士たち。

・・・それに、ここで戦っても時間がかかるだけ。

合理的に考えても、士郎が残るのは得策ではなかった。


「・・・了解ポジティブ、大尉。蒼空、行くぞ」


ならばせめて、さっさと終わらせて合流しようと考えて、鈴に話しかける。

しかし鈴は・・・


「─────」


国立美術館の中を、ぼーっと見ていた。

中に何かいるかのように。

けれど、鈴の視線の先には何もいない。


「おい」

「うぇ!?」


士郎が鈴の肩を掴んで揺らす。

それでようやく鈴は正気に戻る。

いや、果たして正気を失ったのかさえわからないが。


「お前が急かしたんだろうが、突入するぞ」

「・・・わかってるよ、早く行こう」

「どの口が・・・言いやがるッ!」


鈴の顔が真剣そのものになり、それを見た士郎が国立美術館の扉を蹴り開ける。

どれだけバリケードしようが、ブラストアーマーの出力ならば無関係であった。


「ふんっ、行かせると思っているの?」


屋根にいるピリオドが放置するわけもなく、手を天に掲げ、そして告げる。



起動ジェネレイト


『認証───汝が渇望エゴに応じよう』



女が告げる起動音に、応える形で聞こえたもう一つの声。

それはリュークの時に聞こえたのと同じもの。

それを士郎は一度聞いている。


(レオンハルトの声・・・!アレはレオンハルトから授かったモノってわけか・・・!)


忘れるはずもない、強大な敵の声。

潰されてしまうかと錯覚するような圧力を、忘れられるはずも無かった。


ピリオドの腕を纏うのは氷。

冷気を隠すことなく、見せびらかせるように、そして歌うように続けて告げる。



形成イェツラー───── 天空より降りし氷槍グラス・スティンガー



告げた直後、降りてくる氷槍。

それは当然、士郎に向けて。

迎撃しようと振り返るつもりでいたその瞬間。


「行け!」

「ッ・・・!?」


聞こえた紫苑の声に押され、鈴と共に士郎は建物の入る。

士郎と鈴が入った直後に振り返って見えた光景は、仲間二名が大楯を構えて氷の槍を防いでいるところだった。


「・・・大丈夫、なんだよね」

「そう信じるしかねぇな・・・!」


鈴が不安を解消したいかのように士郎に走りながら話しかける。

士郎は迷いを振り払うように返して、中へ中へと走っていく。


「うわッ」

「チッ」


二人が走っていく目の前に、骸骨兵士が降りてきた。

それもまた多数。


「突破する・・・下がってろ!」

了解ポジティブ・・・!」


士郎がブラストディザスターを構えると同時に、鈴が下がろうとした。





────────たすけて、私はもう・・・






「え・・・」


立ち止まる。いま、ハッキリと聞こえた。

たしかに、鈴の頭の中に響いた。



「おい、何をしている!」

「・・・おまえ、聞こえてないのか?」

「こっちのセリフだ!下がれと言っただろうが!」




─────はやく、はやく・・・




「・・・やっぱり」


聞こえてない。

鈴にしか、この声は届いていない。

士郎が何か言っているのをかき消すほどに、鈴は衝動に駆られる。


助けて、と言われたのだ。

助けなくて、どうする。


「ごめん!早く追いついて!」

「何を言って・・・おい!」


鈴は走り出す。士郎の制止を聞かず、まっすぐ骸骨兵士のところへ。


「通るよ!」


骸骨兵士たちの攻撃、それを鈴は潜り抜ける。

魔法を使えない医療班とは思えぬ戦闘要員顔負けの身体能力を見せる。

潜って潜って、難なく突破してみせる。


しかしその行動によって士郎と鈴は完全に骸骨兵士たちを挟んで分断されてしまった。


「アイツ何を・・・チッ、開始早々ヘヴィだな・・・!」


士郎は悪態をつきながら、今は骸骨兵士と対峙するしか無かった。











「─────良し、状況は出来た。よお、逢いたかったぜクソ共」

「穢らわしい口の利き方、耳と目が腐りそう」

「おーおー、腐ってしまえ。そのついでに死んでくれ」

「・・・我ら黄金獅子の最古の使徒に、よくもそんな不敬を働けるわね」

「こっちとしちゃ、どーでもいいしな。何より、お前らは敵だ」

「敵?刻機鋼隊そっち黄金獅子こっちが戦いになるとでも?」


それを聞いた紫苑が思わず吹き出す。

可笑しそうに腹を抱えて笑う。


「・・・何が、おかしいの」

「いや、目ぇついてないのかなって」


睨みつけるピリオドを鼻で笑って周りを見る。


「見ろよ、ちゃんと戦えてる」


周囲は骸骨兵士に対し、隊員が戦っている。

骸骨兵士に対して有効な攻撃力を用いる兵士が叩き、大楯の兵士が守る。

よくできた連携で、骸骨兵士を次から次へと打ち砕く。


「・・・この私を目の前にして、よく喋る」

「怖くねぇからなあ。そもそもそれ、どういう仕組みかわかってんだ、オレ」

「・・・何ですって」


残るピリオドと紫苑が対面している中、紫苑の言葉にピリオドは怪訝な顔をする。

それを見た紫苑は愉快そうに口角を上げる。


「─────黄金獅子の使徒っての、どうやらオレの一族に因縁があったらしい。

確信したよ、お前らの出現とお前の能力を見てさ」

「何を、言ってるの」

「鈍いなぁお前─────こういうことさ」




起動ジェネレイト


『認証───汝が渇望エゴに応じよう』



「──────なっ!?」



告げたのは紫苑、小さな少女のような体躯に見合わない凶悪な表情と共に聞こえた、レオンハルトの声による認証。

ピリオドの目元はバイザーで隠れてはいるものの、間違いなく驚愕の顔を見せた。



形成イェツラー────鮮血ノ槍ハ永久機関ブラッドランス・マクスウェル



紫苑の掲げた腕は赤黒い血の塊が纏う。

それは無数に棘が生えており、見るからに殺傷力を持っていることがわかる。



「・・・形成イェツラー、ソレは俺やお前のように一部の神から受けた祝福、いや呪いか?どっちでもいいが、ようはそれを使って自分の武器とする力だ。

鍵となるのは、自分の欲求エゴ。“自分はこうなりたい”みたいな願いを何かしらのカタチにする。


いい機会だから教えてやる、オレの欲求エゴは“奪われたものを奪い返したい”。

お前は、そうだなぁ──────“他人の脚を引っ張りたい”とか?」

「・・・貴様、“ブラックアウト”の一族かッ!!」


見るからに激昂したピリオドは複数の氷槍を精製する。

切先は全て、紫苑に向けて。


「遥か昔の裏切り者!女神を唆した穢らわしい吸血鬼!いまここで一族の罪を償えッッ!!」

「・・・へぇ、そういう歴史があんのか。」


聞き流すように、紫苑は腕の棘を伸ばして戦闘体勢を取る。


「けどヤダね。知らん罪をどうやって償えと?オレにゃ関係ねぇなぁ」

「今すぐにわかる、貴様を罪と無関係とするものかァ!!」

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