Chapter3「烈火」
「始まったな、友よ」
黄金の世界で、玉座の傍らに立つ黒い外套の男。
戦いの序章を感じ取った男は、黄金獅子に語りかけた。
「ああ、しかし・・・やはり既知感が拭えん」
「だが過去にあった、という訳でも無い。あの基地を襲撃したのは初めてだというのに、そのような感覚に陥る」
「そうだ。これも卿の仕業かな?“永劫回帰”」
「然り。だがおまえの選択でもある。これでおまえと出会ったのも何万回目だったか」
“永劫回帰”と呼ばれた男は虚空を見上げる。
彼らの回帰は記憶を引き継がない。
けれど回数を重ねるたびに、既知感だけが募っていく。
もはや運命共同体と言わんばかりの言い草であったが、それを黄金獅子は否定しない。
「私が納得しないから卿の回帰に自ら呑まれた、といったところだろう?」
「然り、流石は私の同胞。そしてこの会話もまた」
「ああ、何度も繰り返したように思う」
確認するように現状の自分たちを語る。
ああ何とも、どうしようもなく融通が効かない。
自分で演出しておいて自分で何度嘆いたことか。
だがもう、後戻りの選択肢もない。
彼らはまさしく破綻した神々だったのだ。
開戦の号砲。
それはリュークから放たれた。
電流は収縮し、放たれたのはプラズマ砲。
回避する士郎を掠め、その先にある建物の瓦礫を消しとばす。
わかりやすい程の必殺を以って、リュークは士郎に殺しかかる。
「ぐ、野郎・・・」
アレは防げない。
たとえこの装甲でも、この砲撃は無理だろう。
だから回避する以外無いのだが、背後を見れば・・・
「ちっ、被害が広がる一方かよッ」
「その通りだァ!そしてよそ見する余裕もねぇだろお!」
「がッ、テ、メェッ」
射線上で流れ弾によって消しとばされる味方を見て舌打ちする士郎に、容赦なくリュークの鋼の左腕は振われる。
士郎は間一髪防いでみせるが
「・・・!」
両足が大地から離れるのを感じる。
今の一撃で自分が吹き飛ばされるのがわかる。
大きく下がり、地に足がようやくついたが体勢はよろしく無い。
「どうしたァ!喧嘩売る割には歯応えないなァ!」
これだけ吹き飛ばされているにも関わらず、一瞬で間合いを詰めては鋼鉄の左腕が振われる。
理解した、この男は強い。
本能のように攻めてくる割には、その節々に感じるのは合理。
確実に戦い慣れた者。実戦経験の少ない士郎では、耐え忍ぶので精一杯だ。
「踏ん張れ、よく見ろよ、死ぬぞおお!」
再びリュークの左腕に収縮するプラズマ。
時間がなくなる、可能性を奪われる。
回避/不能/防御/不能─────思考の断片化、しかしどれも無理だろう。
そう、無傷では。
ならば、話は簡単だ。
生きる為に必要な選択肢など、一つしかない。
「─────喧しいッ!」
放たれるプラズマを紅の装甲で掠めさせる。
そう、横にも背後にも下がれないし、まして立ったままなど言語道断。
ならば征くべきは前しかない。
「ぐ、おおおおおおおッ!!!」
「な、にィ!」
右腕の装甲が焦がされ、肌が灼かれる感覚に絶叫しながら、それでも拳を前へ。
リュークの顔面に、骸骨兵士を粉砕した拳を叩き込んだ。
今度はリュークが吹き飛ばされる。
驚愕によって見開かれた目は、しかし対象の男をはっきりと理解した。
拳を叩き込まれても顔面が潰れた様子はない。
再び地に足をつけたリュークは驚愕の顔から一変、歓喜に変わる。
「――──確信した。今日は、最高にいい日だ」
目の前の紅い装甲の男は、決してまだまだ強くない。
経験も未熟、しかし明確に天才であることは理解できる。
戦闘技術の才能ではない、戦うことそのものに対する精神の才能だ。
例えば、動物が乗り物に轢かれるのは遅いからか、答えは否だ。
一部正解なのかもしれないが、大きな原因はそこではない。
いざ危機を目の前にしたときに、硬直するからだ。
ならば戦場でも同じこと。
死に直面した攻撃を即座に判断して行動するするなど、経験の豊富さか或いは才能の差異に左右される。
紅士郎はまさに、後者の類であることは間違いない。
だからこそリュークは嬉しくてたまらないのだ。
一方で、士郎は余裕がない。
仕方がなかったとはいえ、右腕が掠めて灼かれてしまった。
さっきのカウンターは死こそ免れたものの、プラスに働いたかといえばそうではない。
「手が、足りねぇか・・・!」
明確に、目の前の敵を仕留められる手段が足りない。
このブラストアーマーをもってしても、攻勢に出られる手段が不足している。
間合いの離れたリュークは、左手を前にして再びプラズマを収縮する。
「全く戦場って奴は、屑と黄金を選り分ける最高の試金石だよなァ」
そんなことを理解した上で、笑みを隠さないリュークに苛立ちを感じながら次の手段を考える。
「・・・あ?」
─────考える、いやその必要はない。
何故なら足元に、まだ希望があったのだから。
「だからその骸、欠片一つも残さず伝説に変えてやりてえ・・・灰と散り、悲劇の英霊となってくれッッ!」
そして、リュークから閃光が放たれた。
超高速で標的に向かって放たれた灼熱は、着弾と同時に─────
「─────なんだと、仕留めて、無いだと」
─────塵のように、消え去った。
紅士郎の持つ手には、緑に光る刃。
重厚な紅い鋼鉄の大剣が、あったのだ。
「・・・ブラストアーマーとの
IDは紅士郎に
─────ブラストディザスター、
ブラストディザスター。
発掘したブラストアーマーと連動して武器として運用する為に生み出された試作品。
開発者は、黒外飛鳥と紅士郎。
まだ試運転すらされてないそれを、ぶっつけ本番で起動させて、見事リュークのプラズマを消し去ってみせた。
「・・・さて、反撃といこうか。包帯野郎」
大剣の柄の部分をスライド。
そこには何かを入れる穴がある。
『Standing By...』
士郎は魔力を詰め込んだ弾丸を、その穴に装填。
リロード完了、スライドして閉じる。
『Charge Complete』
無機質なアナウンスと共に、刃は再び緑に発光する。
収縮されたエネルギー、これこそがプラズマを消し去った原因だ。
リュークはもはやただの歓喜の顔では収まらない、狂気を覚えるほどに喜悦を浮かべて嗤う。
左腕を地面に叩きつけて、雄叫びを上げる。
「─────
雄叫びと共に、再び襲いかかるリューク。
昂りは頂点に、プラズマを放ってくる。
「クソが、喧しいつってるだろうがッ!」
それを、刃で再び消し去る。
間合いは一瞬で詰まる。
緑の刃と、鋼鉄の腕が交差する。
「愉しいぜッ、嬉しいぜェッ!なァ紅のォッ!
湿気た野郎しかいないと思ったら、お前ほどの
「喋るな包帯野郎ッ!息をしていいと誰が言ったァッ!殺したけりゃ自殺でもしてろ!俺はテメェなんぞに会いたくもねぇんだよッ!」
歓喜に対し、憤怒で跳ね飛ばす。
武器と武器の交差によって、互角になった・・・否だ。
リュークの鋼鉄の腕が、少しずつ消耗してきた。
経験を、性能と憤怒が少しずつ凌駕する。
それを一心に受けたリュークは歓喜のまま
「おおおおおおおおおおッ!!」
「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁああああッ!!」
プラズマを撃とうとする左腕を、大剣がプラズマごと切断する。
それで終わりか?いいや、まだまだ──────
「潰れろォォォォォ!!」
残った左腕で、今度はリュークの顔面を上から叩き潰した。
地面に左腕から血飛沫をあげて倒れ伏すリューク。
たったいまこの瞬間に、天秤は傾いた。
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