Chapter2「紅の装甲」

粉砕。


開幕の光景は、それが相応しいだろうか。

鎧を纏った骸骨兵士は、紅の装甲を纏った男の拳によって砕かれた。

出力は想定通り、しかし自分で扱ってみれば感想は違ったものになる。


「・・・とんでもねぇ兵器だな、コイツは」


ブラストアーマー。

過去は高性能な兵器だったことだけはわかるが、こうして使ってみれば理解できる、納得する。

自分たちは恐ろしいものを掘りだしたのだと。


「・・・少佐はどこだ」


同じ部屋にいたはずの黒外少佐が、見当たらない。

意識を失った時に、どこかへ逃げた・・・そう思いたいところだが。


「・・・言ってる場合じゃねぇな」


この基地はすでに火の海だ。

日本軍の兵士たちも危ないと見るべきだろう。

士郎は走り出す。一人でも仲間を助けなければならないから。











「効かない!どうなってる!?」

「支援、支援をおおおおお!!」


士郎が向かう先の戦場は阿鼻叫喚だった。

鎧を纏った骸骨兵士に、日本軍の兵士たちの攻撃が通らない。

いや、正確には攻撃は通っている。

剣も、槍も、弓も、魔法も、銃も。

斬られ、刺され、抉られ、焼かれ、砕かれる。


だが、それによって怯む気配が全くない。

死を恐れぬ戦奴のように、悉くを焼かれた戦場を突き進んでくる。

人間の兵士たちは対抗する術もなく、骸骨兵士たちの武器によって命が散らされてゆく。


「ちくしょう!どこのクソ神の使徒だ!バケモンどもがあああ!!」


それが、骸骨兵士が一人や二人ならばよかった。

しかし、骸骨兵士の数は50。

怯まぬ兵士に対し、この基地の兵士の残りはわずか30。


最初の謎の奇襲で大きく数を減らされた。

その影響で指揮系統が機能していないのが大きい。

さらに、この奇襲。全く敵を探知できないものだったという。

抵抗もろくにままならないのは、無理からぬ話であった。


この基地の背後には、大阪の街並みがある。

守るべき民がいる。

逃げるわけにはいかない。

敵わぬと分かっていながらも、立ち向かうことしか許されない。



「────好き勝手しやがって、死に散らせ」



ならば、唯一の対抗できる兵器を以って粉砕するのみ。

ブラストアーマーを纏った士郎が現場の最前線に到達した。

一人、一人と、骸骨兵士を拳と脚で打ち砕く。


骸を文字通り骸として消えてしまえと言わんばかりに、怒りに塗れた瞳で睨みつけて次の標的へと向かっていく。

自分たちの平穏を砕くモノに、昔から変わらず怒りを以って壊す。


紅士郎は技術中尉という肩書きでありながら、その戦いぶりはそれを思わせない。

戦うことそのものに葛藤は無いし、鍛錬も欠かしていない。

元々その気になれば、前線に出られる男だった。

ただ、モノを作ることや改造することが得意だっただけ。


今の状況はまさにこの男の特性が最も活かせる場面だった。

もっとも、紅士郎にとっては全く好ましい状況ではなかったが。


「援護しろ、俺が全部壊す」


この力を手に取ったからには、士郎の責任は重い。

ならばこそ、この戦場を踏破するべく紅士郎は奮起するのだった。












「やはり、手に取ったか」


黄金の世界で、玉座の主人は呟いた。

ここから戦場は見えない。

ふと興がのった時に何か壊さないように。

無粋な真似をしないように。


しかし金髪の男、“黄金獅子“は何が起きたのかは理解している。

それは、今は目となっている者が戦場にいるから。


「リューク=ヴァルデット、命令しよう」


虚空に声をかける。

自身の”使徒“に、命を下す。

厳を以って、一切の加減なく。

この余興を愉しむべく─────


「時間が許す限り埒を開けるがいい、卿が望むままに」



















「──────了解ヤヴォール、首領」


命は届いた。

今、紅の装甲を纏った男を視界に入れた使徒は笑みを浮かべる。

望むままに、そう言った。

ならば、ああ。


「戦場は、こうでなきゃあなァ!」

「ッ!?」


雄叫びに似た歓喜の声で、士郎に飛びかかる。

桁違いの馬力で、瓦礫を菓子のように散らしながら士郎の前に降り立った。


「・・・コイツらの親玉か?」


巻き起こる煙を払い除けながら、降りてきた男を睨む。

煙が晴れてそこにいたのは、顔まで包帯で巻かれて迷彩柄の服を纏い、歓喜の声を笑顔を浮かべた男。

士郎の問いに、腹を抱えるように笑う。


「クハッ、ハハハハッ!まさか、せいぜいが部隊長だぜ、新兵ルーキー

「・・・そうかよ、まあどっちでもいい」


揶揄うように言う包帯の男の言葉にに、士郎は興味なさげに一蹴する。

だが、この包帯の男は明らかに先程までの骸骨兵士とは明確に違う。


言葉が通じる、理性がある、自分でも言ったようにこの戦力をいま纏めているのは間違いなくこの男であろう。


で、あれば


「テメェを潰す事には変わらないからな」

「───いい啖呵だ、



笑う男は左腕を天に掲げる。

ただでさえ脅威である骸骨兵士たちとは格が違う証明を惜しみなく見せるべく。



起動ジェネレイト


『認証───汝が渇望エゴに応じよう』



そして、男の左腕は稲妻を纏った鋼鉄の腕に変化する。

戦場において、最もわかりやすい。

これぞ破壊の権化。



形成イェツラー─────戦場彩れ死の破爪デッドエンド・スクリーマー



左腕を纏う電流花火スパーク

それを、今度は士郎に向けて─────

これから戦うものに、男は名を名乗る。


「俺の名は、リューク=ヴァルデット。

────歓迎するぜ、新たな英雄」


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