Chapter1「開演」
「────じゃあお前、お前の生涯を小説だと考えてみろ。」
当時、俺たちは高校生。
俺は親友と屋上で会話している最中に、唐突にそう切り出された。
「漫画でも演劇でもいいが、とにかく一人称語りで進む長編だ。
自分をその主人公だと考えろ。
そこで質問────いまお前が綴ってる物語は、面白いのか?
主人公として、お前はキャラが立っているのか?
ただドラマとして、売りになりそうな棘なり花なり毒なり持っているか?」
質問の意図がわからない。
つまらない、ということか。
「同じジャンルで、他のやつがやってそうなことやってても、しゃあねえだろ?
連れと駄弁って馬鹿やって。女作ったり部活やったり?悪くはねぇけど、珍しくもない。
そんなもん、世界中の何処かで誰かがやってる。
俺は、別に数が多いことを馬鹿にしてるわけじゃねぇよ?」
だったら、なんだと言うのか。
「要はそれだけ、選びやすい道ってことさ。
選択肢が多いようで、実は一本道なのかもしれない───てな。
その国々の特性で、どんな道徳とか、まぁどうでもいいがよ。
俺はなんつーかなぁ、デジャヴるんだよ。
前にもやったんじゃねぇか────てな。
楽しくねぇんだ。前にも読んだ気がするんだよ、この話。
だから───お前に協力して欲しいんだよ。
フラグ立てと、フラグ折りさ。」
そういう親友は、ニヤリと笑う。
次はどんな馬鹿をやるつもりなのか。
ついこないだ、死にかけたくせにハラハラしやがる。
「だってお前、平穏とやらが好きなんだろ?
毎日同じことの繰り返し、それで平穏に生涯を終わらせたい。
そんなキチガイ、俺は他に知らんし。
そもそも俺の話に出てくるお前は、どっかズレてるトリックスターみたいなもんなんだよ。」
そんな俺に、親友は何をしろと言うのか。
「───そんなお前を退かせば、話は変わってくるかもしれない。」
「な、に・・・?」
こいつは今、何と言ったのか。
「んな顔すんなよ。分かるだろ?
俺らは色んな場面から弾かれてる。
本来なら、気楽に学園ドラマやってられる身分じゃねえんだよ。
お互いにそうだった。
だからこそ、俺らは学園ドラマを演じてきた。
なのに
だから根性なくて悪いけどよ、俺は抜けるぜ?
もう付き合わない、人生は短い。
この一本道、絶対何処かに別ルートがあるはずだ。
俺はそれを探したい。
それがたとえ、バッドエンド一直線でも。
だったらお前とここで切れるのも、中々面白いと思うだろ?」
────ふざけるな。
だから縁を切る?
そんな理屈で?
お前と馬鹿やってた事をすべて無駄と断じて?
「────認められるか、ふざけるなよ」
「ああそうだ─────お前なら、そうなるよな」
怒りのまま拳を握りしめる俺と、それを笑って応じる構えを取る親友。
思えば、俺は若かった。
余りに突拍子もなかったし、俺自身話を続けるべきだったかもしれない。
だが、時は絶対に戻らない。
その後、俺たちはお互いがガタガタになるまで殴りあって、遂には入院するほどの怪我をした。
それ以降、親友の姿を見る事はなかった。
親友は、俺と喧嘩をする以前にバイク事故を起こして大怪我をした。
死にかけて、オマケに不能になって寿命数年ときたものだ。
そんな馬鹿は、いま何をしているのやら。
或いは、くたばっているかもしれない。
「やあ紅士郎技術中尉、休憩かい?」
「・・・いえ、これから職務に戻ります」
ふと椅子で仮眠から目が覚めた時、目の前には上司がいた。
上司の名は黒外飛鳥技術少佐。
蕃神の陣営と戦う荒神の陣営、その日本の軍隊。
俺はそこの技術部に所属している。
「そうかい。発掘した“アレ”。調子はどうだい?」
「良好かと。なんとか形にした割には問題は見受けられません」
「それなら良し、だ。君のおかげだよ」
「滅相もない」
“アレ”とは、過去の遺物────もとい、過去の兵器。
ブツは四種類。
全身を覆う強化スーツ、“ブラストアーマー”。
飛行すら可能のバイク、“ブラストスライガー”。
上記と連携している携帯電話“イネインコール”。
そして危険な強化アイテム“ハザードデバイス”。
これらを魔法等でなんとか扱えるように復元したものが、目の前にある。
強力な兵器であることが確約されており、これを上層部に発表してエースに使ってもらえるようにする。
これが俺たちの仕事だ。
なんでも、蕃神が現れる前の世界はとてつもなく技術が進んでいたらしい。
これもどうやら、その中の一つ・・・それもかなりの上物だとか。
これらは俺と黒外少佐と発掘したもの。
日本軍では恐らく右に出るものはないであろう者が、俺と組んでこのような実績を得られるとは思わなかった。
俺も技術力は認められている、と思うべきだろうか。
それはそれとして、残念なこともある。
「しかしすまないね。僕の身体が健康になれればよかったんだけど」
「仕方がないでしょう。俺に任せてください」
「頼む、君なら大丈夫さ」
黒外少佐は不治の病に侵されている。
今にも倒れそうなほど痩せているが、果たして飯もまともに食えているだろうか。
なんにせよ、こうして俺に託された以上は果たしてみせねばなるまい。
───────そう、思っていた。
肺を焦がすような悪臭を感じた。
意識は、ああどうやら飛んでいたらしい。
だから、これは悪夢だ。
そう思いたくて見回したが・・・許されない。
全身に鈍い痛みが走っている。
痛みを感じながら、ようやく視界が蘇ってくる。
視界に映るのは、炎。
俺たちのいた基地が、燃えている。
悲鳴、慟哭、怒号・・・異常な状況である事を示す声が響く。
銃声、斬撃音、爆発音・・・今ここは戦場である事を示す音。
そして──────
「・・・今時、骸骨の兵士かよ」
悪態思わず口に出る。
倒れ伏していた俺を見下ろしている、黄金色の骸骨兵士。
身動きの取れない状況、何の武器も持たぬ俺は・・・死ぬしかないと言える。
「───ふざけるなよ」
死ぬことが頭に過った刹那、俺は憤怒に染まるのを感じた。
己の魂が、命を使い切るまで死なせないと告げている。
「誰だテメェら──────いいや、どうでもいい・・・!」
いつのかにか手に握られていた携帯電話型の兵器、イネインコール。
歯を食いしばりながら、“音声認識”のボタンを押す。
日本軍のエースに渡るはずだったモノ、だがどうでもいい。
今自分の命が散らされるよりは、余程いい。
よって、ここでの行動はひとつ。
イネインコールに口を近づけ、告げる。
「起動・・・!」
『Wake Up』
応えたのは無機質な機械音。
次に、俺の身体を包むアーマー。
紅いアーマーは、この瞬間────俺の力になった。
俺を抑えていたはずの瓦礫は吹き飛び、骸骨兵士ごと吹き飛ばす。
「・・・俺は、死なねぇ」
開演──────未来の俺が振り返るなら、そう呼ぶだろう。
仕組まれた舞台は、もう始まっていたのだと。
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