11 新しい風
これにて、【ゴブリン軍襲来】のあれこれは取り敢えず一区切りつく。
かなりの騒動だった。無論、これを機にあらゆる物事が変わり始めた。
まず警備面。
街には一切の被害がなく、入口を見張っていた近衛騎士団曰く「何も通っていない」という話で、ゴブリン軍は城内に転移してきたものだと考えられた。
その通り、城内の旧倉庫にてワープゲートが発見された。
ワープゲートはたちまち魔道士によって消されたが、まだどこかに潜んでいる可能性もある。
それにより、城内の警備はより一層強固なものになった。あと、【避難所】の改良も行われた。いくつか複雑な隠しルートが作られたらしい。詳細は知らない。
次に変わったのが近衛騎士団だ。
簡単な話。副団長が変わった。
ロッゾは一般の兵士に戻され、副団長には新たに眼鏡の参謀っぽいやつがついた。
ロッゾが格下げされた理由は簡単。
【王】への不敬、そして【避難所】を破られそうになったこと、あとは……度重なる寝坊が原因らしい。あの日会っただけだが、ロッゾらしいな、とは思う。
もう一つ──周囲からの【王】アルカナムへの評価が変わった。
【誕生祭】、多くの客が集まる中で『ゴブリン・ロード』に攻め入られるという失態。貴族たちは『怠慢だ! 俺たちは死にかけたのだぞ!』と騒ぎ立て、【王】をアルカナムからリアレに移すように抗議した。
が、これは当分は変わらなさそうだ。
街の住民からの非難や不安の声も相次いでいるようだったが、アルカナムは大人しく全てを受け入れているらしかった。アルカナムは【王】自ら、ひたすらに頭を下げて街を歩いた。
【迷宮都市】セイレン、南区の【王】もまた「アルカナムは【王】に相応しくない」と声を上げているらしく、騒ぎは収束する様子を一切見せなかった
あとはグランツ。
あの日かなりの人に醜態を晒してしまったせいで、グランツの権威はかなり失墜したらしい。噂話によれば、「ゴブリンにさえ負ける【王】候補」と揶揄され、いい笑い草になっているのだとか。
それが相当応えたのか、グランツは最近鳴りを潜めているようだ。あれから、一度も顔を見ていない。
一方。とある少年の噂話が、辺りには伝染しつつあった。
『――颯爽と現れ、【王】の如く騎士に激励を飛ばした謎の金髪の少年』の噂である。
「彼がいなければ、我々はあの日死んでいた。……一体誰なのだ、あの少年は」
とは、とある著名な貴族の言葉である。
以来、街中では『金髪の少年探し』が結構なブームになっているらしい。
俺だ! それ俺! 俺だよ! カレア・アーネストだ!
って言いたいところだったが、それは許されなかった。
ただでさえ【王】について不安定なこの状況。
その『金髪の少年』がカレア・アーネストであると分かったら、更に混乱を招きかねない。とのことらしい。
つまりは、「カレア・アーネストを【王】にしろ!」と騒ぐ勢力が現れかねないため、それを未然に防ぐ、という訳だ。まあ、俺としてもこんな形で【王】になるのは不本意なので、別にこれで構わない。
そして、最後に。
もう一つ、変わったことがあった。
それは──
「お、今日はシルフィの手作りなんだな? シシ肉にスープ……庶民っぽくて良いじゃねぇか」
「庶民っぽくて悪かったですね……ロッゾさん」
「あだだだだだッ!! 冗談だっての。足踏むこたぁなくねぇか? なぁ、カレア? 思うよな、お前も? ほら、言ってやれ! ほら! 暴力女! 暴力反対だー! ってよぉ!!」
「言ってください、カレア様。赤髪ツンツン頭、副団長解任されてザマー! って」
「はははっ! ぜんっぜん笑えねぇ……ッ!!」
――なぜか、俺の部屋によくロッゾが顔を出すようになったということだ。
なんなら、こうして仲良く一緒に飯を食う有様である。
こいつ、今は副団長じゃないんだよな。ただの一般兵士なんだよな……?
肝座りすぎじゃね……!?
とはいえどまあ、これに関しては俺が許可しているから良いんだけど。
「シルの料理も美味しいね。いつも食べてるものと違って、優しい味がするよ」
「ふへへ……カレア様はやっぱり可愛いですね」
ぎゅーっと、シルが俺を抱きしめる。
それから、ぷくぅと頬を膨らませてロッゾをジト目で睨みつけた。
「それに比べて、この赤髪ツンツン男は副団長を解任されたくせに――」
「――やめてくれ、それ以上はやめてくれぇぇえええ!!」
ロッゾはここ数日で、完全にシルの尻に敷かれつつあった。
シルに喧嘩を売っては返り討ちにされる様を見ない日はないくらいだ。
そんでもって、最近シルもシルで暴れ気味である。
なんというか、スキンシップが多くなった。今みたいに平気で抱きしめてきたり、平気でベッドに入ってくるのである。もうなんか、「え、メイドですよね?」と言いたくなるくらいだ。
だがまあ、いい。
というか。
(……アマゾネスでも中々ないサイズだ……ッ!?)
頭に当たる2つの柔らかい感触に、俺は目を瞠らざるを得なかった。
正直、これはこれでありだ。俺別に、貴族としての威厳とかないし。ロッゾのタメ口も気にならないし。好き勝手やらせとけ、だ。
「んなことより……」
ロッゾが改まって、スープを啜りながらこちらを向いた。
「……言いたいことがあったんだろ? 俺に。なあ、カレア様?」
ゆっくりと、俺は頷いた。
これは、スタートライン。そこからの一歩目だ。
風が吹いて、ガタガタと窓が揺れた。
寒いですね。言いながら、シルが体を震わせた。
そんな、季節が変わり始める中。
「――俺に、剣を教えてくれ……ロッゾ」
俺の物語もまた、変わり始めようとしていた。
ニィ。ロッゾが不敵な笑みを浮かべて、答えた。
「遅えっての」と。
「ただまあ、覚悟しておけよ。俺は、お前を腐らせるつもりはねぇ。テメェの才能を飛躍的に伸ばすつもりだ。そのためには、少々無理してもらう必要がある。……引き返すなら、今のうちだが?」
「望むところだよ……ロッゾ」
「だと思ったぜ。だったら……時間は有限だ。早速始めるぜ、カレア」
転生した二度目の魔王様による、廃嫡寸前無能貴族の三男坊から始めるノンストップ成り上がり英雄譚 四角形 @MA_AM
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