第132話 実戦

 数週間後。


「やぁっ!!」

『ふんっ』

「くっ!!」


 ユーシアはソフィから逃げ回るのを止め、立ち向かえるまでになった。ソフィに剣で戦いを挑み、簡単にあしらわれている。


 ここまでできるようになったのなら、後は実際に試してみるのがいいだろう。


「よし、そこまでにしよう」

「は、はい」

『うむ』


 俺が声を掛けて二人の戦いを止める。


「それじゃあ、ユーシアには魔物化した虫と戦ってもらおうと思う」

「じ、実戦ですか?」

「ああ」


 俺の言葉を聞いて狼狽えるユーシアに、俺はしっかりと頷いた。


「ううううっ。大丈夫でしょうか」

「ソフィに立ち向かえるなら問題ない。もうそんなに怖くないと思うぞ」

「はぁ……」


 ユーシアはとても不安そうでブルブルと震えている。


「まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫だ。いざとなったら俺が攻撃を引き受けるからな。ソフィ」

『任せよ!!』


 俺はユーシアを安心させるためにソフィに自分を攻撃させた。


「あぶない!!」


 防御すらしようとせずにソフィの攻撃をそのまま受けようとする俺を見て、ユーシアが叫ぶ。


 ――ズンッ

 

 俺にソフィの尻尾が当たる。しかし、俺には傷一つ付くことはなかった。


 ――ズバババババババッ


 ソフィが何度も切りつけるように腕を振るう。しかし、それでも俺の体がダメージを負うことはなかった。


 それからさらに幾度もソフィの攻撃を受けた。それでも俺は無傷だった。


「どうだ?」

「えぇええええええええええええ!?」


 俺の状態を見てひどく驚くユーシア。


「一体どうなってるんですか、アイギスさんの体……」

「さぁな。兎に角俺にはソフィの攻撃さえ効かないんだよ」

『誠に業腹であるが、そやつの言う通りだ』


 呆然とするユーシアに俺が肩を竦めて返事をすると、ソフィが苛立ちを含む声色で俺に同意した。


「というわけで俺にはソフィの攻撃が効かない。つまり、虫の攻撃なんて尚更だ。だから、もし攻撃を受けそうになっても俺が守ってやるからそんなに心配しなくてもいい」

「確かに……それなら安心ですね」


 俺の頑丈さを見たユーシアはようやく曇った表情が晴れる。俺たちは早速森の傍に移動して、虫が襲ってくるのを待った。


「ギョギョギョギョッ」

「あれ?」


 銀狼に虫を一匹だけ通してもらってユーシアに相手をさせる。ユーシアはカマキリのモンスターと相対した時、不思議そうに首を捻った。


「どうかしたか?」

「はい、なんだか思ったよりも大したことないなと思って」

「だから言っただろう、心配しなくても良いって。あの虫なんかよりもソフィの方が何倍も威圧感がある。そのソフィと毎日訓練してきたんだ。あんな虫くらいどうってことはないさ」

「確かに……そうかもしません」


 目の前にいる虫が然程怖くなくて拍子抜けしているユーシアに俺が説明すると、腑に落ちたような表情になる。


「やれそうか?」

「はい。このくらいなら」


 俺が改めて問い帰ると、ユーシアはしっかり頷いた。


「それじゃあ、行って来い」

「分かりました」


 ユーシアは俺の指示に従って弾かれたように虫に向かって走り出す。


「ギョギョギョ!!」

「遅い!!」


 カマキリが近づいてきたユーシアにその鋭利な鎌を振り下ろした。しかし、ユーシアはそれを華麗に躱して懐に飛び込む。


「はっ!!」


 そして、光り輝く剣を作り出して切り上げた。


「ギョエエエエエエエッ!!」


 その剣はモンスターをあっさりと切り裂き、上半身と下半身がズレて地面に落下する。


「はぁ……はぁ……勝てました」


 ユーシアは俺の方を振り返り、力のない笑顔を浮かべた。


「ギョエエエエエッ!!」


 しかし、その時、ユーシアの背後からカマキリの上半身が襲い掛かる。


「ふっ」


 ――ガンッ


 俺がすぐに間に割り込んでその攻撃を受けた。


「最後まで気を付くな」

「は、はい。すみません」


 俺が視線だけ、後ろに向けてユーシアに注意すると、彼は申し訳なさそうに頭を下げる。


「それじゃあ、止めを刺すんだ」

「分かりました。やぁ!!」


 俺の言葉を聞いたユーシアはカマキリの頭を切り裂いた。


「ギュェエ……」


 断末魔と共にカマキリは完全に沈黙した。


「初勝利おめでとう」

「ありがとうございます」


 俺がユーシアに微笑みかけると、彼も同じように微笑み返す。


 初めての実戦は完了した。


 その日は、祝いのため、牧場全体がお祭り騒ぎとなった。

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