第129話 ニアミス

 数日後の昼食の時間。


「やっぱり俺よりも手際が良いな」


 ユーシアの料理をサポートしながら感心する。


 下拵えが流れるように進んでいき、たどたどしく料理をする俺たちとは大違いだ。


「ははははっ。一人で暮らしていたのでちょっと料理ができるだけですよ」

「何を言う。料理と言ったら、野菜炒めか鍋しかなかったのだ。お主がきたことで何種類も料理が増えたのだ。もっと誇っていいぞ」


 謙遜して苦笑いを浮かべるユーシアに、真剣な表情でソフィが言った。


「そうだぞ。ユーシアが来てくれたおかげでウチの食事事情は劇的に良くなったんだ。本当にありがとな」

「そ、そうですか。僕が役に立てたのなら嬉しいです」


 ソフィに同調すると、ユーシアは顔を赤くして俯いて料理に没頭し始めた。


 そう、ユーシアが来てくれたおかげで準備は早くなったし、料理のバリエーションが増えた。プロではないみたいなので、それほど数は多くないが、それでも焼くだけの料理や、野菜をぶっこんで煮込むだけの料理から卒業できたのは大きい。


「よし、出来ました」

「おう、了解」


 料理ができたら、炊き出しのように皆に配っていく。そして、全員に行き渡った食べ始める。


「かぁ~!! 美味い!!」

「はぁ~!! 最高かよ!!」


 やはりうちの野菜を使った料理は美味い。


『ワォオオオオオオンッ!!』


 その途中で遠くから銀狼たちの遠吠えが聞こえてきた。


 どうやら来客らしい。


 声が聞こえてきた方に視線を向けると、空を飛行してこちらに向かって来る存在が二つ目に入った。


 その存在たちは俺たちに近づいてくると、徐々に高度を落とす。そして、俺たちの傍に降り立った。


「きたのじゃ」

「お邪魔致します」


 来客は魔王と執事のジムナスだった。


「少し前にきたと思ったら、また来たのか?」

「うむ。また農業体験にきたのじゃ」

「別に構わないが、暇なのか?」

「そ、そんなことないのじゃ。ちゃんと仕事は終わらせてきたぞ」


 俺の質問少し狼狽えながら答える魔王。俺はジムナスに視線を向けた。


「は、はい。予定されていた仕事はすでに終えられています」

「そうか。それならいいんだがな。あっ、そうだ。うちに新しい仲間が加わったんだ。紹介しよう。この子はユーシア。ウチの料理番だ」


 気まずそうに額の汗を拭いながら答えるジムナス。俺はふと思い出してユーシアを連れてくる。


「そうかそうか。ここの料理が美味くなるのは大歓迎じゃ。我は魔王。よろしくな」

「ま、マオー?」


 農業体験と言いながら、明らかに料理目当ての魔王は、嬉しそうに笑いながら自己紹介をした。それをきいていたユーシアが、なんだか少し狼狽えている。


「どうかしたのか?」

「……いや、なんでもないです。マオさんって言うんですね。僕はユーシアです。よろしくお願いします」


 俺が尋ねると、ユーシアは首を振ってから魔王が差し出した手を取って挨拶を返した。


「うむ。よしなにな」


 なんとなく魔王の呼び方の発音が違うように聞こえるが、魔王も特に何も言わないところを見ると、多分気のせいだろう。


「それじゃあ、農業体験の前にお昼でもどうだ?」

「うむ。よろしく頼む」

「ご迷惑をおかけします」

「気にするな」


 俺の提案に目を輝かせる魔王と申し訳なさげに頭を下げるジムナス。一応魔王ということもあり、地盤ブロックの椅子とテーブルに座らせて料理を出してやった。


「これは!! 美味ぁああああああああああい!!」

「……美味しいですね。ここの野菜の美味さを最大限に引き出しています。まさかこんな所にこれほどの逸材がいるとは……アイギスさんのところで働いていなければすぐに魔王様の城で雇うところです」


 魔王は目をカッと見開いた後、すぐにガツガツと料理を食べだし、ジムナスはユーシアに感心するように言う。


 そうだろうそうだろう。ユーシアは凄いんだ。


「そ、そんな僕なんてただの素人ですよ」


 ユーシアは照れるように謙遜して頭を掻いた。


「ユーシアが素人なら、俺たちはゴミクズ以下さ。だからもっと誇っていいんだ」

「あ、ありがとうございます」


 ユーシアの頭を撫でてやると、彼は小さくなって恐縮するように頭を下げる。


「さて、昼ごはんも食べたし、そろそろ作業を再開するか!!」

『おおー!!』


 そうこうしているうちに皆料理を食べ終えているようだったので、午後の作業を再開した。

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