第128話 新しい仲間
「おはようございます」
俺が目を覚まして体を起こすと、ユーシアが挨拶してきた。
「ああ。おはよう。よく眠れたか?」
「あ、はい」
「それは良かった。ソフィを起こしたらまずは朝食を食べよう」
「あ、ありがとうございます」
俺も挨拶を返し、恐縮しきりのユーシアを強引に朝食に誘う。
何をするにも話は朝食を食べてからだ。俺はソフィを起こして、エルフ、竜人、ドワーフたちと朝食を食べる。
「ここには色んな種族の人が居るんですね」
ユーシアが全体を見回しながら呟いた。
「なんだ? 珍しいか?」
「はい。僕の国で普通に生活できるのは人間だけでしたので」
ユーシアの発言は新鮮だった。
「へぇ~、そういうところもあるのか。俺が住んでいた町は元々色んな種族が住んでいたからこれが普通だと思ってた」
「そうなんですね。いや、でもこの方が自然だと思います……人間以外の種族を虐げるなんて……」
皆が集まってご飯を食べている様子を悲し気に見ながら呟くユーシア。
「なんだって?」
「いいえ、何でもありません。それよりもここって領地とかじゃないんですよね?」
最後の方が聞こえなくて聞き返すと、逆に問い返されてしまった。
まぁ、大したことを言っていないのなら別にそれでいいんだけど。
「ああ。ただの牧場だ」
「ということは彼らは……」
「そうだな。彼らはここで働く従業員だ」
「これだけ多くの人員を抱えるなんてこの牧場は凄いんですね」
「まぁな。美味さに掛けては世界一じゃないかと思ってるよ」
ユーシアに褒められて思わず頬を緩めそうになりながら語る。
正直味に関してはここ以上の野菜を食べたことがない。ソフィもそう言っていたし、エルヴィスさんもそう話していた。
ソフィはともかく、街を代表する商会の長であるエルヴィスさんが太鼓判を押すのなら、ウチの野菜が美味いのは間違いないはずだ。
「それは我も断言しよう。ここよりも美味い野菜を作る所はないぞ。その上、ここで育てる農作物は季節問わないからな」
「確かにそんな農作物なら高く売れそうですし、こんなに従業員がいるのも納得ですね」
ソフィの話を聞いてユーシアはウンウンと頷いた。
「さて、これからどうするつもりだ?」
ご飯を食べ終えて、皆が作業に入った後、俺たちは残ってユーシアを話を始める。
「そうですね……国に戻るしかないかなと……」
「そうか……」
彼はモンスターと戦うのが怖くて勇気が出る卵を求めて来たと言っていた。
国に帰ったら、モンスターと戦う仕事か何かにつかなければいかないのだろう。正直ここまでくる勇気があるなら何でもできる気がするが、こんなに若い子をこのまま帰すのも可哀想な気がする。
ここなら、ユーシアさえ望めば虫と戦闘で練習させることもできるし、チャチャやソフィと戦えば度胸がつくかもしれない。
せっかくだからそのトラウマを解消してやれればいいなと思う。
「それでは、お邪魔しまし――」
「待て」
席を立ち、牧場から出ようとするユーシアを止める。
「え?」
「ユーシア。お前さえ良ければここで少し働いてみないか?」
不思議そうな顔で振り返るユーシアに提案をしてみた。
「ここって、この牧場でですか?」
「ああ。ここにはドラゴンや竜人が沢山いるし、そいつらと戦えばユーシアも勇気が湧くかもしれないだろ? 勿論無理をする必要はない。慣れてきたらウチの牧場でそのまま働いてもらうのだっていい。どうだ?」
「僕にできることなんてないと思うんですが……」
俺の説明を聞いた自信なさげに俯く。
「なーに。誰しもが最初はできなかったんだ。俺だって初めて畑作業した時は上手くいかなかった。だから少しくらい失敗しても気にしないし、そんな難しい仕事はない。働いている内に慣れてくるさ」
「そ、そうですかね……」
俺が励ますと、ユーシアは少し嬉しそうな表情になる。
もうひと押しか。
「ああ。大丈夫だ。最初はみんなでしっかり教えるからな。なぁ」
「うむ。任せよ。慣れないうちは我らがサポートしよう」
ソフィにウィンクをして尋ねると、彼女は胸をポンと叩いて自信満々に答えた。
「……」
俺たちの言葉を聞いていたユーシアは俯いて黙る。
「分かりました。よろしければ、ここで働かせてもらってもいいでしょうか?」
無理かな、そう思い始めた頃、彼は口を開いて俺たちの提案を受け入れてくれた。
「ああ。勿論だ」
「うむ、よろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
俺たちは新しい仲間と握手を交わす。
「あ、ちなみに得意なことはないか?」
俺は思い出したように確認する。
もしかしたら得意なことを割り振れるかもしれないからな。
「そうですね……簡単な料理くらいならできるかなと」
「それ採用!!」
「うむ!!」
彼こそがこの牧場に一番必要な人材だった。俺はユーシアの肩をガッシリと掴む。
絶対に逃がさないぞ!!
「え!?」
「今日から君はウチの料理長だ!!」
「えぇえええええええええっ!?」
俺が困惑するユーシアに肩書をつけると、彼は驚愕して大声で叫ぶのであった。
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