【書籍発売記念SS】人体実験

 牧場が軌道に乗ったある日。


「今日は久しぶりに街に行くか」

「そうだな」


 最近、従業員に任せっきりでしばらく街に行ってなかったので、俺とソフィは出かけることにした。


「やっぱり空は気持ちいいな」

『我もたまには空を飛ばぬと体がなまるからちょうどいい』


 空から見える景色は相変わらず綺麗でソフィが調整してくれている風が心地いい。


「ん?」


 下を見ろしていると、気になる光景を見つけた。


『どうしたのだ?』

「あそこに人が集まっているみたいだ」


 ソフィが俺に尋ねるのでその方向を指さす。


「どれどれ? むっ、あれか。確かに集まっておるな。盗賊だ」

「そうか。この間のエルヴィスさんを襲った奴らの残党かもしれないな」


 彼らが集まっていたのは山の麓。


 俺はソフィのようにハッキリとは見えていなかったけど、エルヴィスさんが襲われたという場所に近かったからそんな気がしていた。


『どうするのだ?』

「迷賊も出逢ったら討伐がルール。盗賊もそうしないとな」


 迷賊も盗賊も人に害しか及ぼさない。


 見て見ぬふりをしたら、エルヴィスさんのように誰かが襲われるかもしれない。そうなれば、少なくともお金になる物は奪われるだろうし、最悪殺されてしまうだろう。


 悪即斬だ。


『お主ならそう言うと思っておったわ』

「いこう」

『うむ』


 カッカッカと笑うソフィに声を掛けて俺たちは盗賊たちを急襲した。


「な、なんだあれは!?」

「ド、ドラゴン!?」

「に、逃げろぉおおおお!!」


 盗賊たちが慌てふためいて、一目散にその場から逃げようとした。


「逃がさない!! うぉおおおおおおっ!!」


 大分地上が近くなったところで俺は飛び降りて、魔力を乗せて自分に注意を向ける咆哮『戦士の雄叫びウォークライ』を放つ。


「な、なんだ? 体が勝手に!?」

「うわぁぁああああっ。体が言うことを効かないぃいいいいっ」

「逃げたいのに、逃げられないっ」


 迷賊にも有効だったから試してみたら案の定効いてくれた。これで俺から逃げることはできない。


「ぐわぁっ!!」

「ぎぃやああっ」

「ぼべらっ」


 盗賊は迷賊よりも弱いのでそれからは一方的な戦いとなった。俺が軽く殴って、ソフィが暴れるだけで盗賊たちは鎮圧できた。


 ここが盗賊たちのアジトだったようで、内部に盗賊たちも根こそぎ捕まえた。幸い盗賊に捕まった人や殺されてしまった人は見つからなかった。


「ふむ、これはいい機会かもしれぬな」


 人間の姿になったソフィが集めた盗賊たちを見下ろしながら呟く。


「何がだ?」

「うむ。こやつらに死の森の果物や木の実を食べさせてみようかと思ってな。そうすれば、お主も少しは我の言うことを信じるようになるであろう?」

「それはそうだな」


 ソフィが考えていたことを聞いて納得する。


 今まで比較対象が少なさ過ぎて俺の毒耐性の凄さがイマイチ分かっていなかった。それが分かるのなら試してみてもいい気がする。


 ただ、人道的にそれはいいんだろうか。


 そう思って聞いてみる。


「どうせ、こやつらは処刑されるのだ。少しくらい実験しても問題あるまい。それに致死毒は一つもないからな」

「それもそうか」


 確かに彼女の言うことには一理あるので、気にしないことにした。


「お前たち、腹が減っているだろう? これを喰わせてやろう」


 ソフィはそう言って亜空間倉庫から一つ目の果物を取り出した。


「な、なんのつもりだ?」

「気にするな。お前の知るところではない」

「ちっ。わぁったよ。食べりゃあいいんだろ、食べりゃあっ」


 盗賊は狼狽えながら問いかけるが、ソフィが答える様子がないのを見て、その果物を受け取った。


「……それにしても美味そうな果物だな。これは食べるしかない!!」


 その果物を手に取った盗賊が突然涎を垂らして果物に食らいつく。


「うまぁっ!! うっ……」


 食べた瞬間、天国にでも上りそうなくらい幸せそうな顔をした盗賊だったが、次の瞬間、ぱたりと倒れて動かなくなった。


「ま、まさか毒か!?」

「い、いやだ。死にたくない」

「どうか許してくれぇ!!」


 その様子を見ていた他の盗賊たちが自分も殺されてしまうのではないかと怯え始める。


「お前たち、よく見てみろ。こやつは死んではおらん」

「zzz……」


 盗賊たちを安心させるようにソフィが果物を食べた男を蹴って転がすと、そいつは緩み切った顔で寝顔を晒した。


「な、なんだ……眠っただけか……」

「驚かすなよ……」

「毒には違いないけどな……」


 他の盗賊たちは、その男の寝顔を見て安堵する。


「よし、次はお前だ。それを喰え」

「い、嫌だ」


 ソフィは次の生贄を指さすが、その男は拒否しようとした。


「力づくで食べさせられるのとどっちがいいのだ?」

「喜んで食べさせていただきます!!」


 しかし、ソフィが凄んだだけで食べ始め、最初の男と同じようにその場にぶっ倒れて寝てしまった。


 それからもう数人に同じように食べさせた結果、どいつもこいつもたった一口食べただけで眠りに落ちてしまう。


 俺は毎日のように夜に二、三個食べているけど、俺は特になんともない。


「どうだ? お主の異常性が少しは分かったか?」

「ふ、ふん!? それだけかもしれないだろ?」


 したり顔のソフィがなんだかムカッとしたので、意地を張って返事をする。


「よかろう。他の果物も試してみようではないか」

「望むところだ」


 俺は売り言葉に買い言葉で余裕を崩さないままのソフィの挑戦を受けた。


「これで分かったであろう?」

「そうだな」


 その結果はやる前から分かっていた通り、ソフィの言う通りになった。


 どの果物も木の実も盗賊が食べた瞬間、果物の毒が効果を現わす。麻痺になったり、幻覚を見るようになったり、下痢になったり、しゃべれなくなったり。


 俺は降参する他なかった。


 どうやら俺の体は結構おかしいらしい。


 今日は少しだけ自分の異常性を自覚した一日となった。



■■■


本日、『無自覚最硬タンクのおかしな牧場』の書籍第一巻が発売されました。

よろしければ、お手に取っていただけますと幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/miporion/news/16817330659868824789



また、新作を投稿をいたしました。

今流行りの配信物?です。ノリと勢いで書き始めました。

よろしければこちらもよろしくお願いたします。

『ハッピーおじさん~不幸のどん底に落ちた男、姪っ子に配信されて、今日も自分の知らないところで伝説になる~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330658833043419


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