第127話 訪れたのは
「俺はこの牧場の主のアイギスだ。よろしくな」
「は、はい!!」
俺はユーシアに名乗り返して手を差し出した。
彼は俺の手を取る。その手はとても小さい。
声と言い、体つきと言い、仕草といい、どこからどう見ても全てが女の子にしか見えないが、エルヴィスさんからの話では男の子とのこと。俄かには信じがたい。
それはさておき、自分で言うのもなんだが、こんなに人里離れた牧場に来るなんてよっぽどの理由がないとありえないだろう。
「それで、この牧場に何か用か?」
「えっと……僕は戦うのが怖くって……噂で辺境に食べれば勇気が湧いてくる卵があると聞いたんです。ただ、街では力が漲る卵しかなくて……でも、もしかしたらその卵を作っている場所の新鮮な卵なら勇気が湧くんじゃないかと思って生産者を尋ねたら、ここの牧場のことを聞いたんです。譲ってもらえませんか?」
「ちょっと待て……勇気が出る卵ってなんだ?」
用件を聞いたが、ユーシアが言っている意味が分からない。
「え?」
「ウチで作っているのは普通のチキンバードの卵なんだが……」
俺の反応にぽかーんとした表情になるユーシアに対して俺も困惑しながら答える。
なんだよ勇気が出る卵って……。
ウチにあるのは何の変哲もない普通の卵のはずだ。
そんな卵は聞いたことがない。
「そんな!? カーン商会の方に教えてもらったんですよ!?」
「そう言われてもなぁ。実際に食べてみるか?」
カーン商会で聞いたと言われたら、無碍にもできない。
しかし、こっちとしたら後は実際にその卵を食べてみてもらう他にない。
「いいんですか!? お願いします!!」
「ソフィ!!」
時間的に今日生んだ卵は収穫してしまったので、その収納を一手に引き受けるソフィと呼ぶ。
「どうした? 呼んだか?」
すぐにやってきた彼女が不思議そうな顔で俺に尋ねる。
「ああ。この子が勇気が出る卵がほしいっていうんだが、ウチにあるのはチキンバードの卵だけだ。今日取った奴を出してやってくれ」
「うむ。分かった」
ソフィは亜空間倉庫に手を突っ込んでごそごそとやって、割れないように緩衝材が敷き詰められた箱に入った卵を取り出してユーシアの前に取り出した。
「これが今日獲れたばかりの卵だ」
「ありがとな。早速だが、ウチで作っているのはこの卵だけだ。どうだ、何か分かるか?」
「うーん。確かにホカホカして獲れたてなのは分かるんですけど、やっぱり実際に食べてみないと判断できないですね」
ユーシアは卵に顔を近づけて指でつんつんしながら見ているが、やっぱり見ただけじゃ何も分からなかったらしい。
「そうか。それじゃあ、ちょうどいいから俺たちと飯を食べよう」
「は、はい!!」
俺たちは少し早いが卵の料理をユーシアに振る舞うことにした。
とはいえウチの卵料理はTKGと目玉焼きくらいしかないが。
「「「いただきます!!」」」
料理を作った俺たちは早速食べる。
「「「美味い!!」」」
いつも通りだが、声を揃えて感想を述べる俺達。それから食べ終えるまで無言になった。
「ユーシア、どうだ?」
「そうですね。街で食べたのより僅かに力が湧く気がしますが、それだけですね……」
「そうか……役に立てなくて悪いな」
「い、いえ!? 僕が勝手に押しかけたのでこちらこそすみません」
料理を食べ終えた後でユーシアに聞いてみたが、やはり勇気が湧くということはなかったらしい。
彼はすっかり意気消沈してしまった。
「今日はここに泊まっていくといい」
「……いいんですか?」
「もう遅いからな。それに街も遠い。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
そんなユーシアをそのまま返すのも忍びなくなったので彼を家に泊めた。
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