第122話 卵を探し求めて(第三者視点)

 一方その頃。


 ファーステストの街に一人の人物が辿り着いていた。


「こ、ここに勇気が湧いてきて男らしくなれる卵があるって言ってたんだけど……」


 まるで女の子のようにも見えるその少年は、城から逃げ出した勇者であった。彼は噂で耳にした卵を求めてこの街にやってきていた。


「おや、どうかしたのかい?」


 辺りをキョロキョロと忙しなく見回す少年を見て、通りがかった中年の女性が彼を心配して声を掛けた。


「あ、あの、この辺りに食べると勇気が出る卵があるって聞いたんですけど……」

「勇気が出る卵かい?……うーん、そんな話聞いたことがないねぇ……」


 勇者は意を決してその女性に卵のことを尋ねてみたが、女性は眉間に皺を寄せて少し考えるそぶりをした後、申し訳なさそうに返事をした。


「そうですか……」


 勇者は情報が得られずにガックリと肩を落とす。


「あ、なんでも食べると力が湧いてきて、事故や暴力から身を守ってくれる卵ならあるって聞いたことがあるよ」


 そんな勇者を見かねてさらに何かなかった思い出そうとした女性は、ふと気になった卵の話を思い出した。


「ほ、本当ですか!?」


 その話を聞いて、すぐに元気を取り戻す。


「ああ。ここを真っすぐに行くと、卵が看板の店があるから、そこにいってみな」

「わ、分かりました。ありがとうございます」


 有力な情報が得られた勇者は彼女の情報に従って、その店を探して歩く。暫くすると、彼女が言った通り、卵の看板が目印のお店が勇者の右手前方に見えてきた。


「こ、ここで卵を食べたら僕は強くなって勇気が湧いてくるかもしれない」


 店の前に辿り着くと、勇者はグッと小さな拳をにぐって力を入れる。意を決して勇者はその店の入り口を潜った。


「いらっしゃいませ!! こちらへどうぞ!!」

「あ、はい」


 愛想よく挨拶をする可愛らしい女性に案内され、勇者は空いている席に付く。


「こちらのメニューから料理を選んでくださいね」


 女性はそう言って勇者にメニューを渡した。


「あ、あの……」


 しかし、勇者はメニューを見ることなく、その店員の女性に声を掛ける。


「あ、はい。どうされましたか?」

「あの、ここには食べると力が湧いてくる卵があるって聞いてきたんですけど……」


 不思議そうな店員に対して、勇者は恐る恐るこの店にきた目的を伝えた。


「あっちゃー。見かけないお客さんだと思ったらあの卵が目的だったんですね」


 しかし、その瞬間、店員の顔がやってしまったと言わんばかりに歪む。


「そ、それがどうかしたんですか?」


 女性の反応を見て良い内容ではなさそうだなと感じつつも勇者は問い返す。


「あの卵は毎日一定量しか手に入らなくてね。一日五十食限定なんですよ。そして今日はもう五十食出てしまってるんです……申し訳ありません」

「そんなぁ……」


 店員は申し訳なさそうにしながら今日はすでに売り切れてしまった事を伝えると、勇者は肩を落として項垂れてしまった。


「でもでも、明日も五十食用意できますので、オープンと同時に来てもらえればほぼ食べられると思いますよ」

「本当ですか!!」


 そんな勇者を見かねて励ますと勇者はすぐに復活した。


 彼にとってはその卵を食べられるのなら一日や二日程度の違いは誤差でしかない。


「ええ。大丈夫だと思います。心配なら少し早めにきて並んでもらえれば確実かと」

「分かりました!!」


 詰め寄ってきた少年を微笑ましく思いながら、店員はほぼ確実に食べられるであろう方法を教える。勇者はその方法を聞いて目を輝かせて首を縦にブンブンと振った。


「それで、今日はどうしますか? 何か食べます?」


 目的の食べ物は明日食べられることになったが、今はどうするのか尋ねる店員。


―グゥ~


 そんな時、可愛らしい音が少年の体の中から聞こえてきた。


 勇者はここに来るまであまり食事を摂っていなかった。それがここにきてようやくお目当てのものらしき卵を食べることができるというので気が抜けてしまい、その安堵から急に空腹感が襲ってきたのだ。


「た、食べます。このお店一番のおすすめを貰えますか?」

「ふふふっ。分かりました。少々お待ちくださいね」


 勇者は恥ずかしそうに俯きながら注文し、店員もそんな少年を可愛らしく思いながら、とびっきりの料理を提供しようと思うのだった。


「美味しい!!」

「それは良かった」


 それから勇者はこの店のおすすめ料理を堪能し、その体に栄養を取り込んだ。ろくに食べていなかった体は更なる栄養を求めて刺激を発し、少年に何度もお替りをさせることになった。


 お腹が一杯になった勇者は支払いを済ませて、その日の宿を探して街を練り歩くのであった。

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