第120話 萌芽
明くる朝。
「んあ~、よく寝た」
俺は体を起こして思いきり伸びをした後でベッドに手を付く。
―ムニュッ
しかし、そこにあったのはベッドのふかふかの感触以上に柔らかな弾力のあるものだった。暫く触れていないが、ひどく懐かしさを感じさせるものだ。
ま、まさか!?
俺の意識は急速に覚醒し、物凄く嫌な予感がしたので、自分が手を置いた場所を恐る恐る確認する。
「ふぅ~、違ったか……よかった……」
しかし、俺の予想に反してそこには魔王ではなかった。
俺は安堵して自分の額にかいた汗を拭った。隣に寝ていたのはだらしのない恰好で眠っているソフィだった。
ただ、安堵してはいけなかった。俺の手は彼女の服のはだけた部分にスルっと入ってしまっていたのだ。
男にはない禁断の柔らかさが俺の手を包み込んでいる。
「!?」
俺はすぐにその場から手を離して飛び退った。
「ふ、ふわぁ……どうしたんだ? そんな所で?」
激しく動いたせいかソフィが目を擦りながら体を起こし、俺の方を眠気眼のまま見つめる。
全く呑気過ぎるだろ!!
「い、いや、なんでこっちにいるんだよ!! 魔王と一緒に寝たはずだろ?」
「いやなに、あの小娘の奴の寝相が酷くてな」
俺は気を取り直して立ち上がり、ソフィを問い詰めれば、ソフィはバツの悪そうに理由を述べる。
「だからってこっちに来る必要ないだろ!!」
ソフィの部屋には以前買ってきたソファやなんかも置いてあるはずだ。そこで寝ればいいのになぜわざわざ俺の部屋にやって来るんだ!? この無知古代竜め!!
心の中で悪態をつく。
人間ではないがゆえに、自分の容姿が男に与える影響を全く考えない行動は、本当にいつも俺を悩ませてくれる。
最初から分かっているのならまだ心の準備というものが出来るが、突発的な出来事は心臓に悪すぎる。
「ベッドの方が寝心地がいいではないか。よく一緒に寝ているのだから構わんだろう?」
「構わんけど、構うわ!!」
全く悪気の無い感じで言うソフィに俺は自分でも何を言っているのか分からないことを言う。
「どっちなのだそれは、意味が分からんぞ」
ソフィも訳が分からず困惑気味だ。
「コホンッ……兎に角一緒に寝たいなら事前に言う事。そうじゃない場合は俺が寝ていても必ず起こすように。分かったな?」
「むぅ~、分かった」
俺はソフィの態度に少し冷静さを取り戻して咳払いした後でルールを設けて、ソフィも渋々ながらそれを受け入れた。
「なぜだ……お主と寝ると心が暖かくなるのに……」
ソフィが好きなようにやって来れないことを残念そうにつぶやいているが、一緒に寝ると落ち着かないし、俺の中で溜まっていくナニかがいつ解放されてしまうか分からないので、事前の相談くらいは譲歩してもらなければならない。
本当にこっちの身にもなって欲しい。
「別に一緒に寝てやらないとは言ってないんだから我慢しろよな」
「むっ。そうだな。その通りだな」
あんまりに落ち込んでいるので一応フォローすると、少し思い違いをしていたのか、少し元気を取り戻した。
「なんじゃなんじゃ? 修羅場か?」
俺とソフィが騒いでいるところに、魔王がニヤニヤとした顔を浮かべて隙間の空いた扉の向こうからやってくる。
「なんだ修羅場とは。我とアイギスは別に揉めておらんぞ?」
「んーそうなのか? それじゃあなんなのだ?」
ソフィは特に慌てることもなく返事を返し、魔王は面白そうなものが見れない分かると、残念そうにしながら今の状況について尋ねた。
「んー、我がこやつの布団に入って寝ていたら怒られてしまったのだ」
「なるほど。そういうことか。それはさもありなんじゃろ、お姉さまよ」
ソフィの説明を聞いた魔王は俺の意見に賛同する。
「何故だ?」
ソフィは訳が分からず首を傾げた。
「全く人間の国なんぞ数百年も運営しておったというのにそういうところは鈍いのじゃな。よいか?
「な、なんだと!?」
魔王は無知なソフィに対して分かりやすく説明した。その言葉を聞いていたソフィは余りに信じがたい事実に目を見開いて驚く。
「そ、そうなのか?」
「ま、まぁ夫婦と言わなくても、それに近しい関係の男女でなければまず一緒に寝ることはないだろうな」
呆然として俺の方に顔を向けて聞いてくるソフィに、少しぼかしながら魔王の意見を肯定した。
「そ、そうだったのか……アイギスは我と一緒に寝るのは嫌だったか?」
「べ、別に嫌だったらさっきみたいな提案をするわけないだろう。ただ、男には色々あるんだよ」
そんなウルウルした瞳で問われたら嫌だったとは言えるわけがない。
「そ、そうか、嫌ではないのか。良かった……」
「お姉さまは長生きしている割にそういうところは無知なのじゃな」
安堵するソフィを見て魔王は意外そうな顔をする。
「今までそういう関係になる雄もいなかったしな」
「それもそうか。お姉さまより強い雄などおらんからな」
「そういうことだ。竜は強い相手ではないと番とは認めん」
ソフィの答えを聞いて納得するように魔王は何度も頷いてみせた。ソフィも魔王の言葉を肯定するように首を縦に振る。
ドラゴンにはそう言う習性があるらしい。ソフィが男女関係になった相手がいないと分かるとホッとしている自分がいる。
「それならアイギスが絶好の相手ではないか?」
「…………」
しかし、その後に続いた魔王の言葉でソフィは硬直してしまった。
そしてその直後、魔王の方を向いていた顔を人形のようにギギギッと音でもしそうな動きで俺の方を見ると、顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「だ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ。少し体が熱くなってきただけだ。少し水浴びして冷やしてくる!!」
なんだか先程から顔色が滅茶苦茶変わっているので心配して尋ねたら、ソフィは慌てて部屋の外に去っていった。
「これはひょっとするとひょっとするのではないか?」
魔王はその出ていったドアを見つめて顎を擦りながら呟く。
「何がだ?」
俺は気になったのでその呟きを拾った。
「お姉さまがお主の女になるってことじゃ」
「え?」
俺は魔王の言葉に頭が真っ白になった。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
只今カクヨムコンテスト開催中につき、下記作品も鋭気執筆中ですので、もしまだお読みではない方がいらっしゃいましたら、併せてお読みいただければ幸いです。
引き続きよろしくお願いいたします。
◆雑魚は裏ボスを夢に見る~俺はその
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