第119話 お泊り
すでに酒盛りの様相を呈している祝宴。
全体を見回すと客としてきた人物が楽しそうに躍り出していたので様子を見に近づく。
「おーい魔王、大丈夫か?」
「大丈夫に決まっておるのじゃ~、あははははっ」
その人物である魔王の元に行って声を掛けると、何処か上の空と言うか、ポワポワして完全に酔っている人間の言動で返事が返ってきた。
「どんだけ飲ませたんだよ?」
俺は犯人であろうソフィをジト目で見つめる。
「それほど飲ませてはおらんぞ? なぁ?」
彼女は俺の視線を受けて肩を竦めた後、魔王に酌をしていたジムナスさんに同意を求めた。
「はい。そうですね。魔王様はあまりお酒に強くありませんので……」
ジムナスはちびちびと酒を飲みながら申し訳なさそうに頭を下げる。
「よくそれで酒を飲むことを了承したな」
「お酒が弱いのと好きなのは別ですから」
「そういうことか」
まさかの事実発覚に俺は少し呆れてしまったが、父さんも酒が強くもないのによく晩酌していたことを思い出してそれもそうかと納得した。
酒を飲むことでストレス発散になることもあるだろう。魔王は一族の頂点に立つ人物。日頃の心労とか凄そうだ。今日は周りにジムナスさん以外いないから少し羽目を外してしまったのかもしれないな。
「今日はどうする?」
楽しそうに飲んでいるのでまだ飲ませてやろうとは思うが、酔っぱらった魔王をどうするのかジムナスさんに確認しておく。
連れて帰るかどうかでこっちの対応も変わる。
「流石にこのままおかえりになるのは難しいかと」
「そうだよなぁ。仕方ない。今日はウチに泊めるか」
そうなるとは思っていたが、ジムナスから明言されたことで、魔王をウチに泊めてやることにした。
「よろしいのですか?」
「まぁ、こんな様子で帰らせるわけにもいかないだろ」
元々酒を飲むことになった時点である程度は覚悟していたので何も問題ない。
「お気遣いありがとうございます」
ジムナスさんは酒を飲むのを止めて深々とお辞儀した。
「気にするな。ジムナスさんはどうする? 魔王と同じ部屋って訳にはいかないんだよな?」
「いえいえ。私は一度先に帰りますので」
ジムナスさんも一緒に泊まるものだと思っていたが、彼は先に帰るつもりらしい。
警戒心がなさすぎじゃないだろうか。
「いいのか? 魔王を一人ここに置いて行って」
「アイギスさんの為人は大体分かりましたし、変なことをするような方ではないと判断しました。それにアイギスさんなら手を出されても問題ありませんよ。魔族は実力主義。挑んでくる相手を倒してればその内大人しくなりますから」
「遠慮しておくよ」
今日初めて会ったというのによくよく信用されたものだ。勿論彼の言う通り、変なことをするつもりはないし、俺は幼女趣味ではない。
せめてソフィくらいの年齢はいっていないとそういう対象にはならないしな。
「それは残念です」
「冗談も程ほどにしろよ」
にっこりと笑う彼を非難するような目で見つめる。ジムナスさんはたまに表情が読めなくなるから性質が悪い。
「ふふふっ。それはどうでしょう」
「はぁ~、実はジムナスさんも酔ってるな?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
冗談じゃないとしてもそれはそれで問題大ありだからな。
「まぁいい。そうと決まれば、満足するまで飲ませてやるさ」
これ以上話をしても埒が明かないと思った俺は諦めて話を進める。
「よろしくお願いします。私はそろそろお暇します。明日のお昼ごろまた迎えに来ますね」
「へいへい」
ジムナスさんは酒をグイっと呷って飲み終えたら、立ち上がって俺に挨拶をして飛び去っていった。
それから魔王のお
場の雰囲気に酔ってしまったに違いない。
「ふぅ~、余は満足じゃ」
「そうか、それは良かったな」
魔王は言葉の通り凄く満足そうな顔をして何故か俺の胡坐の上に腰を下ろした。俺はチャチャを抱いているのと変わらない感情しか湧かないので思わず撫でてしまった。
「うむ。妾はそろそろ帰るぞ」
しかし、魔王は特に気にする風でもなく、俺の膝から立ち上がって胸を張る。へべれけになっている彼女を一人で返すわけにはいかない。
「いや、今日はウチに泊っていけ。ジムナスさんからも許可は貰っている」
「なんじゃ? 妾の体が目的か?」
ウチへ泊まるように誘ったらジムナスと同じようなことを良いながら両手で体を覆うような仕草をして俺から体を隠す。
「なんで魔族はすぐそういう発想になるんだ!? そんなこと一切考えてねぇよ。お前はソフィと同じ部屋だ」
「ふーん、なんじゃつまらん」
俺と一緒に寝ることが出来ないと分かると、彼女は口をとがらせて不満そうに言う。
「それでいいんだよ」
「まぁ仕方がないのう」
俺が頑なに受け入れようとしないことが分かると、彼女はムスッとしながらも諦めてくれた。
魔王はソフィに案内させ、俺はもうしばらく従業員たち一緒になって酒を飲んだ。
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