第114話 農作物
俺達はシルの前から移動して畑の前にやってきた。
「ここがウチの自慢の畑だ」
「おぉおおおおおおおおっ。飛んできた時も思ったが間近で見るとまた違うのう」
一面の青々とした作物が実る光景は魔王の心を鷲掴みにした。
確かに空から見るこの牧場はダンジョンの砂漠エリアにあるオアシスみたいに見えて凄く綺麗だったのを思い出す。
「そうだろうそうだろう」
「ここの畑は地盤の下にあった魔力を多分に含んだ肥沃な土と溢れ出した魔力たっぷりの水。そしてシルの大樹から溢れる清浄な空気と植物のスペシャリストであるエルフが監修することによって最高の野菜が出来ておるのだ」
俺は魔王の誉め言葉に気分が良くなり、ソフィはこの畑が如何にすごいかを語り始める。
「なるほどのう。この野菜はここでしかとれぬということか」
「ちょっと食べてみるか?」
「おお、いいのかの?」
「ああ。個人で消費するくらいなら問題ない」
実がギッシリとつまり、はち切れんばかりに実った農作物を見て魔王が食べたそうにしている。その気持ちはよく分かるので彼女達にも食べさせてやることにした。
「おお!!ぜひ頼むのじゃ!!」
魔王は目の前の野菜が食べられるとあって目を輝かせる。
俺は畑を世話しているエルフたちに声を掛けていくつかの野菜を収穫することにした。
「そうだ」
俺は一つ思いついた。それは魔王にも自分で収穫してもらうと言うことだ。
こういうのは自分で育てて、自分で収穫するのが一番美味い。しかし、育てようにも最短で一晩かかってしまうので、せめて収穫を体験させてやりたいと思ったわけだ。
それだけでも食材の味が変わって感じられるはず。
「ん、どうしたのじゃ?」
「魔王も収穫してみないか?」
「うぉおおおおおおっ!!それはいいのう!!」
俺の提案を受けて魔王は喜びを爆発させる。喜んでもらえて何よりだ。
「いけません魔王様。魔族を統べる魔王が野菜の収穫したなどと聞かれたら沽券にかかわります」
「堅い事をいうなジムナス。我はやってみたいのじゃ」
「それじゃあ早速収穫しようぜ」
「うむ」
魔王は止めさせようとするジムナスを黙らせて畑の中についてきた。
やりたいことはやる、魔王はやると決めたことは部下に諫められてもやるタイプみたいだ。
「そんじゃあ、このディーコンを引っこ抜いてもらうか」
「うむ。任せるのじゃ。ふんぬー!!」
俺が指さすディーコンの茎を持ち、思いきり引き抜こうとするが、引っこ抜ける気配がない。
魔王は身体能力が高いと聞いていたが、まさか嘘だったんだろうか?
「なんじゃこのディーコンは!!全く抜けんぞ!?」
「どれ、ワシも試してみよう。はぁっ!!」
驚愕して目をパチクリとさせる魔王を見て、ソフィも自分なら引き抜けると意気揚々とディーコンの茎に手を掛けて引っ張った。
「ぬぐぐぐぐっ!!」
しかし、思いきり踏ん張っているにも関わらず、そのディーコンはビクともしない。
「ソフィまで抜けないってのはおかしいな。そのディーコンがおかしいのか?」
「そうであろうな。我も最初のころは手伝っておったし」
「それじゃあ、こっちの奴で試してみてもらえるか?」
「うむ。分かったのじゃ」
ソフィは普通に作るのを手伝っていたので自分でディーコンを抜いていた。それにもかかわらずディーコンが抜けないってことはこのディーコンがしぶといってことだ。
だから俺は別のディーコンで試してみてもらうことにした。
―スポンッ
「のわぁああああああっ!!」
「魔王様ぁあああああっ!!」
次のディーコンを引っこ抜いた魔王は勢い余って後ろに転げまわっていき、その後をジムナスが追っていった。
ジムナスが魔王を止める。
「ふぃ~、びっくりしたのじゃ。一本目が微動だにしなかったから思い切りやってみらあっさり抜けおったわ」
「どれ、我も抜いてみよう」
―スポンッ
「うむ。こちらのディーコンも問題ないようだな」
ソフィも別のディーコンに挑戦してみるが、あっさりと引っこ抜くことが出来ていた。魔王のことを見ていたので同じような過ちを繰り返すことはなかった。
「それにしてもそのディーコンは謎じゃな」
「そうであるな。アイギス、そのディーコンを引っこ抜いてはくれぬか?」
「俺に抜けるか分からないが、やってみよう」
お手上げといった様子の魔王とソフィ。白羽の矢が立った俺がそのディーコンを引き抜くことなった。
「フンッ」
―ズポンッ
「なんじゃこれ!!」
「とんでもなく大きいな!!」
二人がそのディーコンを見てテンションを上げている通り、土の中から出てきたのは数メートルはありそうなディーコン。つまり、このディーコンは地中深くまで根を張っていたわけだ。
―ズシーンッ
俺は巨大なディーコンを畑から出て地面に置いた。
「それにしても我らでも抜けなかったディーコンをこうもあっさりと引き抜くとは、こやつは本当にとんでもない男じゃな?」
「ああ、それは間違いない」
何故かソフィと魔王は二人して俺に失礼な事を言いながらお互いに頷きあっていた。
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