第115話 巨大鍋パーリ―

 流石にデカすぎるので小さくカットした大根にかぶりつく魔王。


「うまぁあああああああああああい!!」


 ディーコンを生で食べただけなのに魔王は点に向かって咆哮を上げた。


 その気持ちは分かる。ウチの野菜は生で食べても美味すぎるからな。


「だろ?」

「うむ。なんなのじゃこれは。ただの野菜とは思えぬ美味さよ」


 自分が齧ったディーコンをまじまじと見つめながら信じられないという表情をしている。


 今までの野菜観みたいなものが吹っ飛ぶくらい衝撃的だよな。


「ふっふっふ。これもここを離れられない理由の一つだな」


 ソフィが腕を組んで目をつぶりつつもどや顔をして言う。食いしん坊ドラゴンは一度味わってしまった美味さの虜になってしまっていた。


 一人は寂しいからありがたい話だ。


「お姉さまよ、その気持ちはよく分かるのじゃ。我もここに住みたいのじゃ」

「魔王様、それはなりませんぞ?」

「分かっておる。妾は魔王じゃからな」


 魔王もソフィーの言葉に同意するが、その肩書ゆえにジムナスさんに窘められ、少し不機嫌そうに返事を返した。


「しっかし、これほどデカいディーコンは食べきれないな」

「うむ。美味かろうとこのままでな。鍋で煮ようも鍋の数が足りない」


 あまりに巨大で数人では処理しきれそうにないし、牧場にある鍋を全て持ってきても入りきらなさそうだ。


「妾が鍋を持ってきてやろう。せっかくじゃから巨人用の巨大鍋で煮るのはどうじゃ?」

「それは面白そうだな」

「我も賛成だ」


 魔王の思わぬ提案に俺とソフィは一も二もなく首を縦に振った。


 巨大な鍋で鍋料理なんてぜひとも食べてみたいじゃないか。


「二人とも興味があるようじゃな。ジムナスよ、巨大鍋を出すのじゃ」

「ははっ」


 魔王がジムナスさんに指示を出すと、執事はソフィと同様に亜空間倉庫が使えるらしく、その中からとんでもなく巨大な鍋を取り出した。


「こりゃあ……デカいな」

「まぁのう。これは巨人種の中でも一番大きなギガントジャイアントという種族が普段使いしている鍋じゃ」

「これならドラゴン状態の我でも腹いっぱいになりそうだな」


 その大きさは十メリル級。これほどの大きさなら数メートルくらいのディーコンは余裕で入るだろう。


「よし、早速調理に取り掛かるぞ」

「火力なら任せよ。これほどの鍋となると普通の火ではどうにもならないかろう」

「そうだな。それはソフィに任せよう」

「生む。心得た」


 ソフィの言う通り、こんなデカい鍋を熱し続ける火を焚き続けるのはかなり大変な作業になる。それを彼女が肩代わりしてくれるというのであれば、凄く助かる話した。だから彼女の提案通り、依頼した。


「うむ、妾もやってみたいのじゃ」


 魔王がワクワクしながら目を輝かせている。


「ん?料理はしたことないのか?」

「これでも魔王じゃからな。誰もやらせてくれんのじゃ」


 どうやら魔族の長ともなると自分で料理も出来ないらしい。それはそれで凄い技術のある料理人が上手い料理を提供してくれるのならいいかもしれない。


 でも先ほどの収穫同様、自分で調理したものを食べるというのもおいしく食べる秘訣みたいなところはあるからぜひとも自分でやってもらいたい。


「魔王様はそんなことをせずともよろしいのです」

「だが、断る!!妾料理をするのじゃ」

「は、ははっ」


 ジムナスが憮然とした態度で再び魔王を咎めようとするが、流石一族の王。部下の忠言を無視して鍋の調理に参加した。


「むむ。中々難しいのう」


 彼女は野菜の皮むきなどを担当していたが、慣れない作業に四苦八苦していた。


 それから牧場中の従業員の中からある程度の人数を参加させ、具材の下処理を終わらせて鍋にお湯を張って具材をぶち込み、ドワーフの煮込み料理の調味料をこの鍋に合わせた分量にして投下したものを、ソフィがドラゴンになってブレスで熱することでしばらく煮込んだら、巨大ディーコン鍋の完成だ。


 しかし、その鍋から直接装うにも高すぎるので難しい。


「我がよそってやろう」


 そこで全員が自分たちの鍋を持ってきて、ソフィが水をせき止めていたように、鍋の中身をあやつってそれぞれの鍋に分けていった。


「じゅる……とんでもなく美味そうな匂いがするのう」

「くっ、同意せざるを得ません」


 魔王は鍋から漂ってくる匂いに涎を垂らし、ジムナスも悔しそうに歯を噛みながら頷く。


 働いていた人員も良い匂いとそろそろお昼の頃合いということで戻ってきて全員の器に料理がよそわれた。


「それじゃあ、全員にいきわたったみたいだから食べようか、いただきます」

『いただきます!!』


 そして全員が集まったところで俺の合図で一斉に食べ始める。一口口に入れた瞬間に、皆が目をカッと見開いて夢中で食べだした。


 何度か食べている料理だけど、こうしてお祭りみたいな感じで食べるとまた格別に美味しいせいだろう。


『うまぁあああああああああああいっ!!』


 そして、器の中を空っぽにして皆が一斉に叫んだ。


 その光景を見ながら微笑む。こういう眺めも悪くない。


 俺は皆が美味しそうに料理を食べる姿を見てそう思うのであった。

 



■■■

いつもお読みいただきありがとうございます。

また新作投稿しました。

こちらもよろしくお願いします!!


能無し陰陽師は魔術で無双する〜霊力ゼロの落ちこぼれ、実は元異世界最強の大賢者〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330649374806786

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