第104話 飲み比べでウハウハ!!

「ルールだが、非常にシンプルだ。お主達の誰か一人がこ奴と飲み比べて生き残ったらお主達の勝ち。それが出来なければこっちの勝ちだ」


 ソフィはいきなりむちゃくちゃな条件を提示した。


「おいおい、それはあんまりにも俺に不利すぎやしないか?」

「お主は今まで酒に酔ったことはあるのか?」


 俺はすぐにソフィの腕をひっつかんでドワーフたちから離れてこそこそと話をする。


「ん~、数えるほどしか飲んだことはないが、酔った覚えはないな。パーティメンバーの介抱をしていた覚えはあるが」


 ソフィの質問を受けて腕を組んで中空を見ながら過去のことを思い出してみるが、そういえば俺って酔った記憶がない。


「おそらくだが、お主にとっては酔いも状態異常とみなされ、そうならないように無効化されているのだ」

「そういうことだったのかよ……」


 ソフィは俺が酔わない理由を述べる。少し強いのかもしれない程度だった認識だったが、本当の理由を初めて知った。


 まさか酔いも状態異常だったとは……。通りで酔わないはずだ。


「でも流石にあの人数と同僚の酒は物理的に飲めないと思うぞ?」

「多分お主の体がどうにかするであろう」

「そこは俺の体だよりかよ……」


 酒の量に対する解決策はなくて困惑しかないが、一度言い出した以上さっきの条件でやるしかないだろう。


「我がどうにか方向を変えてやったんだから後は自分でどうにかせい」

「分かったよ。ありがとな。おかげで助かった」


 俺は自分の体を信じることに決め、俺の生活を守ってくれようとしたソフィに感謝を告げる。


「ふん。別に大したことではない。お主が忙しいと我の国を自慢できぬではないか」

「ははっ。早く行きたいな」


 プイッと頬を赤らめてそっぽを向くソフィ。


 相変わらず照れてる彼女は可愛いな。


 思わず笑いがこぼれる。


「どうせなら式典の近くの方がお祭り騒ぎになって盛り上がるであろう。時期が近づくまでもう少し待て」

「分かった」


 俺たちが内緒話を終えたら、背中に物凄い殺気を感じで振り返る。そこには俺たちを見下ろすドワーフたちが仁王立ちをしていた。


「ど、どうかしたのか?」

「ドワーフ相手に舐めた条件を出してくれたじゃねぇか!!もう後戻りは出来ねぇからな!!」


 俺はその覇気にタジタジになりながら問いかけると、どうやらソフィの条件が自分たちをバカにしているように聞こえて怒り心頭のようだ。


 酒にうるさい種族だからな。あんな挑発まがいのことを言われればこうなるのも然もありなん。


 しかし、俺も覚悟を決めたからには負けるわけはいかない。


「ははははっ。上等。受けて立ってやるよ」


 俺は立ち上がって獰猛な笑みを浮かべて虚勢を張る。


「後悔しても知らねぇからな!!」

「果たして後悔するのはどっちだろうな?」


 さらに怒りのボルテージを上げるドワーフに、見下すような態度でどんどん油を注いでいく。


「いい度胸だ!!早速始めるぞ、おい!!」

「へい!!」

「酒を持ってこい!!ありったけな!!」

「分かりやした!!」


 俺が引くことはないと分かったブリギルは、下っ端らしきドワーフに声を掛けて酒を持ってこさせた。


 俺と対戦相手用の特別席が用意され、その周りをドワーフたちが囲んだ。


「これより、ドワーフとあんちゃんの飲み比べ対決を始める!!ドワーフの挑戦者は今ここにいる者とする」

『うぉおおおおおおおおおっ!!』


 里長の宣誓により、いよいよ飲み比べが始まる。


 ここにいない奴まで挑戦者と言われると困るので最後の言葉は当然の制限だ。


「ドワーフ側の最初の挑戦者は席に着くように」

「俺が鼻っ柱を折ってやるぜ!!」

「おう!!やってやれ!!」

「里の若手でも一番つえぇお前の実力を見せてやれ!!」


 里長が指示によって俺への挑戦者席に座ったのはドワーフの中でも若そうな人物。しかし、周りからの声援を聞く限り、相当な強者だ。


 相手にとって不足なし。


 目の前には樽が置かれた。


 どうやらそのまま飲むらしい。


「両者準備を」


 若手のドワーフは立ち上がって樽を抱えた。俺もそれを真似して両手で樽を軽々と持ち上げて、いつでも飲める体勢にした。


「おいおい、あの樽を軽々と持ち上げてるぞ……」

「スーモウの時もそうだったが、とんでもねぇバカ力だ……」


 俺は樽を持っただけなのにドワーフたちが戦慄している。ただ、何を言っているのかまでは分からなかった。


「それでは……はじめ!!」

「うぉおおおおおおおおおおおおっ」


 対戦者が雄たけびを上げてから樽の縁に口を付けて勢いよく酒を飲み始めた。


 見ていてばかりではいけないな。


 俺も同じように樽を傾けて飲みだした。


「うぉおおおおっ!!すげぇ!!ドワーフでもやべぇ『ドワーフ殺し』を平気で飲んでやがる」

「そんな人間にあったことねぇぜ!!」

「とんでもねぇ奴だ!!」


 俺が飲みだしたらドワーフが騒ぎ出す。


 どうしたって言うんだ?


 俺はよくわからないまま酒を飲み続けた。


 口当たりもよくなかなか飲みやすい酒だ。どんどん飲んでしまう。しかし、不思議と腹にたまらない。


「ふべぇえええええええ……」 

「おい!!担架だ!!担架持ってこい!!」


 数十秒ほど飲んでいたら隣でバタンと大きな音と変な声が聞こえた。その後ドワーフたちが慌ただしく動き出した。


 俺は休憩がてら様子を窺うと、威勢の良かった若者が倒れてドワーフたちに運ばれていった。


「え?もう終わり?」

「はぁ!?てめぇ!!俺がやってやんよ!!」


 俺が余りに拍子抜けすると、青筋を浮かべて別のドワーフが挑戦者席に座る。


「ふべぇえええええええ……」 

「ふべぇえええええええ……」

「ふべぇえええええええ……」 


 しかし、何人俺に挑んできたところで全員が物の数十秒で意識を失ってしまった。


「おいおい、化け物かよ……」

「『ドワーフ殺し』を樽でいくつも飲んでるのに酔わないどころか、腹が膨れてさえいないとか、本当に人間なのか……」

「信じられん……」


 ドワーフたちは俺に対してもはや恐怖さえいただいているような顔になってきた。


 ちょっとやりすぎたかも……。


「ここはワシが行こう」


 しかし、沈んだ雰囲気をぶち壊すように一人のドワーフが前に進み出る。その姿は屈強なドワーフたちの中でも一回り大きく、人と大差のない体躯をもっていた。


「あ、あなたはドワーフの里最強の酒飲みノンベェさん!!」

「この人なら大丈夫だ!!」

「そうだそうだ!!『ドワーフ殺し』を数十樽飲み干したという伝説が残ってるくらいだからな!!」

「未だかつてノンベェさんに勝ったやつはいねぇ」


 ノンベェとやらが出てきてドワーフたちが先ほどまでの勢いを取り戻す。


「勝負だ。若いの」

「いつでも来い」


 ノンベェさんは挑戦者席に座り、今までの挑戦者と同じように酒を飲み始めた。言うだけあって俺と同じスピードで数樽の酒を飲みほしても未だにケロッとしている。


「ふべぇえええええええ……」 

『ノンベェさぁあああああああんっ!!』


 しかし、数十分後には他のドワーフたちと同じようにぶっ倒れてしまった。


「勝者アイギス!!」


 それからは誰も俺に挑んでくることがなくなり、勝利宣言をされた。


「もっと飲んでもよかったんだがな?」

『勘弁してください!!』


 俺が物足りなそうに言うと、ドワーフたちはその場に跪いて土下座した。


 こうして俺は無償の労働力と造酒技術を手にすることになったのである。


 ウハウハじゃないか!!


「この酒なかなか美味いの」


 一方ソフィは、酒をちびちびと飲んでわれ関せずといった様子で楽しんでいた。

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