第105話 帰還と本来の目的
あれから話を詰め、牧場に百人程のドワーフたちがついてくることになった。そんなにいらないと思ったんだが、「酒を沢山造るんだよ!!」というドワーフたちを止めることが出来なかった。リーダーは俺と一番最初に戦ったブリギルだ。
無償の労働力は手に入れたが、その代わり静かな日常が失われた気がしないでもない。
帰りはソフィに動ける赤竜たちを呼んでもらい、それらに乗って帰ってきた。流石のドワーフたちもドラゴンには驚いていたが、ウチの従業員であることを告げて宥めることでどうにか落ち着かせた。
ソフィが変身したことにも驚いていたな。
「なんじゃここは……ありえん……」
「バカな……」
「不毛の大地ではないのか……」
さらに、初めて不毛の大地にやってきてその変貌に呆然としている。
何もなかった時と比べると、今はシルの大樹を起点に畑や放牧地が広がっていて中心部はもう不毛の大地の面影は殆どないからな。それも当然のことと言える。
「それでは建造してきます」
「よろしく」
一緒についてきていたシルヴィアはエルフの住居に帰り、ドワーフの家の建造を行うための人員を確保しに行った。
現在ウチの牧場は、シルの大樹の西部分にエルフの居住区があり、竜人や赤竜たちが南西に住んでいて、北側は西から、ヒーツジ、ブゥタ、銀狼、チキンバード、ウシモーフのそれぞれの厩舎が建っている。一応その北側に北側は牧草地帯を作っておいた。
それぞれ仲良くしているし、凄く賢くて素直な動物ばかりなので、放牧地に仕切りはないし、牧場内にもやって来れる。まぁ簡単に言えば放し飼いだ。
そして東側はシルのすぐそばに俺の家がある以外は全面的に畑が広がっている。ドワーフの居住区はエルフのさらに西側に作ってもらうことにした。
エルフたちは早速やってきて、ソフィが出した木材を元に家とドワーフから要望があった醸造所、そして鍛冶場の建物を作成して再び畑仕事に戻っていく。
「それじゃあ、早速手伝ってくれるか?」
「はっ。男に二言はねぇ。早速班分けして手伝わせてもらうぜ」
「了解」
ドワーフたちの内、五十人は畑仕事。四十五人が酒造り、五人が鍛冶を担当することになった。
その班分けでも暑苦しい戦いが繰り広げられたが、そこは割愛しておく。
酒造り班と鍛冶班は勝手にやってもらって、農業班は俺達が簡単に指導したら理解して作業を始めた。
「俺達はちょっと街に行ってくる」
「分かりました」
「分かったぜ!!」
「了解しました」
滞りなく作業が始まったのを見届けた俺はようやくドワーフの里に行った本来の理由を果たすことにする。
「メェ~」
俺達はヒーツジの許に向かい、彼らを近くに集めた。
「ほらほらちゃんと並べよ。その暑い毛を刈ってやるから」
「メェ~」
―ザクッ
俺はドワーフに作ってもらったハサミで彼らの毛を切ろうとしてみると、あっさりとその毛を断つことが出来た。
流石ドワーフの作ったハサミだ。面白いように切れていく。
材料に関しては確かミスリルとか言っていた。ミスリル製の武器はかなり高くてアルバが手に入れたと時は滅茶苦茶自慢していた気がするが、今回は俺達がスーモウや飲み比べに勝った褒美に無償で提供してくれた。
一度は断ろうとしたんだが、「うるせぇ、黙って受け取っときゃいいんだよ!!」と一喝され、それ以上何かを言うのは野暮だということでありがたく頂戴することになったわけだ。
「こら、暴れるでない。怪我をするぞ」
「メェ~」
「はぁ~ったく、なんで俺がこんなことを……」
「酒出してやんねぇぞ」
「精一杯働かせていただきます!!」
俺の他にもソフィとバッカス、そして比較的余裕のあるエルフやドワーフの従業員も毛刈りを手伝ってくれた。
ソフィは楽しそうに毛刈りを始め、バッカスはぶつくさ言いながらあまり仕事をしようとしなかったが、酒を人質にしたらやる気をみなぎらせて毛刈りを始めた。
それから程なくしてヒーツジの毛を刈り終えた。
『メェ~』
「スッキリして気持ちいい。こんなに気持ちいいのは赤ん坊以来だ。と言っているぞ」
ヒーツジ達は自分たちで毛をどうにかすることが出来ないようで、久しぶりに全身の毛がなくなり、爽快感を味わっているらしい。
「それは良かったな。また伸びたら刈ってやるからな」
『メェ~』
ヒーツジが嬉しそうなので今後も定期的に刈ってやることにした。
こいつらが嫌がるならエルヴィスさんには悪いが、卸さないことも考えていたので良かったと言える。
毛を刈り終えたヒーツジ達は元気に空き地を走り回りだした。
「それじゃあ、俺は行くぜ。酒はちゃんと出してくれよな!!」
バッカスと他に手伝ってくれた人員は元々やっていた仕事に戻って行く。
俺達の傍には山のように積み上げられたヒーツジの毛。俺は思わずその毛を背もたれにして寝転んだ。
「おぉ~、この弾力は癖になるな」
「うむ。これは我が国で使っていた寝具よりも上等な物が出来上がりそうだ」
「ほう。神が使っていた布団よりも凄いのか……」
「とんでもないとんでもない布団になるであろう」
「それは楽しみだ」
その素晴らしい感触と肌触り、そしてソフィのお墨付きにより、これから出来上がる布団のすばらしさを想像してワクワクした気持ちになるのであった。
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