第103話 酒の原料とやらかし再び
「どうだ?これはドワーフが作るビールという酒だ」
「美味いな。これは何が原料なんだ?」
ブリギルが俺の横に座って肩を組んでくる。
既に酒が入り、顔を真っ赤にしていた。ドワーフは酒に強いが、ずっと程よく酔っているという感じなのだろう。
「オオムギーとホップルってやつが原料だ」
ほほう。なるほどな。
「それは植物か?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
俺はふと思いついて尋ねたら、ブリギルは頷いて首を傾げた。
「それウチの牧場で作らないか?そしたら今日渡した食材と同等の品質は保証するぞ?」
そこで俺は思いついたことを提案する。
「……それは本当か?」
飲みながら俺の話を聞いていたブリギルの動きピタリと止まり、真剣な表情で俺のほうを見て聞いてきた。
「多分な」
「おいおい!!それが本当なら最高のビールが出来るってことじゃねぇか!!」
「そういうことだ」
「くぅ~!!たまんねぇなそれは!!」
俺の言っていることが真実だと理解したブリギルは、最高のビールができるかもしれないと聞いてワクワクとした表情が隠せなくなっている。俺もその表情を見てニヤリと笑う。
「おい!皆聞いてくれ!!あんちゃんが出してくれた食材と同等の品質のオオムギーとホップルが手に入るらしいぞ!!」
しかし、まだも確証もないのにも関わらず、すぐに他のドワーフたちに聞こえるように叫んだ。
「なんだと!?」
「マジかよ!!」
「すぐに俺達に売ってくれ!!金はいくらでも出す!!」
それを聞いていたドワーフたちが俺の許に集まってくる。
「いやいやちょっと待て。まだ確定じゃないし、そんなに沢山は卸せないと思うぞ?」
「おいおい、俺達を期待させておいてそれはないんじゃないか?」
ブリギルの一言で収拾が付かなくなった。
やべぇ!!またやってしまった!!
「そうは言ってもな。実際に作ってみないとどうなるか分からんし、今は他の事で手いっぱいでな」
これ以上忙しくなりたくない俺は、適当な言い訳を並べて逃れようとする。
「よーし、分かった。それなら俺達の中で手が空いてる奴が手伝うってのはどうだ?」
しかし、ドワーフの酒への情熱はその程度のことで揺らぐようなものでなく、自分たちが手伝いに来るという。
くっ。そうなると忙しいという言い訳を使うことができない。
「それならまぁ……」
「少し待て」
俺が答えようとしたとき、ソフィがその言葉を遮った。
「なんだあんたは」
「我はソフィーリア・オニキス・ドラクロア。こ奴の連れである。お主たち、人数にかこつけて寄ってたかって取り囲んで脅すのがドワーフのやり方なのか?」
ブリギルの逆側で静かに飲んでいたソフィが名乗り、ドワーフたちを挑発するように睨みつける。
「なんだと!?」
「我の言ってることが間違ってるとでも?」
「くっ……。どうしろと言うんだ?」
挑発に乗って立ち上がり、憤慨するブリギル。しかし、実際自分たちがやっていることがソフィの言う通りなので、ソフィの要求を聞く。
「ここはひとつ勝負で決めたらどうだ?」
「勝負?スーモウか?それならワシらに勝ち目がない」
提案するソフィに対してヤレヤレと言った態度で鼻息をフンと吐いた。
「いや。お主たちは酒に強いのであろう?」
「ああ。ワシら以上に酒に強い種族はいねぇ」
「それならこ奴と飲み比べをして勝ったらお主らの要望を受け入れよう。お主たちから手伝いをしてもらう代わりにアイギスの牧場で作った食材を提供しようではないか」
「負けたら?」
ソフィからの新しい持ちかけにピクリと眉を動かしてさらに条件を尋ねるブリギル。
「お主達には労働力を提供してもらい、さらに牧場でウチで作っている農作物を使って酒を造ってもらう」
「それじゃあ負けても俺らにいいことばかりじゃねぇか」
ソフィの話を聞いただけではドワーフ側に有利な条件ばかりだ。
「そんなことはない。勝てば労働力を提供してくれた代わりにその対価分の食材を納品するが、お主らが負けた場合は、労働力と知識や技術を無償で提供してもらう。食材と酒が欲しければ別途対価を払って買ってもらう」
「なるほどな……」
そういうことか。
ドワーフたちが負けたら、仕事を手伝わなければいけない上に、農作物と酒が出来たとしても自分たちの物にはならないということらしい。
でもそれは負けた時のドワーフが側のダメージが大きすぎる気がするけどな。
「酒に絶対的な自信のあるお主らがこの勝負から逃げるようなことはせぬよな?」
ソフィは悩むブリギルに追い打ちをかけるように挑発をする。
「あったりめぇだ!!長、当然、その話受けるよな!!」
挑発に乗ったブリギルが里長に向けて叫び、他のドワーフたちも長に注目した。
「はぁ~、ここまできたら仕方あるまい。まんまとやられましたな」
「なんのことかであろうか」
「ふぉっふぉっふぉ。まぁいいでしょう。分かりました。その話を受けましょう」
「うむ」
いつものようにやらかした俺だったが、ソフィのおかげでいい方向に進んだみたいだ。
飲み比べをすることになったため、ドワーフたちは慌ただしく動きはじめ、すぐに酒が用意された。
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