第090話 牧場の異常性

「かぁあああああ!!うめぇ!!」


 俺は牧場に戻った後、家の前にあるエルフ製の切り株型の椅子と木の枝が渦を巻いたようなテーブルについて酒を振るまえば、バッカスはぐびぐびと飲み干してテーブルにドンとコップを置いた。


「そりゃあ良かったな」

「ああ。助かったぜ。ずっと飲んでなかったからな。命の水である酒が無かったら今日死んでたわ」


 わざとらしく体を震わせるバッカス。


「流石に大げさすぎだろ」

「何言ってんだよ。酒の無い生活なんて生きてる価値ないだろ」


 俺がジト目で睨んだら、バッカスは鼻で笑って答えた。


「よくそんなんで兵士とかやってられんな」

「これがあるからな」


 呆れかえって当然の疑問を問いかけるが、バッカスは二の腕をポンポンと叩いて見える。


 どうやら強さがあるって話らしい。


 俺には大してその強さが分からなかったけどな。


「それで?ここに調査に来たならもう牧場のことは分かったんじゃないのか?」

「いーや、まだだな」


 俺としてはようやく仕事が自分の手から離れ、のんびり生活を送ることができそうな時にやってこられて迷惑この上ないのでさっさと帰って欲しいので


「ここはどう見てもただの牧場だろうが」

「はぁ!?何言ってんだよ。お前みたいな化け物が主をしている牧場が普通なわけあるか」

「どこがだよ」


 全く心外な発言をするバッカスに具体的におかしな点を尋ねる。


「まずなんだよ、あのバカでかい木は?」

「深淵の森で貰った種から生えた木だが?」


 ん?あの木は確かに大きいけど、普通の木じゃないのか?


「そんなこと聞いてんじゃねぇよ。なんでそんなもんがここに生えてるかって話だ。そもそもなんであのビクともしない地面がなくなってんだよ」


 あぁそういうことか。


「そりゃあ俺が拳で割ったからだが?」

「はぁ……お前が一番やべぇってのはマジだったみてぇだな」


 俺が自分の拳を持ち上げて握って見せたら、天を仰ぐようにして手で目許を覆うバッカス。


「なんでだよ」

「ソフィちゃんからこの地盤のこと聞いてんだろ?」

「この地盤がソフィも割れないって奴か?」


 バッカスの質問に思い当たるのこれくらいだ。


「それだ。あの嬢ちゃんはこの世界でもトップクラスの実力者なのは間違いねぇ。そいつでも割れない地盤を割るお前はなんだって話よ」

「ただの牧場主だ」

「そんな牧場主がいるか!!」


 至極真面目に答えたのに何故か思いきり突っ込まれた。


「いてぇ!?」


 俺にツッコミを入れた方が手をフーフーと覚ますような仕草をして、痛みを和らげようとしている。


「何やってんだよ……」

「おまえがおかしすぎんだよ!!」

「はいはい。それで?他には?」


 俺がまたジト目で返事をしたら、俺を罵倒するように叫んだ。俺はそれを適当に流して他に異常な点を聞く。


「そうだな。なんでシルバーフェンリルが群れでこっちを見ているんだ?」

「ん?銀狼のことか?そりゃあ飼ってるからだが?というか銀狼はシルバーフェンリルって名前だったのか」


 もう日も暮れてきてご飯の時間も近いので戻って来たわけだが、バッカスの相手をしていると銀狼達の餌が準備できない。


 だから早く終わらないかなぁと待てをしている状態というわけだ。


 それにしても銀狼だと思っていた狼は、どうやらシルバーフェンリルという種族名だったらしい。


 どっちでもいいけど。


「知らなかったのかよ!!というかなんで周り囲んでんだよ、怖すぎんだよ。いつ襲い掛かられるか分かったもんじゃねぇ」

「はぁ!?モフモフで可愛いだろうが!!」


 しかし、怖いとか言うので俺は断固否定した。


 あんな人懐っこい銀色のモフモフのどこが怖いって言うんだ!!


「こいつら単体ならまだしも群れになったら俺でも勝てねぇんだよ!!そんな相手に囲まれてたら怖いに決まってるだろ!!」

「はぁ……しょうがない奴だな。それじゃあ、こいつらに餌やってくるから、ちょっと待ってろ。ソフィ。なんか適当に出してくれ」

「うむ」


 全くこれで腕っぷしを買われて兵士をしているっていうんだから、クーデル王国も末だなと思ってしまった。


 俺は仕方がないので銀狼達の餌を先に済ませてくることにして席を立つ。


「とりあえずそれでも食って待っててくれ」


 その前に、酒だけじゃ口が寂しいと思い、隣でうつらうつらと船を漕いでいるソフィに亜空間倉庫からキャベッツと塩を出してもらってドンとバッカスの前に置いた。


「これは?」

「ウチで取れた野菜だ」


 置かれた野菜をジッと見つめた後、俺を見上げて尋ねるバッカス。俺は当り前の事を答える。


「いや見りゃあ分かるが、どうやって食うんだ?」

「そのままかぶりつけばいいだろ?」


 こいつは一体何を言っているんだろうか?

 そんなの当然だろうに。


「調理は?」

「しらん。嫌なら食うな」

「へいへい」


 まさか調理などという高等技術を求めてくるとは一体何様なんだ。俺はそれ以上は構うつもりもないので、さっさと銀狼達の餌をやりに行った。


 銀狼達は一斉に俺の後を着いてきた。


 ソフィ一人を置いてきたからさっさと終わらせて戻ろう。


 ソフィよりも弱そうだから何もできないだろうが、それでも女の子を一人で残しているという事実に変わりはないので、俺はサッサと終わらせるため、足早に目的を目指した。

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